その男、漂流者

 若い男が、浜辺に打ち上げられた。


 男は、25歳前後と見えた。

 背丈は、日本人の体格としては至って標準的である。

 彼はうつ伏せに倒れ、蒼白となった顔を横に向けていた。その額を覆うほど伸びた髪には白い砂がまとわりついている。


 中学生とおぼしき少年が一人、恐る恐る近づいてくる。

 横たわる男の顔を覗き込むなり、変声期特有の裏返りそうな声をあげた。

「おじさん!」

 男が、その声に反応したのか薄く目を開いた。

「……おじさん、だと?」

 そして小さく呻くようにいった。

「くそ、誰がおじさんだ?」

 

 それでも畳みかけてくる。

「ねえ、おじさんは誰?」

「おじさんは、どこから来たの?」

 少年は首を横へ大きく傾げる。男の唇はなお青く沈んだ色を帯び、微動だにしなかった。


「ねえ、ねえ、おじさん。どうしたの?」

 男は答える代わりに眉間にしわを寄せたが、どの質問に対しても無言であった。

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