第76話 寄り道デート(その1)
「……マーケットまでお願いします」
「かしこまりました」
仁と頼子はタクシーに乗り込み、頼子がタクシーの運転手に行き先を告げた。すると運転手は本部に無線で行き先を告げた後、料金メーターのスイッチを入れ空走から賃走に表示が切り替わり、運賃が表示された。
「やっぱり、電車よりもタクシーが快適だね」
「今日はいっぱい遊んで少し疲れてしまったわ。このまま電車で立ったまま帰るのはキツかったかもしれないわ」
仁と頼子は、混雑する電車ではなく、確実に座って移動できるタクシーを利用したことに、改めて有り難みを感じていた。
(あっ、もう運賃が4桁になっている)
頼子はタクシーが走り出してから、料金メーターに表示されている初乗り運賃から金額が動き出したところで、少し時間が経過するごとに数十円ずつ上がっていくのが気になっていた。その動きはまったく止まる様子もなく、あっという間に4桁の数字が表示されるようになっていた。
(また上がった。目的地に着くときはいくらになっているのか怖いわ)
頼子は、運賃は仁が払うとわかっていても、料金メーターが気になっていた。
「月見里さん、お金のことは気にしなくて大丈夫だから」
「ええ、わかっているのだけど、つぎつぎ上がっていくのを見ると気になってしまって」
頼子はふだんは仁を包み込むようにあたたかく接しているが、お金に関しては苦労しているため、頭でわかっていてもなかなか気持ちが切り替えられなかった。仁はそのような頼子の視線に気が付き、改めて心配しないよう声を掛けた。
(私は兼田君を頼っても良いんだよね?)
頼子はそう思って仁の手を握ると、仁もそれに応えるように握り返した。
「こちらでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます」
仁の温かい手に包まれ、頼子は安心していつの間にか眠ってしまっていた。目を覚ましたのは、タクシーは目的に到着し、仁がちょうど支払いをしているところであった。
「あっ、ゴメンなさい。私ったら、寝てしまっていたわ」
「遊び疲れたのかなって思って、寝顔を見ていたよ」
「はっ、恥ずかしい」
頼子は寝てしまったことに対し謝罪したが、水族館に行ったときも同様のことがあったため、仁はまったく動じていなかった。
「荷物持ちくらいはするから、このまま付いて行っても良いかな?」
「えっ? そこまでしなくても大丈夫よ」
「迷惑じゃなければでいいけど、もう少し一緒に居たいなって思っただけなんだ」
仁と頼子はタクシーを降りてから、買い物に行こうとした頼子に対し、仁はついていっても良いかと尋ねた。
「迷惑ではないけど、食材を買うだけよ?」
「構わないよ。そうすると、もう少し一緒に居られるね」
頼子はこの場で解散するつもりであったが、仁の申し出により少しだけデートを延長することになった。
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