第51話 ストーカー?(その11)

「この商品は、凄く種類があって、買うときに悩むけど、今日は定番のピーナッツクリームとツナにしてみたんだ」

「へぇ、そうなんだ」


 仁はスーパーマーケットでたくさんの種類が並んでいた中からピーナッツクリームとツナが中に入ったものを選んだ。音羽はその話を興味なさそうに聞いていた。


 じー


(ん?)


 ひょい


(ん?)


 仁は、ふと音羽の方を見ると、彼女の視線がピーナッツクリームの入った方に向いていることに気が付いた。それを確かめるためにピーナッツクリームの入ったおひるのサンドを上下左右に動かしてみると、音羽の視線はそれに合わせるように動いていた。


「もしかして欲しい?」

「そっ、そっ、そんな訳ないでしょ? フルーツサンドをもらったのに、これ以上贅沢なんて言えないわ」


(食べたかったんだ)


 仁が尋ねると、音羽は悟られないように慌てて否定した。だが、その表情からとても食べたそうにしているのが仁にも伝わってきた。


「それじゃ、月見里さんの白おにぎりと交換しない?」

「えっ? 良いの? 白おにぎりだよ?」

「美味しかったから、もう1つ欲しいなって思ったんだ」

「し、し、仕方ないわね。それじゃ、交換してあげるわ」


 交渉が成立し、仁はピーナッツクリームが入った方のおひるのサンドと音羽の持っている白おにぎり1つを交換した。


「はむっ、シンプルな塩味だけど美味しい」


 仁は音羽から受け取った白おにぎりを口の中に入れた。すると1つめを食べたときと同じようにあたたかく包まれるような味がして、幸せな気分に浸れた。


「ピーナッツクリームってどんな味なんだろう。はむっ、んーっ、甘くてザラザラ感があるわ。それがすぐに口の中でとろけていくわ。初めての食感で美味しいっ」


 音羽は、幼い頃より甘いものを食べられるような環境に育っていなかったため、普通に売られている商品であっても、とても美味しく感じて、幸せな気分が顔に溢れ出ていた。


(月見里さんが幸せそうに食べているのを見ると嬉しくなるなぁ)


 仁は音羽が幸せそうに食べているのを見て、良かったと感じていた。


「紅茶も美味しくて、幸せな気分。はっ、なっ、何も言っていないわよっ」


 音羽は紅茶をひとくち落ち着いたところで、思わず口走ってしまったことを思い出し、少し恥ずかしくなってしまったため、仁に誤魔化すように言った。仁はそれを微笑ましく思いながら、たまごの入ったおひるのサンドを食べていた。



「よし、たっ、食べるわよ」


 そして音羽は、最後に残ったフルーツサンドの包装を剥がして、細心の注意を図りながら中身を取り出した。


「はむっ。ふぁ、ふぁひほれぇ」

「月見里さん、食べるか話すかどちらかにした方がいい気がするよ」

「んぐっ、余計なお世話よっ。あんたが余計なことを言うから、じっくり味わう前に飲み込んでしまったわ」

「ごめん」


 仁は口の中に食べ物を入れたまま、言葉を発そうとしていた音羽に対してそれとなく注意すると、音羽は逆ギレしてしまい、仁が謝ることになってしまった。


「ちょっとカッとなってしまったわ。ゴメンなさい。凄く美味しいよ。イチゴとキウイフルーツそのものが持つ味を生クリームが引き立てる感じで、ケーキを食べているような気がするよ。私のために買ってきてくれて本当にありがとう」

「月見里さんが喜んでくれる顔を見られただけで、僕は嬉しく思うよ」


 ひと口目をじっくり味わえなかったことで、仁を怒ってしまったが、冷静に考えると自分が買ったものでないことを思い出し謝罪した後、素直な感想を述べた。

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