第1話 ゴースト

 ゴースト

 

 日本が脅かされている正体不明の存在。今から十七年前―――――――二〇八三年初めて確認された。


 夜十時過ぎ、東京都葛飾区で金属鎧を身に纏った者が、通りがかった人間を無差別に襲う事件が起こった。


 警察による威嚇射撃も効果なく、剣を片手に特攻してきたので、警察たちは、銃を発砲。


 何十発、何百発、発砲しようとも、甲冑騎士の動きは留まることはなかった―—―

 鎧は銃弾によって蜂の巣のように穴が空いているのにも関わらず。


 人間なら確実にあの世行きだ。


 警察たちと甲冑騎士の攻防が一時間くらい経過した時に―—―突如として甲冑騎士の動きが停止。

 そして、全身を覆う鎧は、ぼろぼろと音を立てて地面に散らばり、それは、警察側が勝利を収めた瞬間であった。


 この事件は瞬く間にSNSで拡散され、多くのニュース番組に取り上げられた。


 実際の現場にいた一人の女性のある証言を機に、事件は複雑怪奇になっていく。


 女性が放ったある証言とは。


 それは、甲冑騎士が突如とした止まったときのこと。


 全身を纏う金属のパーツが地面に落ちた真上に、と。


 その証言の真偽は最初こそ、女性の勘違いだろうと言うのが一般的な見解だった。


 だが、後々SNSで、事件が発生した当日に、同じようなものがみえるというコメントが、ちらほらと散見されていき、証言は真実味を増していく。


 どうして、少し時間が経ってからそのようなコメントが見つかったのか。


 その理由は、無差別に人を襲うだけじゃなく、犯人像が全く分からないことだった。


 そのことにより、SNSでは、恐いや不安と言ったコメントが九割以上を占め、そのせいで、少し発見が遅れたという。


 インタビューを受けた女性と、SNSで同じ現象を見た数々のコメントにより、幽霊は実在するのではないかと、研究者たちがこぞって調査。


 そして。


 様々な研究を経て、あの女性が見たふわふわと浮く白い正体は幽霊だと判明。


 それにより、幽霊は実在するという確証を得てしまい、今までの世間の常識が覆されることになる。


 その発表に世間は驚きに沸いたのと同時に、あの無差別事件は幽霊の仕業なのだと確定され、恐怖に怯える日々を送ることとなってしまった。


 事件発生から、五年が経過し、幽霊=ゴーストによる、被害が増加していき、人間によってもたらされる被害よりも、ゴーストによる被害が増加。


 もはや、ゴーストは無視できる存在ではなくなり、日本の平和を脅かす存在として君臨することになった。


 そして、ゴーストに有効打を持つパワーストーン(ゴーストストーン)が発見され、それについての研究がされていき……ついに。


 二〇九十年、対ゴーストのための育成機関――――――私立幽霊女学園を創設。


 私……神崎舞かんざきまいが今年から入学する学園だった。


「ここが、幽霊女学園……」


 私は校門の先にある西洋のお城のような校舎を見つめながらそう呟く。


 隣を過ぎ去る少女たちは、真新しい制服に身を包み、新生活に対して多種多少な表情を覗かせている。


 満開の桜が咲き誇り、今日からここに入学する者たちを祝福し歓迎していた。


 私は緊張と不安でバクバク鳴る心臓の鼓動を抑えるために、右手で胸を抑えて、目を瞑り、ふうっと息を吐く。


 心臓の鼓動が落ち着いたところで、よし! と一言吐いてから、校門を潜り抜ける一歩を踏み出した。


 入学式は講堂で行われることになっており、校舎前にある噴水広場から、西に向かうと、遠目から分かるほどの真っ赤な建物が出現。


 私を含む、白い制服を身に纏う女の子たちは、次々にそこに吸い込まれていく。


 建物内は映画館を模したような空間で、まだ、入学式までに時間はあるのにも関わらず、既に満席状態。


 私は一番端の席に座ることに決めて、歩みを進め。


「あ……」


 目的の席に到着したと同時に、かすかに小さな声が鼓膜を鳴らした。

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