第72話 3回目のデート(その13)

「助けてくれてありがと。私もこれくらい格好いい彼氏欲しいなぁ」

「え?」

「あげないわよ」

「あははは、そんな怖い顔をしなくても取らないから安心して」


 お化け屋敷を無事に脱出した3人は、日の当たる世界に戻ってきた。背負っていた女性は仁の背中から降りてから、仁と頼子にお礼を言った。女性は仁の行動に感動したようで、仁と頼子が一緒にいるのを羨ましそうに言った。


「おい、俺の彼女から離れろ!」

「えっ?」


 3人で話をしていると、突然、仁に対して強い口調で話しかけてくる男がいた。


「お前、俺の彼女のお尻を触っていただろ」

「それは背負っていたから仕方なく」

「言い訳なんか聞きたくない」


 その男は、仁と一緒にいる女性と一緒にお化け屋敷の中に入っていった彼氏であった。仁が彼女を背負った状態でお化け屋敷から出てきたところを見ていたようで、かなり怒っている様子であった。


「元はと言えば、アンタが私を置いて逃げたからでしょ? この人は私を助けてくれたのよ。感謝することはあっても怒る相手じゃないわ」

「だっ、だが……」


 そこに女性の方が彼氏に対して文句を言った。それは正論であった為、男の方は何も言い返せない状態になっていた。


「彼女を置き去りにして逃げるなんて最低ね。アンタとは今日限りよ。いままでありがとう。さよなら」


 女性の方は、男の態度が気に入らなかったようで、別れ話をしてきた。


「助けてくれてありがと。それじゃあね」

「おい、まてよ。俺の話を聞いてくれ!」


 女性は仁と頼子に小さな声でお礼を言った後、クルリと反転して出口の方に向かって歩き始めた。すると元彼氏はそのあとを追っていった。


「兼田君」

「なに?」

「あのギャル子ちゃん、兼田君のことを気に入っていたみたいね。そ、れ、に、兼田君もあの大きな胸が背中に当たっていて、鼻の下が伸びていたわよ」

「そっ、そんなことは」


 仁が背負っていた女性の胸はとても大きかった。彼女を背負っていたとき仁もその存在に気が付いていた。改めて頼子に指摘されて返事に困ってしまった。


「私も同じ距離を背負ってもらおうかなぁ」

「えっ? ここで?」

「もち、ろん、よ」


 頼子は対抗心を燃やし、仁に対し同じように背負って欲しいとお願いした。暗いお化け屋敷の中とは異なり、公衆の面前でこのようなことをすると、とても目立ってしまうため仁は悩んでしまった。


「じゃあ、どうぞ」


 仁は諦めて、頼子に背中を向けて体を少し落とし、乗れるような体勢を取った。


「ちょっと対抗したくなったから言ってみたのだけど、せっかくだからお言葉に甘えて。えいっ」

「ぐっ、重い」

「しっ、失礼ねっ、男の子だったらそれくらい気にせず立ち上がりなさい」


 お化け屋敷の中で背負った女性は、相当ダイエットを頑張っていたのか、とても軽かった。それと比べて頼子は少し重く感じたため、思わず仁は声を漏らしてしまった。それを聴き逃さなかった頼子はバシバシと仁の背中を叩き、立ち上がるように指示を出した。

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