第52話 ストーカー?(その12)

「名残惜しいけど、これが最後のひと口ね。はむっ。はあああぁ」


 音羽はフルーツサンドの味を堪能し、最後のひと口を食べた。久々の満腹感にお腹も心も癒やされていた。


「兼田君、ごちそうさま」

「こちらこそ、ごちそうさま。おにぎり美味しかったよ」


 仁も音羽から受け取った白おにぎりを美味しくいただいた。


「私は昼休みが終わるまでここにいるけど、兼田君はどうするの?」

「僕も月見里さんと一緒に居たいから、ここにいて良いかな?」

「な、な、な、何言ってるのかなぁ? そんな恥ずかしい台詞よく言えるわね」


 音羽は仁に今後の予定を尋ねた。仁は一緒に居たいと告げると、音羽は顔を真っ赤にして動揺していた。


「私を食べ物で釣る気ね。それに屈するほど安っぽい女じゃないわよっ」


 音羽は仁が企んでいることを予想して、予め自分の意志を仁に対して伝えた。


「月見里さん」

「何よ?」

「口のまわりに生クリームが付いている」

「ばっ、バカっ! そういうことは早く言いなさい。今まで生クリームを付けたまま兼田君と話をしていたなんて恥ずかしい」


 仁は音羽の口元に生クリームが付いているのが気になっていた。それを本人に伝えようか悩んだが、そのまま教室に行ってしまうと余計に恥ずかしい思いをすると考え、伝えることにした。


「とっ、取れた?」

「まだ残ってる」

「取れた?」

「まだ」


 音羽は懸命に口元に付いた生クリームを指で取ろうとしていた。だが、少し残っていたところがなかなか取れなかったため、仁に何度も取れたか尋ねていた。


「ウキー! 生クリームのくせに生意気だわ」

「生だけに?」

「うっさいわね。そんなくだらないダジャレが言えるのなら、兼田君が取りなさいよ」

「いいの?」

「このまま教室に行けないでしょ。はい、とっとと取りなさい」


 音羽はそう言って目を閉じて仁の方を向いた。


「しっ、失礼します」


 ぷにっ


(月見里さんの唇が触れちゃった。プリッとして柔らかかった)


 仁は音羽の口元に付いた生クリームを指先で取るときに、柔らかい唇に触れてしまった。その感触が仁の指先に残っているような気持ちになっていた。


「とっ、取れたよ」

「ありがとう」


 ぺろっ


「あ、あ、あ、アンタねっ、何さりげなく私の口元から取った生クリームを舐めてるのよっ」

「あっ、ゴメン。無意識にやってしまった」


 仁は音羽の口元からすくい取った生クリームをそのまま舐め取ってしまった。それを見た音羽は顔色を変えて抗議してきた。


「もう恥ずかしくていられないよぉ。うわーん」

「あっ、月見里さんっ」


 音羽は恥ずかしさのあまり、この場にいられなくなり、荷物をまとめて階段を下りていった。


「シェアして食べるのは大丈夫なのに、こういうのは恥ずかしく感じるのかな。うーん、女の子の気持ちって良くわからない」


 頼子は仁とシェアして一緒に食べることに抵抗がなかったが、音羽はそのような経験がないため、口元に付いていた生クリームを取って舐めただけで、とても恥ずかしく感じていた。同じ人物だと思っている仁にとっては、音羽がなぜあのように恥ずかしがったのか理解できなかった。

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