なんでも交換屋
伍代 太郎丸
第1話
この町の片隅には古びた商店街が点々とたたずんでいる。多くの店はシャッターで閉ざされ、木製の看板に刻まれた文字も色あせていた。男はその古びた商店街をただ一人歩いていた。妻子を亡くした男にはほとんど如何なる感情もなかった。古臭い光景も奇妙な香りもほとんど彼の意識にはない。ただ意識の底にあるのは妻子を守りきることができなかった虚しさだけである。男は行く先なくただ歩き続けた。
男が意識を取り戻した時には店の目の前に自分が意味もなく立ち尽くしていた。店といってもその場所は物置にしか見えない。壁には無数の品物が並び、棚には見慣れぬ奇妙なものが所狭しと並んでいる。男が店だと思ったのは飲食店らしき暖簾が掛かっていることぐらいである。男は恐怖心にかられた。しかしそれと同時に好奇心にもかられた。平凡な毎日を過ごしてきた男にとってこの感情の乱れはむしろ理想的であった。男は息を押し殺して木製の戸を叩いた。しかし中から返事はない。男はもう一度戸を叩いた。一度目よりも力強く叩いた。すると階段を下る音が鳴り響く。その一音一音が自分の心臓の鼓動と共鳴していく。恐怖心にもがきながら生じる好奇心が疾うに限界を迎えていた。男は見知らぬ誰かが階段を下り終える前に戸をガラリと開いてしまった。
なんでも交換屋 伍代 太郎丸 @iwaiwa1708
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