第73話 3回目のデート(その14)
「あのー、機嫌を直してくれませんか?」
「知りません。ぺろっ」
仁と頼子はベンチに座ってソフトクリームを食べていた。重さのことで機嫌を損ねた頼子に対し、仁はソフトクリームを与えて機嫌を取る作戦に出た。だが、その効果も薄いようで、頼子は不機嫌な顔をしながら白いソフトクリームをペロペロ舐めていた。
「あの人が軽かっただけで、月見里さんが凄く重いという意味で言ったわけじゃ」
「へぇ、そうなんですか? それに、こんなものを私に与えて、更に太らせようとしています?」
頼子はソフトクリームをすべてお腹の中に入れた後で、仁の取った行動について問い詰めた。
「そういうつもりでしたわけじゃ」
「今まであまり気にしていなかった私にも非があるし、今回は許します」
頼子は、突然起こったハプニングで、思わずカッとなって言ってしまった。思い返すと、必死に女手1つで娘を育てていたため、日常生活で体重のことを気にしている暇がなかったため、今回改めて自身の体型を見つめ直す機会を得たということで矛を収めることにした。
「ごめんなさい。少し空気を悪くしてしまったわね。気を取り直して閉園時間まで遊びまくるわよ」
頼子は気持ちを切り替え、仁と一緒に閉園時間ギリギリまで遊ぶことにした。
「月見里さん、閉園時間が迫ってきたから、次が最後になりそうだね」
「そうね。もう少し遊んでいたかったのだけど、仕方ないわね。最後はアレにするわよ」
この遊園地の閉園時間は午後5時で、夜間営業は行っていない。頼子は帰宅してから夕食の支度をしなくてはならないため、この時間で閉園するのは都合が良かった。多少のトラブルはあったものの、2人は楽しく遊園地での時間を過ごし、お互いいろいろな表情が見られてとても満足していた。そして、意図的に残していたアトラクションを最後に乗って終わらせることにした。
「うーん、みんな考えることは同じなのかも」
「そっ、そうみたいね」
仁と頼子が並んだのは観覧車の乗車列であった。巨大な円形のフレームにゴンドラが取り付けられ、遊園地のランドマークとして使われている有名なアトラクションである。仁と頼子のように、男女で最後に乗ろうと考えていた人達が列を作っていた。家族連れの人達はこの時間帯になると帰路についていることが多く、周囲のカップル率がとても高くなっていた。
「どうぞ、足元に気をつけてください」
列は長いが回転率は高いようで、列の進みは思いのほか早く、仁と頼子の順番が回ってきた。係員の案内で2人は観覧車のゴンドラに乗り込んだ。
「この観覧車のカップル率って凄く高いね」
「そうね。私達はまわりからどう見られていたのかしら?」
仁は列に並んでいるときに言えなかったことを、2人になったところで言ってみた。すると頼子は悪戯っぽい表情を浮かべ仁に聞き返した。
「……その、えっと」
仁は頼子の問いに、答えは決まっていたが、なかなか言い出せなくなっていた。
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