第50話 ストーカー?(その10)
「これで許してあげる。これくらい安いものでしょ」
(思わずノリで言ってしまったけど、本当に出してきたらどうしよう)
音羽は仁に向けて右手人差し指を1本立て、妥協案を提示した。これは話の流れで出してしまったもので、本当に徴収と思ったものではなかった。
「本当にごめん。ちょっと待ってて」
仁はそう言って財布を取り出して、中から四つ折りにしてある紙幣を1枚、音羽に手渡した。
「ふん、まあ良いわ受け取ってあげる」
(昼食が終わったら、冗談だって言って返さなきゃ)
音羽は仁から受け取った折りたたまれたままの紙幣を、そのまま制服の上着ポケットの中に入れた。その紙幣は昼食が終わったタイミングで返却する気でいた。
「兼田君、そんなところに立っていないで隣に座りなさいよ」
「おっ、お邪魔します」
音羽は座っている横をポンポンと叩き仁を誘った。
「あっ、そう、そう。昨日のことをお母さんに話したら、兼田君のためにおにぎりを1つ持たせてくれたわよ。食べないのなら私が食べるわよ?」
音羽は頼子から言付かったとおり、仁に白おにぎりを1つ差し出した。
「ありがとう。それじゃもらうね。そうだった。飲み物を用意したけど、紅茶とコーヒー、どっちが良い?」
「えっ? いいの? うーん、それじゃ、紅茶をもらおうかな」
仁は通学途中で購入したスーパーのレジ袋の中から、紅茶の入ったペットボトルを取り出して音羽に手渡した。
「白おにぎりのお礼にこれをあげるよ」
仁は音羽に渡そうと思い、予め購入しておいたものを手渡した。
「これってサンドイッチね。えーっと中身はふっ、フルーツサンドだわ。いいの?」
「良いよ。月見里さんのために買っておいたものだから遠慮なく食べて」
「後で返してって言っても返さないわよっ」
音羽は中身を確認すると、イチゴやキウイフルーツが生クリームとパンで挟んで作られたフルーツサンドであった。本当はすぐに食べたいという衝動に駆られたが、頼子の作った白おにぎりがあったので、先にそちらの方から食べることにした。
「「いただきます」」
仁と音羽は一緒に白おにぎりを食べ始めた。
「美味しい。同じ白おにぎりなのに何か昨日のより美味しく感じる」
「そう? 私は同じようにしか思えないけど、うーん、何か違うものが入っている……ということはなさそうね」
仁はひとくち食べたところで、昨日とは味が違うように感じた。音羽の言うとおり、材料自体は変わらないが、何かあたたかく包み込まれるような不思議な食感であった。
「兼田君は今日の昼食に何を買ってきたの?」
「えっと、パンだよ。おひるのサンドっていう定番商品」
「知ってる。食パンに具材を入れて、まわりを圧着している惣菜パンよね。私、食べたことないんだ」
音羽は仁が昼食に何を用意したのか気になって尋ねた。すると仁は買い物袋の中から、おひるのサンドと呼ばれる人気の惣菜パンを取り出した。具材を食パンで挟み、まわりを圧着して包み込んだ定番の商品であった。パンと言えば、激安で売られている食パンしか食べたことがない音羽にとっては、憧れの商品の1つであった。
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