第71話 3回目のデート(その12)
「いやーっ! こないでぇ!」
仁と頼子が先に進み、その先にあった扉を開けた。すると、座り込んでいる女性のまわりをお化けに扮した数人のスタッフさん達が取り囲んでいた。女性はスタッフさん達をお化けだと思い込み、混乱している状態であった。
「あのー、助けないんですか?」
仁は見ているだけのスタッフさんの行動が気になり、1番近くにいた人に声を掛けた。
「実は、急病人や怪我人でなければ私達は手を出せない決まりなんです。脅かすときも決して手を触れてはならない。今は怖がって座り込んでいるだけなので、私達は見守ることしかできません。本当はお客さんと会話をするのも控えるように言われているんですけどね」
仁が声を掛けた脅かし役の老婆に扮した人は、女性で予想外に若い声であった。本当はお客さんと会話をしてはいけない決まりらしいが、親切に質問に答えてくれた。
「触れてはいけないと言っていましたけど、私の手を握ってきませんでした?」
「ごめんなさい。あまりにも仲良くしていたので、思わず悪戯しちゃいました。他の人には言わないでくださいね」
頼子はこの女性に手を握られたため、そのことについて質問した。声は可愛いのだが、見た目は血まみれの老婆のため、仁と頼子はそのギャップにた惑ったが、事実を認め素直に謝られたため、何も言い返せなくなっていた。
「そのような決まりがありますので、できればお客様の方で対応していただけると、こちらの方も助かります」
「そうですか。わかりました」
仁が手伝う意志を伝えると、老婆役の女性が合図を送り、座り込んでいる女性を心配したスタッフさん達は少し離れ、仁と頼子が入れるくらいのスペースを作ってくれた。
「あのー。大丈夫ですか?」
「えっ? あっ、こっ、怖かったよぉ」
仁はその女性の前にしゃがみ込んで尋ねると、お化けではない普通の人が目の前にいることに気が付き抱きついてきた。
「とりあえず、ここを出ようか?」
「怖くて立てない。おんぶして」
「え?」
女性は恐怖心で立てなくなり、仁に対して背負って欲しいと要求してきた。
「月見里さん、彼女の荷物をお願いして良いかな?」
「仕方ないわね。彼女のことを頼んだわよ」
仁は頼子に彼女の鞄を持つようにお願いし、頼子もそれを受け入れた。
「それじゃ、背負うよ」
「ありがと」
(見た目はギャルでも女の子なんだな)
仁の背中に彼女がゆっくりと体を預けてきた。すると、少しきつめの香水の香りが鼻をくすぐり、柔らかい感触と体温が伝わってきた。
「それじゃいくよ」
「うん」
仁は彼女のお尻を手で支えながら立ち上がった。そして出口の方に向かって歩き始め、その後を頼子が付いて行った。
「たくさんのお化けに囲まれたとき、あの男、私を置いて逃げたのよっ、あんな奴、彼氏じゃないわ」
「そっ、そうなんだ」
仁の背中に乗って移動をしていた彼女は、次第に落ち着きを取り戻してきた。すると逃げた彼氏の文句を語り始めた。
「そろそろ出口みたいだよ」
しばらく暗闇の中を歩いていると、出口に差し掛かった。
「「きゃっ!」」
「うわっ!」
そこで安心させておいて、最後のエアー攻撃を浴びた3人は驚きの声をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます