第6話 初デート(その2)

(えっ? もしかしてこの人が兼田仁君? 集合写真と全然違うじゃない。初対面で彼を見つけろって言う方が無理よ。でも、よく見ると凄く格好いいじゃない。あー、ダメダメ、この子は娘を脅した人だということを忘れてはいけないわ)


 頼子は仁の顔を見て驚いた。音羽から見せられた集合写真では、ボサボサの髪をしていてあまり見た目を気にしない人だと認識していたが、目の前に居る人物は綺麗に髪が整えられ、カジュアルで清潔感の漂う服装に、頼子の好感度は爆上がりしてしまった。だが、娘を脅した人物であることを思い出して気持ちを引き締めた。


「かっ、兼田君、待たせてしまったようね」

「いや、僕も今来たところだから」


 遅れてきたことを詫びた頼子に対し、仁はネットで見たマニュアルどおりの受け答えをした。


(あら、あら、少し嫌がらせをするために遅れてきたのに、私に気を遣わせないようにサラッと言っちゃうなんて、ポイントが高いわ)


 仁は事前に学習した受け答えをしただけであったが、相手に気を遣わせない紳士的な対応に、頼子の好感度は更に上がってしまった。


「今日は兼田君の奢りだったわね」

「そっ、そうだね。お手柔らかに頼みます」


(よし、言質は取ったわ)


 娘の音羽から話を聞いていたが、家計に響く案件であったため、頼子は仁に対して今回のデートが奢りであることを改めて確認した。


「とっ、ところで、今日の私って、その、どうかな?」

「どっ、どうかなと言われても、いつも学校で会っているとおりだと思うけど?」


 頼子は音羽に変装してきているため、仁が気付いていないか遠回りな聞き方をした。この時点で彼に気付かれていた場合、頼子の計画は失敗に終わるため、傷が浅いうちに確認の意味を込めてであった。


(月見里さんはいつもと変わらないけど、何か気の利いた受け答えをした方が良かったのかな? それに制服で来たということは、休憩する場所に連れ込まれるのを防ぐためかもしれない。そうだよなぁ、今回のデートは半ば脅すような形だったから警戒するよね)


 仁は頼子の質問の意味を深く考えていた。この件があるまで音羽とは接点がなく、話したこともない間柄であった為、クラスメイトという間柄であっても、彼女の顔を詳細に覚えているわけではなかった。制服姿ということも重なり、ふだんと変わらないように感じた。また、普段着ではなく制服姿で現れたのは、大人が休憩できるような施設は、制服を着ていると入れないため、それを警戒しているものではないかと思った。


「そっ、そうだった。ここで立って話をしていると疲れるよね? まずは、お互いのことを知るのが大事だから、喫茶店に寄ってお茶でもしながら話そうか?」

「そっ、そうね」


 こうして仁と頼子の初デートが始まった。

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