第7話 初デート(その3)
「この店で良いかな?」
「え? ええ」
仁は駅から近いところに立地するオシャレな喫茶店に頼子を案内した。この喫茶店は仁が予めネットで情報を調べ、若い女性から高評価を得ている店であった。頼子は案内された店の作りから、ふだんの生活では、絶対に利用することがない価格帯の喫茶店であることを悟り、入るのを少々躊躇ってしまった。
「いらっしゃいませー。お客様は2名様ですか?」
「はい」
「かしこまりました。では、お席に案内致します」
元気の良い若いウエイトレスが、仁と頼子の入店に気が付いて声を掛けてきた。そのウエイトレスは、人数を確認してから空いている席に仁と頼子を案内した。
「こちらの席でいかがでしょうか?」
「僕は良いけど、月見里さんはどうかな?」
「ひゃ、ひゃい。だ、大丈夫でしゅ」
ウエイトレスは、仁と頼子を窓際の外がよく見える席の前に案内し、仁と頼子に対し、この席で良いか確認を取った。仁は問題ないと判断したが、頼子に確認を取ると、彼女は落ち着かない様子で大丈夫だと返事した。
「では、お冷やとおしぼりをお持ちしますので、少々お待ちください」
ウエイトレスが仁と頼子が席に付いたのを確認すると、水と、おしぼりを持ってくることを仁と頼子に伝え、一礼してカウンターの方に戻っていった。
「初めて来た店だけど、凄くオシャレだね」
「そっ、そうですね」
仁はネットで店内の写真を予め見ていたが、実際に目にしてみると、照明はやや暗めで、レンガ造りの壁に植物がいろいろな場所に配置され、コーヒーの匂いが漂い、写真で見るより実際の雰囲気を味わってみると、それ以上に好感が持てる店だと思った。頼子も同じように良い雰囲気の店だと感じ、珍しいものを見るように店内を見回していた。
「お待たせしました。お冷やとおしぼりです。ご注文がお決まりでしたら、お声かけください」
ウエイトレスが水と、おしぼりを仁と頼子の席に運び、注文が決まったら声を掛けてくださいと言い残し、他の客の対応に向かった。
「月見里さん、好きなものを頼んで良いよ」
「わかったわ。えーっと」
(うそっ、コーヒー1杯で800円もしちゃうの? 我が家の食費で換算すると何日分になるのよっ)
頼子はテーブルの上に置かれているメニュー表を見て驚いていた。節約を重ねる苦しい生活が続いていたため、喫茶店に入ること自体、とても久しぶりのことであり、その間にコーヒー1杯の値段が、予想以上に高くなっていたことに衝撃を受けた。
(ダメ、ダメ、あまりの高さに本来の目的を忘れてしまうところだったわ。兼田君、娘を脅したことを後悔させてあげるからね)
頼子はコーヒーの価格に驚き、本来の目的を忘れるところであったが、娘の音羽に対し、脅迫まがいのことをした仕返しを実行することにした。
「決めたわ。スペシャルパフェにするわ」
「わかったよ。すみませーん」
「はーい」
「スペシャルパフェを1つと、マスターのこだわりコーヒーを1つお願いします」
(言っておいてなんだけど、遠慮なくメニューに書かれているもので1番高いものを頼んでしまったわ。もしかして兼田君って、スペシャルパフェがいくらするか見てないかもしれない)
表情を変えず、頼子が言ったものを注文してしまった仁を見て、頼子は驚きと不安を感じてしまった。
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