第十二話 辺境ダンジョン ゼーレ大聖堂決戦

聖堂騎士パラディンの突進に呼応し、こちらも体を倒し一気に突撃する

100mはあったはずなのに、もはや瞬きの間とも言えるほどの短時間でお互いの射程距離に入っている


上から振り下ろした俺の大剣と、下から突き上げる聖堂騎士の白い大剣がぶつかり合う

凄まじい衝撃波に垂れ幕が酷くなびき、床に溜まる砂埃が舞い上がる


初撃は同等、少なくとも力負けはしない

しかしそんなことを考える間もなく、聖堂騎士の黒い剣が俺の腹目掛けて水平に振りかぶる

それを逆手に持った左の短剣で受け止めるが、衝撃を殺しきれずに俺の体が宙を舞う


何とか身をよじり着地するが、間隙の無い二振りの刺突が迫る

瞬時の跳躍で回避し背後を取り、大剣の一振を両脚の関節に叩き込もうとする


しかし身を翻した慣性のまま攻撃を弾かれ、しかも白い剣の突きが右の脇腹を掠め切る

焼けた感覚に怯み、強いバックステップで距離を取って傷を見てみると、皮膚と肉が爛れて回復が阻害されている


「ったく。どういう剣だよ。面倒がすぎる」


《我が右手の剣、ヴィントレスは魔の者をかたきとし》


《我が左手の剣、ゲヴェーアは神が遣いをかたきとす》


「魂の眠りを妨害するのは、神魔であろうと許さないってこったな。クソッタレめ」


傷をそのままに懐へ突っ込み、大剣を下に突き出して振り上げる

白黒の剣を交差させて突きを耐えようとした騎士に対し、下げた大剣を振り上げ交差させた剣を振りほどいて防御に間隙を作り出す


一歩踏み出し、左手の短剣をバシネットと胸のプレートの隙間に突き出す

しかし短剣の刺突と同時に聖堂騎士がその体を屈ませて踏み込んできた


鋭い角が俺の右頬に酷い傷を刻み、その質量により俺の身体は百数十メートルも吹き飛ばされ、受け身も取れないままに地面へ突っ込む

ボタボタと垂れる血を手で拭うが、傷が深いのか全く止まらない


キッと聖堂騎士を睨みあげ、また初めと同じ様な構えを取り備えるが、短期的な高機動に息が切れる

そして肩に垂れる血は生暖かい。酷い気分だ

だがわかったことがある。あいつは1つも隙がない


強制的な近接戦に、リーチの長い大剣と懐に潜り込ませない質量攻撃

振り向き様の慣性を活かした斬撃、そして致命傷を確実に叩き込む攻撃


搦手からめても何も使い尽くして勝つ……って奴か」


構えを解き左に踏み出して一気に跳躍

柱を何本か蹴り飛ばし、急接近して剣を降りしきる

高速により衝撃力を増した大剣の一撃は聖堂騎士の大きく振りかぶった2振りの大剣と拮抗した


この僅かな隙を活かすために脳の片隅にあった魔導を発動する


対人拘束魔導ヘルツヴァルクッ!」


《━━汎用対抗魔導フェルニヒト


「魔力総量でゴリ押しだァッ!」


地面に現れた四角形の魔法陣の四隅から鎖が放たれ聖堂騎士の四肢に絡みつく

間髪おかずに発動された対抗魔導で魔導陣が崩れかけるが、残る魔力を惜しみなく注ぎ込んで維持する


四肢を拘束させ大きな隙を作り出すと同時にダガーを両手のガントレットの非装甲部を通る様に振りかざすも、切り裂けたのは左手首だけだ

その上パワー負けして拘束を破られ攻撃はこれだけ


「クソッ!ええいこのッ!」


軍靴の衝撃ヤルトガング


鎖を振り切った聖堂騎士が1歩踏み切ると地面を抉る衝撃波が襲いかかってくる

後転とバックステップで距離を取ったが、すかさず追撃と言わんばかりに白色の大剣を投げ付けられる


それを一振で弾き飛ばすと、聖堂騎士は黒の大剣を両手で構えてこちらを伺っている


「ようやく一撃だ。なんだ、わりと殺れるな?」


《動きを鈍らせ装甲板の間隙を斬る。中々の腕だ》


「そりゃどうも。伊達に魔王の子じゃないんでね」


《ならば此方も全力で行かねば無作法という物か》


「んだよ。こんだけ強くて手ぇ抜いてるってのか」


《左様。聖堂騎士の本領。ご照覧あれ》


大剣を大きく天に突き出したかと思えば、こちらに向けて大きく振り下ろして聖堂の地面に叩きつけた

砂塵が舞い散る中、それを吹き飛ばしたのは黄金に光る一対の翼と、体長の倍はある爬虫類の様な尾だ


《大聖堂守護 奉魂ほうこん公 騎士 ヤクト・ゼーレ 参る》


言い切ると同時に地を蹴り十数m跳躍したかと思えば、次には何も無い空間を蹴りこちらへ接近する

迎え撃つのは不可能。俺は限りなく身を伏せてから地を蹴り飛ばして騎士の下をくぐり抜ける


直ぐに身を翻して騎士に近づき剣を振るう

初撃は弾かれ、第2撃は鍔迫り合い

剣を傾け軸を外して蹴りをひとつ叩き込む

第3撃の為に剣を振るう前に長い尾に阻まれる


右へのローリングで回避、駆け出して剣を突き上げるが頭の前を素通り、横薙の斬撃を引き戻した剣で防ぐが吹き飛ばされて柱に着地する

そして追撃の飛び蹴りをモロに食らい柱事吹き飛ぶ


「ぐおッ!がッ...」


何とか立ち上がるが、体内のダメージが酷い


「肋骨9、片肺にその他内蔵がいくらばかの損傷。両前腕解放骨折ぅ......はッ。でも大丈夫だな」


数秒の内に骨が繋がり、肉が結びあって傷が塞がる

服以外元通り。魔王譲りの超回復がここで活きた

だがここまでの超回復ですら頬と脇腹の傷が塞がらないとは。あいつからの裂傷は脅威が過ぎる


「なればこそ、手元に置きたいな…!」


剣を持ち直し再びの急接近。叩きつける斬撃を左手のダガーで受け止め、大剣の一突きを右肩の付け根に叩き込むが効果は薄め。ジャガイモスープのジャガイモ抜きの味くらい薄そうだ


黒い大剣の左側にステップを踏み下に逃がした後、更に斬撃を背後へ叩き込むがこれも効果なし

直接攻撃での撃破は難しそうだ。やはりだけか

ともかく斬撃と追撃の蹴りを避けバックステップで距離を取る


「対人拘束魔導ッ!近接閃光魔導ヴラッシュッ!」


相手の接近に呼応し拘束魔導と閃光を発動

拘束を踏み出した左足に集中し動きを一瞬止めた後至近距離の閃光で視界を奪う

背後に回り込み尾の付け根に大剣を突き刺す


大剣を手放し盲撃ちの様な斬撃を避けてもう一度懐に入り込み閃光を発動

ダガーで太ももの裏へ素早く何度も叩き込む

最後に右足首へダガーを突き刺し一気に距離を離す


「あと一押しってとこか…へへっ。キツイな」


動きは鈍らせたがそれも回復されそうだ

どうしたもんか悩むが、とりあえず両手に大剣を再び召喚して接近する

何とか攻撃を通したがこちらもキツイのなんの


超回復に近接魔導、初手のゴリ押しで中々な消耗だ

残量9600とかか。いやはや辛い辛い

それと新品の同じ大剣が二振り。これだけで3500とか持ってかれた。ぼったくり過ぎるだろ


(いやぁ...死んだら悪ぃな、みんな)


動きの鈍った聖堂騎士に対し肉薄を仕掛ける

迎え撃つ構えに対し真正面からの突撃、片手の振り下ろしを身体強化フルの一振で弾き飛ばす

間髪置かない左手の殴りを右手の大剣で叩き潰す


そして最後に角の一撃を瞬時に召喚したダガーを逆手持ちにして腕の骨と刀身で防ぎ切り、右手で兜の視界確保用スリットを掴み、隙を見せる前にを始める


『我は魔族にして君臨せしめる王なりや。汝が願いを我が願いとす。しかして聞かしてみせよ。汝が我が配下となるならば、我其れを叶えると誓わん』


《我等が願いはいくさなれ。争いにて更なる御魂を掻き集め、この地に鎮めることこそ我が願いなり。これ叶えんと誓わば我等は汝が配下となりて身を尽くす事をこの名に置いて誓おう》


『汝等が願い、此処に然と受け止めた。汝等は今より我が配下。我が眷属となり其の剣を振るわん。我は汝等が主。汝等が願いを叶え、汝等が死せようとも其の名と願いを憶えたり』


そして聖堂内から一切の音が消え失せた後、1度大きな金属音を立てた後、二体の獅子が地に伏せた

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