第十三話 初めての眷属
パチパチと薪の燃える音が耳に入り、ゆったりと体を起こす
目に入るのは少し広い洋室と本棚、そしてカーテンの掛かった窓
どうやら部屋自体は本棚によって2分されているらしく、ベッドから降りて向こう側に行くといつも通りの悪魔の声と、少し年老いた声が耳に入る
「で、あの小僧いきなり敵だった奴を身内にした」
「それはそれは。思い切った事を」
「バカが過ぎると思うだろう。だがその女、今となっちゃあの小僧に魅入られてやがるんだ。俺が言っちゃなんだが、魔王の卵以前にあいつには人外的な物を感じるな」
バカでかい騎士と、人外が2人……2人?
あと横たわった人間が1人、暖炉の前で話し込んでる
「なーにやってんだお前ら……」
「起きたか多馬鹿野郎。ぶっつけ本番で”眷属化”をやるなどと。成功しなかったらどうするつもりだった?」
「……さぁな。まあ成功したんだ、いいだろ」
俺は2人に背を向けて暖炉の近くにドッと座ると、手をかざして暖を取る
少々冷えた部屋じゃ、これくらいがちょうどいい
「で、ここは何処?このぶっ倒れてんのは誰?」
「ぜーレ大聖堂北西棟、第8階層第814号室だ」
「それでこの者は聖堂騎士の1人です。我直属の騎士、その1人であります」
━━まあ、剣の腕はあまりですが
ゼーレがそう言ってフードを取ると、短髪の黒髪を下ろした女である事が判明した
戦闘前の悪魔の口ぶりからして、こいつがあの極太ビームの犯人なんだろう
「全く。貴様魔力のゴリ押しで推し通ったせいで魔力欠乏を起こすなど。こいつを抱えて戻ったら意識を失ったお前の横でコイツが立ち尽くしていたのを見た時は困惑の感情以外浮かばなかったぞ」
「あぁ…そいつァ悪かったな。ヤクト」
「いえ。最早我が主でありますので」
「そっか…眷属にしたはいいが、眷属ってのをどう扱えばもんか分からねぇんだな」
「まぁ知っての通り、人魔を自らの配下に置き管理運用出来るようにする事を眷属化という。今回の場合は聖堂騎士ヤクト・ゼーレとその眷属1000余体を眷属にしたな」
「え?そんな配下にしたの?」
「ああ。眷属持ちを眷属にすれば、その眷属も自分の物にできる。まぁお前の下に1000体の配下ではなく、お前の眷属1体の下に更に1000体いるから、少し命令系統が簡単になった感じだな」
「これ、やりようによっちゃマジで軍隊みたいな命令系統にできるな」
これからの発展に胸を踊らせていた所で、ヤクトが声を上げた
「我…というか我等なんですが、今の所は特定の条件を満たさないとこの亜空間からは出られません」
「うわ初耳学。え、その条件って何?」
「まず1つに使役結界の展開、という物があります。読んで字の如く使役する範囲を決める為の結界です。これは範囲が広い程展開時の魔力消費が激しいので範囲は良く良くお考えを」
「そして次に、この大剣を振るい
そう言って黒い大剣…ゲヴェーアを鞘ごと渡してきたので、両手で受け取って腰の左側に吊り下げた
今までの大剣よりも重く、何か禍々しさを感じる
「いいのか?お前の剣技は二刀流の様だったが」
「無論一刀流も出来ますよ。伊達に奉魂公を名乗っているわけじゃないですからね。それにこれもありますし」
そう言っていきなり左手を伸ばすと、どこか別の空間に吸い込まれる様に消えて行く
次に手を引っ込めた時、その手には半身を超える大きさをカバーできる大盾が握られていた
白い大盾は角ばった逆雫型であり、十字の装飾が施されていてその先端は尖っている
「大盾ゼーロウ。生半可な神器を通さない硬さを誇り、高品質の鎧を貫く程鋭い」
「盾とは……?」
まさに矛盾。俺は困惑しつつ、そういえばと言って収納能力の事を思い出す
こいつ、今まで大した使い道がなかったので気にも止めていなかったが、此処で一つ妙案が浮かんだ。こいつに重機関銃でも半分収納して、必要な時に撃ち出せるようにしたら滅茶苦茶火力の増強になるという物だ。試してみる価値はある
「……あ、この剣で門を開けるって事は、今後もここと現世?を行き来できるのか?」
「できます。今後は此処を拠点として頂いても構いません。ただ……」
その時、扉が三度ノックされる
訪問者は若い声、どうやらゼーレに用があるらしい
「入れ」
「お取り込み中失礼します。全方位からの襲撃、数600程度」
「またか。第2と第6を出す。行くぞ」
ゼーレが立ち上がり戦闘の準備を始めたのを見て、俺はあの死体の正体を察した
「なるほどね。あの死体は襲撃者ってワケか」
「然様です。参加されますか?」
「一方面の支援は任せてくれるか?正直俺の武器が何処まで通用するかわからないからな」
俺は重機関銃の用意をしながら、一緒に部屋を出る
6B45とComTacを装備し、塔の一角から狙い撃ちにする旨を伝えて階段を駆け上がる
「悪魔、お前はどうする?」
「高みの見物とさせてもらう。ちゃんと支援しろよ、マスター」
「マスターね。ふん、らしくないな」
俺は階段の一角にあったバルコニーに躍り出ると、準備してあった土嚢を幾らか召喚した後に重機関銃を召喚
今回召喚したのはMG131Z、ドイツが誇るラインメタル社製の42口径13mm機載重機関銃を二基連結した化け物だ
左右に数百発の銃弾ベルトを装填し、左右のコッキングを済ませて照準を付ける
騎士の横隊約1000m先、敵先鋒集団が見えた
「
それと同時に、MG131Zの引き金を引いた
布を切り裂くような音が、俺にとって戦闘開始のゴングだ
凄まじい反動に体が押されるが、身体強化で拮抗させながら照準をつけて弾幕を張る
相手の姿はよくわからないが、それでも掠った化け物どもがほとんどその動きを止めている
「はッはぁッ!弾幕は正義だ!くぅたばれぃッ!蛆虫どもぉッ!」
久々に滅茶苦茶撃てて滅茶苦茶殺せているので、魔力を回復しつつ満足感も得られる
最高にハイッ↑てヤツになっている。めちゃめちゃ気分がいいので、一応銃身の冷却を織り交ぜつつ弾幕を張っている。正義の押し売りほど気持ちの良いものはない
「こぉこでェッ!さらにMG131を追加召喚し遠隔射撃ィ!ヒャッハーッ!」
通常のMG131も2基召喚し、収納能力と併用して合計4基の圧倒的弾幕が回廊の一面を覆い尽くす。生者は死者に、死者は肉片に。とにかく撃って撃って撃ちまくって、四基の銃身が赤く焼け爛れた頃にはもう、橋の上で生きている物は見えなくなった
「橋一本を制圧した。別の橋の援護に向かう」
MG四基を収納し、いつの間にか帰って来ていたM107CQ装備して悪魔の手を掴む
「またあん時みたいに降ろしてくれ」
「構わんぞ。ではちゃんと掴まっておけ」
「ういうい」
そう言って悪魔の片手で軽くお姫様抱っこされると、一気に大聖堂十何階から飛び降りる
タマヒュンの感覚を味わいながら、ドンっと衝撃音を立てて地面に着地した
「ありがとよ!」
悪魔の腕から転がり落ちると、そのまま次の戦場へ全力疾走する
M107CQを持ったまま飛び上がり、上空から辺りを一望すると、幾らかの敵が見えた
見てみれば四足歩行、かつ体表には体毛の類が見えず、さらに骨張っている
まるで人の成り損ない。醜い化け物が聖堂騎士に斬り伏せられているが、数が多い
死体をクッションに着地、1人の騎士に大勢が群がっているのを確認すると、誤射を避けなが12.7mm弾をぶっ放す
胴体を一撃で分割する程の威力を受け流石に化け物共も沈黙し、すかさず騎士に手を差し伸べる
「大事ないか?」
「はい。ありがとうございます」
「1対多は避けていこう。援護の要請も忘れずにな」
そう言っている内にも後ろから続々と湧いて出てくるので、M107を腰ダメでばかすか撃ち続けると、2体3体と貫通して行くが流石に弾が持たない
M107をその辺に放り投げ、大剣を抜き駆け出す
嫌に重いが、構わずぶん回すと化け物の頭蓋を叩き切れる程に鋭いことがわかった
「かかって来いや成り損ない共ッ!はぁあッ!」
こいつら醜い上にそこそこの殺傷力を持つ爪を持っている。長さにして20センチ弱
見た感じ人体程度余裕で切り裂けそうだが当たらなければどうという事はない
突き伸ばされた前腕ごと胴を叩き斬り、返す刀で横薙ぎに斬り伏せ、さらに這ってきた化け物を上から突き刺すが、ここで剣が抜けなくなる
「死んでまで邪魔をするかッ!この糞虫共めがッ!」
力を入れて引き抜こうとするが、地面まで突き刺さったのか全く抜けない
背後から未だ迫る化け物は無数、体の向きを変えMG131を遠隔でぶっ放して対処するが流石に多勢に無勢と言うもの
しかも近距離すぎて照準の未熟さが目立ち無駄弾が増えてきた
しかも今気づいたがこいつら殆ど魔力を保有していない。普通にMG131とその弾薬で大赤字
その辺のウサギの方が魔力量多いんじゃないかと思う程に魔力を持っていない
そして一旦敵の波状攻撃を捌き再び両手を剣にかけた瞬間、死骸の中から1匹が飛びかかってくる。完全な意識の範囲外、物音に気付き振り返った時にはもう遅い
両手を盾に防御姿勢を取った時、衝撃と共に飛びかかって来た化け物が地面に叩きつけられている。命の恩人の犯人は、他でもない
「感謝する。変に大剣が刺さったみたいで抜けなくてな」
「礼には及びません。しかしなるほど。お任せを」
そう言って大剣に片手をかけると、少し踏ん張った雰囲気を見せただけでいとも容易く抜いてしまった。なんだこの馬鹿力は
俺は剣を受け取った後、とりあえず報告を求める
「敵はほぼ殲滅。残敵は逃走を開始しました」
「ならいいか…こいつらはなんなんだ」
「
「また課題が一つか……まあいい。俺は一旦
「では、此処の守りはお任せを」
「頼んだぞ」
俺はそうして門の事を意識しながら大剣を一振りすると空間がこじ開けられる様に湾曲して狭間が開く
不安ながらもその空間に踏み込むと、足場が無かったので無事転落した
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同じ様に落下して、出てきた場所は洞窟の中
場所はおそらく第四階層直前の広間か
「なーんも見えん」
そう、サーマルを捨てたので何にも見えない。なので俺はランタンを召喚して、来た道を戻っていく。そこまで長い道のりでも無いのだが、上り坂というのは体力的にキツい
とりあえずカティに魔導通信を入れる。外の状況を知りたいし、生存報告も兼ねてだ
(あーあー。カティ、聞こえる?)
(聞こえますよ。何かありましたか?)
(割とあった。俺が出ていってから何時間くらい経った?)
(大体2時間って所です)
(そんぐらいか。オッケー、ありがと)
カティとの無線を切り、次に悪魔へ話しかける
(亜空間と現実世界は時間的に分断されているのか?)
(半分正解だ。あの亜空間は現実世界から独立しているので、時間の流れも違う。あちらでの半日が、こちらでの1時間程度だ)
(なるほどな。そこら辺も留意しないといけないのか)
(あと、あの亜空間の管理者はお前だ。お前の裁量で色々と変えられる)
(現状維持で良いかな。それと2人を回収したらダンジョン攻略を再開しよう)
(そうだな。まあ今はお前の好きな様にしたら良い)
(今はだって?俺は魔王だぞ。これからも好き勝手させてもらうよ)
いつも通り会話を切断し、ランタンを掲げて洞窟を歩く
これから起こる神算鬼謀の術中に取り込まれつつある事を知らないままに
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