第5話 初デート(その1)
「うーん、服装はこんな感じで良いかな?」
日曜日になり、仁と音羽がデートをする当日になった。仁は待ち合わせ場所に決めた駅前広場で音羽が来るのを待っていた。仁はデートの約束をしてからネットの情報を駆使して、デートスポットや初デートの体験談が書かれたサイトを読み漁り、この日に備えた。ふだん身だしなみに対してまったく気を遣わない仁であったが、人生初のデートに備え、今まで足を運んだことがない美容室というものに足を運び、髪を綺麗に整え、服など身の回りのものをネットの情報を元に、通販サイトを通じてひととおり揃えた。
「お金も用意したし、あとは月見里さんが来るのを待つだけ」
仁は財布にお金が入っていることを再度確認した。仁には気軽に相談できるような友人が居ないため、ネットの情報だけを頼りに初デートに挑んだ。
「娘を心配させないように強気で言ったけど、他の人から見て、おばさんが無理をしているようには見えないよね?」
頼子は待ち合わせ場所の駅前広場を目指して歩いていた。月見里家は家計が厳しくデート用の服を準備できるような余力はなかった。その為、今回のデートは音羽の制服を借りて挑むことになった。幸いサイズは親子共に同じで、髪の長さもあまり変わらなかったため、なるべく音羽に似せるように頼子は髪をセットした。だが、自信があったのは家を出るまでで、頼子は通行人の視線が気になり、なるべく気配を悟られないよう猫背になっていた。
(勢いよく家を出たけど、恥ずかしい)
頼子は容姿を極力娘に似せたが、中身はおばさんであるため、学校の制服を着た変なおばさんが歩いていると思われていないか、待ち合わせ場所が近づくにつれて不安になっていた。
(集合写真で顔を見せてもらったけど、小さくて何となく顔がわかった程度だから、これだけの人がいる中で見つけられるかな?)
頼子は駅前広場に到着してから周囲を確認した。仁と頼子は面識がないため、そのまま待ち合わせ場所に向かっても頼子は仁を見つけられない。そのため事前に音羽から入学時に撮影した集合写真で彼の顔を教えて貰っていた。だが、集合写真では顔が小さく写っているだけであるため、他にも同じ場所で待ち合わせをしている人や、たくさんの行き来している通行人の中から、仁を見つけ出すのは至難の業であった。
「あれはウチの制服だな」
仁は待ち合わせ場所で、同じ学校の制服を着た女子を見つけた。
「何か様子が変だけど、どうしたのかな?」
彼女は顔を隠すような形で猫背になり、挙動不審で辺りをキョロキョロ見ていた。仁は音羽が到着するまですることがなかったため、暇つぶしにその女性を目で追っていた。
(誰か探しているようだけど、声を掛けた方が良いのかな?)
仁はあまり人と話すのが得意ではないが、彼女が困っているように見え、同じ学校に通っているということもあり、声を掛けようか悩んでいた。
(あっ、こっちに向かってくる)
彼女はキョロキョロと周りを見ながら駅前広場を徘徊し、仁の方に向かってきた。
(声を掛けられそうなところまで来たら聞いてみよう)
仁はそう思って彼女の動きを見ていたが、次第に話しかけられるくらいの距離まで近づいてきた。
「あのー、どなたかお探しですか?」
「ひゃうわっ!」
仁が話しかけると、彼女は飛び上がるほどビックリしていた。
「じ、実は……」
「あっ、月見里さんだったんだ」
「えっ?」
仁は、挙動不審の女性は、待ち合わせ相手の音羽であることに気付いた。
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