第17話 初デート(その13)
(売り物として置かれているときは、軽く触れるしかできなかったけど、凄く抱き心地が良いわ)
頼子は仁からイルカのぬいぐるみを受け取り、抱きしめてみた。すると心地良い弾力と肌触りが何とも言えないほど良いものであった。
「喜んで貰えたようで良かったよ。見ている僕まで嬉しくなってくるよ」
「えっ? もしかして顔に出ていた?」
「食べるときに見せた幸せそうな顔と同じだったよ」
「はっ、恥ずかしい」
頼子は無意識のうち顔が緩んでいたことを仁に指摘され、とても恥ずかしくなってしまった。そして赤くなった顔を仁に見られたくない気持ちになり、持っていたイルカのぬいぐるみで顔を隠した。
「それじゃ、そろそろ戻ろうか」
「そうね。バス停まで移動しましょう」
仁と頼子は水族館を出てバス停まで移動することにした。
「月見里さん、ん? ああ、疲れて寝ちゃったみたいだね」
帰りのバスの中、2人掛けの座席に座っていた仁と頼子であったが、頼子は疲れから眠っていた。仁と頼子の膝の上には、水族館で購入したイルカのぬいぐるみが横たわり、膝掛けのような役目をしていた。
「このイルカのぬいぐるみの肌触りってなかなか良いな」
仁は話し相手がいなくなったため、膝の上にあったイルカのぬいぐるみを撫でてみた。すると心地良い肌触りが伝わり、頼子が気になったのが頷けた。
「あっ」
バスが段差を乗り越えた際、大きく揺れて、頼子が仁に大きく寄りかかってきた。仁は初めて女性と体が触れ合い、頼子の柔らかさと、なんとも言えない甘い香りを味わっていた。
「凄く顔が近い」
仁が頼子の方を向くと、すぐそこに彼女の顔があった。初めての経験に仁の心臓は高鳴り、動揺して動けなくなり、ただ、彼女の顔を眺めることしかできなかった。
「月見里さん、そろそろ駅に着くよ」
「えっ、ゴメンなさい。私ったらいつの間にか寝てしまっていたわ。ふぎゃー」
水族館から駅前までの所要時間はバスで20分程度あった。仁は駅が近づいたところで寝ていた頼子を起こした。彼女はすぐに起きたが、何かに驚いている様子であった。
「兼田君、ごっ、ごめんなさい。服にヨダレが」
「気にしなくても良いよ。少し付いただけだし、月見里さんの可愛い寝顔が見られたから、僕の方がお礼を言いたいところだよ」
「もーっ、兼田君っていつもこうして女性を口説いているんでしょ」
「そ、そ、そんなことはないよ。今まで女性の人とデートしたことがなくて、月見里さんが初めてだよ」
頼子は僅かな時間であったが、気持ち良く寝てしまったため、ヨダレまで垂らしていた。それは仁の服にも落ちて少し濡らしてしまっていた。仁の心遣いに、頼子は思わず多くの女性を口説いているのではないかと思い尋ねてしまった。仁は頼子の質問に対し、正直に初めてのデートであったことを伝えた。
「そっ、そうなんだ」
頼子は仁の返事を聞き、とても安心してしまった。そのようなやり取りをしているうちにバスは駅前に到着した。
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