第3話 皆の関心

 入学式は滞りなく終了し、新入生たちは次なる目的地―—―教室へと移動を開始。


 私と凜ちゃんも群衆の流れに身を任せながら教室へと赴く。


 先程、入学式前に談笑しているときに、私と凜ちゃんは同じクラスだということが判明。


 二人して喜びを分かち合い、そこから仲がぎゅっと深まって、最初は緊張した面もちだった凜ちゃんも、次第に表情が緩んでいった。


 と、そんな回想をしり目に、いつの間にか校舎に到着。

 

 校舎の中は外見に反しない、華やかで煌びやかな様式だった。


 シャンデリアが天井にぶら下がり、地面には赤いじゅうたんでびっしりと満たされて、壁には数々の絵画が飾られている。

 

 入って右手の階段を上がると、正面スペースにはラウンジがあり、手前には左右を突っ切る廊下。

 

 私たちは右手の廊下に進むと、教室が四つ出現。

 

 一番手前の教室(1―A)が、私と凜ちゃんが過ごす教室であった。


 教室に入り、特に席の指定はなかったので適当な場所に腰を下ろす。


 一番後ろの窓側に私が、その隣に凜ちゃんがという具合に。


 キーンコーンカーンコーン!


 鐘が鳴りしばらくすると、教室のドアが開かれた。


 紫の髪を後ろで一つに束ね、黒いワンピースの軍服を身に纏う女性は、台車を適当な位置につけると、教壇に立つ。

 そして、辺りを見渡してから、母性溢れる笑顔を浮かべて口を開く。


「みなさーん! 初めまして、このクラスの担任になった、朝倉咲あさくらさきです。よろしくね!」


 自己紹介の最後にウインクを添える朝倉先生。


 我が子を見守るような優しい目つきだからか、先生というより、どちらかというと、母親のような、そんな印象を抱く。


「さて、早速ですが、名前を呼ばれたら、前に来てください」


 朝倉先生は、一人一人の名前を呼んで、台車の上にある二つの箱から黒い端末と刀を渡していく。


 因みに、名前を呼ばれたのは、外部からの生徒のみである。


「端末については、端末内に説明が記されているので、省きます。この後、しっかり熟読しといてください。そして、明日からは、本格的な授業が始まります。この学園は特殊で、座学は午前中で終了し、午後からは学年全体で合同訓練が実施されます。そして、今渡した刀は、明日から使うので、忘れずに持ってきてください」


 怒涛の勢いで言葉を紡いだ朝倉先生は、ひと段落したのか、ふうっと息を吐く。


「さて、これでオリエンテーションは以上です。端末内には国からお金が支給されていますので、商業区画に行き、ショッピングを楽しむのもありでしょうし、このまま寮に戻って英気を養うのもいいと思います。明日皆さんがこの教室で出会えることを楽しみにしています。では、解散!」


 朝倉先生の合図により、一斉にクラスメイトたちは、ざわざわとしゃべりだす。


「ねえ、凜ちゃん。せっかくだから、一緒に色々見て回ろうよ!」


「う、うん」


 さっそく凜ちゃんを誘って学園内の探索を出かけようとする。


「ん?」


 教室を出た瞬間に、下の階で何やらざわざわと騒めく生徒たちの声が。


「な、何かあったのかなあ?」


 凜ちゃんは不安げな声色で疑問を口にした。


「うーん、分からないけど。まあ、どうせ、下に降りなきゃだし、何があったのか確認しに行こうか」


 私たちは下につながる階段を降りると、バーゲンセールのような人の群れが出来ており、皆一様に、あるものに注目し、驚きに満ち溢れている。


 皆が何に興味を示しているのか気にはなるが、この密集地帯の中を這うのは中々勇気がいる。


 が、やはり一度抱いた好奇心には打ち勝つことは出来なかった。


「凜ちゃんはここで待ってて。私、見に行ってくる!」


「ま、舞ちゃん。後でにしようよ。流石にこの人だかりは……」


「大丈夫! 大丈夫! じゃあ、ちょっと行ってくるね!」


「あ! ま、舞ちゃん!」


 凜ちゃんの返事を待たずに、私は群衆の中へと駆けだした。


 人ごみに入ったとたんに、物凄い熱気が支配する。

 

 満員電車のようなぎゅうぎゅうさで、身動きは取れず、それどころか、ちょっとずつ外へと押し戻されていく。


 ぐ、ぐるじい……


 私の体力は徐々に奪われ、正直、ギブアップして凜ちゃんの元へと戻りたい欲が増してくる。

 ただ、凜ちゃんに大丈夫と啖呵を切った手前、何も収穫がない状態で戻るのは恥でしかない。


 それだけは避けたかった私は、根性を発揮して、人ごみの中を掻き分けていき、ついに出口に到達。


「ん……しょ!」


 人ごみから顔を出した私は、視線を上へと移す。


 視線の先には、一枚の紙が壁に張り出されていた。


「え……うそ」


 それは、ここまでの苦労も泡沫へと消える程の衝撃的な内容であった。

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