第54話 ストーカー?(その14)

「昨日は月見里さんを困らせてしまったし、約束はしていないけど昼食の時間に合わせて、お詫びの品を買って持って行こう」


 翌朝、仁は昨日同様少し早く家を出て、昼食用の食材を買うため24時間営業のスーパーマーケットに向かっていた。昨日の昼休みは音羽と過ごす時間が中断する形になり、この日の昼休みを一緒に過ごす約束はしていなかった。だが、無意識のうちに音羽の口元に付いた生クリームを舐めてしまったことで、彼女を困らせてしまったことは明白であり、そのお詫びの気持ちを込め、昼食時に差し入れをしようと思い行動に移していた。


「あっ、あのー」


 仁が目的のスーパーマーケットに到着し、店内に入ろうとしたところで声を掛けられた。


「えっ? やっ、月見里さん。どうしてこんなところに?」


 学校が始まる時間までは少し余裕があり、家から昼食を持参している音羽とはこの場所で接点がなく、仁は突然の遭遇に驚いてしまった。


「昨日、同じ時間帯にこの場所で兼田君の姿を見たから、今日も来るかなって思って待っていたの」


(月見里さんが僕のために待っていてくれたなんて、凄く感激してしまったよ)


「かっ、兼田君、どうして急に泣き出すの?」

「僕を待っていたなんて言われて、嬉しくなってしまったんだよ」


 仁は、学校ではあまり好意的に接して貰えなかったため、早い時間帯に会うために待っていてくれたことが嬉しくなった。思わず涙まで浮かべてしまい、彼女は驚いた表情を浮かべていた。


「ところで、その恰好はどうしたの? 今から学校に向かうようには見えないけど?」


 仁は目の前にいる彼女は、私服姿で学校の制服を着ていなかった。そのことを疑問に思い尋ねてみた。


(兼田君に会うことばかり考えていて、服装まで気が回らなかったわ)


「えっ? あっ、えっ、えっとね。そっ、そう、バイトの帰りなの。今から家に帰って支度をして学校に向かおうかなって。あはははは」


 仁に話しかけたのは音羽ではなく頼子であった。彼女は昨日同時間帯に仁の姿をこの場所で見かけたため、この日も来るかもしれないと思い、少し早めに家を出て張り込んでいた。会って話がしたいという気持ちが強かったため、服装のことまで気が回らず、仁に指摘されたことで、苦し紛れにバイト帰りだと伝えてしまった。


「そっか、頑張ってるんだね。お疲れ様。それで、僕に用があるんだよね?」

「そっ、そうなのよ。次の日曜日に会えないかなって聞きたくて。急に言われて困るかな?」


 今日は金曜日で、日曜日は明後日になる。急に会いたいと言っても既に予定が入っている可能性があり、頼子は遠慮がちに仁に尋ねた。


「それなら待っていないで学校で聞けば良いと思うけど?」

「そっ、それはそうなんだけど」


 仁は話している相手が音羽だと思い込んでいた。それを知っている頼子は仁の言うことは正しいが、学校に行っているのは音羽のため、頼子は関われず困った表情で答えた。


「特に予定は入っていないから大丈夫だよ」

「よかった。断られるかもしれないってドキドキしちゃった」

「場所と時間は先週と同じで良いかな?」

「構わないわ。ありがとう。また、一緒に楽しみましょうね」


 頼子は無事、仁と会う約束を取り付け、嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべていた。

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