第74話 3回目のデート(その15)
「言いにくいことなのかな?」
「あっ」
仁と頼子はゴンドラの中で向き合って座っていたが、なかなか次の言葉を出さない仁に対して痺れを切らせ、椅子から立ち上がり、クルリと向きを変えて仁の隣に座った。
「その……、カップルかな」
「そっか、そっか。兼田君はそう思っているんだね」
「月見里さんはどう思ってるの?」
「えっ?」
仁は恥ずかしそうに答えた後、同じことを頼子に尋ねてきた。逆質問されるとは思っていなかった頼子は突然のことに驚いてしまった。
(親子ほど年が離れているから、最初は子を見るつもりでいたのだけど。私はこのまま兼田君と一緒の時間を過ごしたい。でも……)
仁に質問されたことで、頼子は自分の気持ちについて考え直した。初めは同年代の子供を持つため、子供のように見ていたが、頼子自身は仁を男性として見ていたことに改めて気付いた。
「「あっ」」
仁と頼子はふと視線をそらすと、その先に見えたのは違うゴンドラで、そこでは男女がキスをしていた。
「月見里さん」
「兼田君」
仁と頼子はそれを見てお互いのことを余計に意識してしまった。徐々にお互いの顔が近づいていた。
「その、いいかな?」
「はい」
仁は頼子に確認を取り、了承が得られたことでお互いの唇が重なった。
(女の子の唇ってこんな感触だったんだ)
(いけない、思わずその場の空気に流されてしまったわ。ああ、でも、すごく幸せな気持ち。もう少しだけ味わっていてもいいわよね?)
仁は初めて女性と唇同士が触れたことに、心臓がバクバクしているのを感じるほどであった。一方、頼子はその場の空気に流されてキスをしてしまったことに罪悪感を抱いていた。
「んっ」
「ぷはっ」
仁と頼子は、しばらく抱き合ったまま、お互いの唇の感触を味わい、それから程なくして唇同士が離れた。
「月見里さんのことが好きです」
「私も兼田君のことが好き。でも……」
仁は今がチャンスだと思い、抱き合ったままの状態で頼子に告白した。すると頼子も正直に気持ちを話してから、隠していたことを伝えようとした。
ガコン
「「あっ!」」
頼子が何か言おうとしたタイミングで、突然観覧車が停止してしまった。
「月見里さん、きっとすぐに動き出すと思うよ。心配しなくてもいいから。こうしていれば平気だよ」
「……兼田君」
突然停止して不安な気持ちになっているだろうと察した仁は、頼子を抱き寄せて安心させるように言った。それを聞いた頼子はずっと一緒にいたいという気持ちでいっぱいになっていた。
「ちゅっ」
(もう、兼田君ったら)
仁は頼子を更に安心させようと、2回目のキスを頼子の唇にした。唇を奪われた頼子は、本当のことを話ささなければならないが、今はもう少しこのままの状態でいたいと思ってしまっていた。
「お客様にお知らせします。乗車中のトラブルにより当観覧車は安全確認のため緊急停止しました。お客様には大変ご迷惑とご心配をお掛けしました。間もなく再開致しますので少々お待ちください」
仁と頼子は、観覧車が停止したことで、不安を紛らわせるようにお互いの唇を求め合った。すると、ゴンドラに備え付けられているスピーカーから係員の声が聞こえてきた。
「すぐに動き出すみたいだね」
「そっ、そうね」
良い雰囲気になっていた仁と頼子であったが、その放送で現実世界に引き戻され、お互いのことを意識してしまった。頼子はサッと席を立ち、元いた席の方に戻ってしまった。それから間もなくして観覧車は再度動き始めた。
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