~第二章~ 辺境の進撃
第九話 辺境ダンジョン 第一階層
ツタを焼き払って突入した洞窟の中は、薄暗闇の広がる空洞であった
高さは10数m程度、左右の壁は切り立っており、天井には蝙蝠がぶら下がっている
俗に言う大洞窟とか言うものか
「ライトを点けろ。警戒は怠るなよ」
RPKのライトを点灯させ、全周警戒を続けながら暗闇を進む
200m程度までは、そこまで脅威になる魔物はいない様だ
いても少数のゴブリンやピチャピチャしているスライム程度で、前者は全て撃ち殺し後者は無視した
「思ったより少ないな。もうちょっとこう、奇襲とかあるもんだと思ってたんだが」
「敵は大体隠れている様ですよ。ほら、そこの壁とか塞いだ形跡があるじゃ無いですか」
ライトに照らされた所を見てみると、確かに1箇所だけ色が違う
近づいて指をかざしてみると、微かに風を感じた
「爆破するか。少し離れておけ」
RPKからベネリに持ち替えると、壁から10m程度離れてFRAG-12を3発ばかり叩き込む
雑な造りの壁は土煙を上げると、ボロボロと崩れ落ちていった
俺は即座にRPKへともう一度持ち替えると、腰ダメ撃ちの姿勢を取りながら近づいていく
ズザッズザッと土を踏む音を響かせながら穴へと近づく
カティとアイコンタクトを取ってから、隠し部屋の中にRPKを掃射する
左から右に弾丸を飛ばし、激しい銃声の中からいくつかの呻き声が聞こえる
銃の反動に従って穴の前まで後退すると、出入り口の壁に寄り添って叫ぶ
「グレネード!」
「Fire in the hole!」
呼応したカティが破片手榴弾を投げ入れると、相手が出てこない様に入り口へ銃撃を加える
その直後、地響きと共に穴から爆炎が噴き出す
「
掛け声と共にRPKとHK417が発砲炎を煌めかせながら暗闇へと突っ込んでいく
「こいつらは…」
「
「こいつらがビビって隠れる位の魔物がうろついてるってのか。この白昼に堂々と」
死んでるかどうかわからん物を踏んずけ、いくらばかの弾が残るドラムマガジンを還元し別のドラムマガジンを装填しながら残敵掃討をする
パラパラと薬莢が落ちる音が幾度か鳴り響き、足元が血溜まりで染まった頃に隠し部屋を出た
「こんな弾を使う程の物じゃないな。2~3発程度グレネードを叩き込めば充分だ」
バイザーを上げ、グレネードとドラムマガジンを再召喚してアーマーのラックに掛ける
95発のBT弾とドラムマガジン、グレネード2つの必要魔力はおよそ2000
しかし先程の戦闘でその程度は稼げている
「いやぁ回転率がいい。これ上手くやれば無限レベル上げできるんじゃないか」
「十数体の魔物を1分未満で片付ける事が可能な今なら夢じゃないですよ!10階層までぱっぱと行きましょう!閣下!」
アークが目を輝かせながらそう言って先を進んでいく
この2週間は休息と戦闘訓練に充てたのだが、この短期間で彼女は見事にトリガーハッピーになった
しかも身体強化で連続射撃の反動を完璧に制御しているせいでめちゃくちゃ高精度なトリガーハッピーになってしまった
高精度すぎると機関銃の役割である面制圧に支障をきたすので、一応そこそこにバラけさせるようには言っておいたが、正直ちゃんと守ってるか怪しい
「気は抜くなよ。上下左右、どこから来るか分からんからな」
「勿論です。余程の敵じゃないと不意打ちなんか喰らいません!魔導騎士ですから」
誇らしげに胸を張って歩く彼女の後ろを着いていくが、以前として敵は少ない
それよりも暗闇が厄介だ
湾曲した洞窟内じゃ、もうそろそろ陽の光が完全に消えてしまう
「照明魔導の使い所でしょうか」
「あ、やっぱそう言うのあるんだ」
「魔導陣を展開し、空気中のわずかな魔力で広範囲を照らし出せますよ」
アーク曰く設置型魔導陣の完成系らしい
確かに、軍民問わず光源というのは重要な要素だし、発展するのも無理はない
「数分ほど掛かります。援護をお願いします」
アークはそう言って壁の側でしゃがみ込むと、MG5を傍に置いて照明魔導の準備を始めた
何かキラキラした物を壁に塗りたくりながら、円形に模様を描いている
俺たちは両脇に陣取り、それぞれ左右へ警戒線を伸ばす
二つの銃口が壁に向けられ、床に向けられ、天井に向かう
そして俺のRPKが、暗闇の際で動く何かを捉えた
微かに見えたそれは枝の様な手足で、餓鬼の様に腹が膨れていた
「カティ」
「そちらにも居ますか」
彼女も同じ物が見えているのかフラッシュライトをそこかしこに当てている
そのうちにカサカサと、まるで乾いた小枝を擦り合わせた様な音がして、次第に大きくなっていく
「
「あと80秒程度です」
「持ち堪えられるかな…?」
一歩警戒線を下げ、フラッシュライトを忙しなく走らせるが一向に姿を捉えられない
次第に音は大きくなり、その数は増えていく様に感じる
気色の悪い摩擦音が、嫌味ったらしく周囲に響く
「牽制射撃。3連射2回」
「3連射2回、了解」
短い発砲音が鳴り響き、その内幾らかが命中したのか、グジャっと音を立てて何かの液体が滴り落ちる
「……いやあ…やらかしたかも」
牽制射撃の音が鳴り止んだ後から音はしなかった
…嵐の前の静けさと言う物か。何かえらいのもを踏んだ気がして、背中に冷や汗が浮かぶ
「照明魔導、発動します」
背後がキラリと光ったと思えば、周囲が一気に照らし出される
それは、正体不明の魔物も同様だった
「うおキッッッショ!いや、あれヤバいだろ!」
3対の足に、肥大化した頭部と大きな2対の顎
俗に言うオオズアリが無数の群れを成して洞窟のあらゆる壁面を覆っていた
しかもただのアリではない。全長は2m強、顎からは血が滴り落ちている
ガチガチと顎をぶつけて音を鳴らしてこちらを威嚇しながら、ジリジリと近づいてくる
「…トイフェルヘルム?!こんな真新しいダンジョンになぜ…!」
「肉食性の昆虫型魔物です!早く脱出しないと…!」
「いやぁ…そりゃ無理かなあ」
「どうしてですか!」
「だってアイツら、俺達の後から来たから」
つまり、洞窟の出口に行くならあのキッショい虫を全部しばき回さないといけないのだ
「前方への脱出ってワケ。俺の先祖が島津氏だったら良かったんだがな」
「シマヅ…?」
「負け戦で圧倒的劣勢の中、わずか千余の兵で数万の敵中を突破した化け物だよ」
「敵中突破とは。中々無茶をおっしゃる」
「そうしなきゃ死ぬからな。しても死ぬかもだけど。」
俺はそう言ってフラッシュバンのピンを抜くと、数発まとめてアリの群れに投げ入れた
「走れ走れ!逃げるが勝ちだ!」
そう言って一気に背を向け走り出す
目の前にもいくらかのアリが居たが、RPKの走り撃ちで風穴を開け…れない!こいつらの頭部が5.45mmの徹甲弾を受け止めている
正面のアリとはわずか十数メートルしか無く、その距離は一気に詰まる
俺はスライディングでアリの噛みつきを間一髪で避け、頭部から腹まで満遍なく銃弾を叩き込むとようやくそいつは動きを止めた
「5.45じゃまともに貫通しない!やっぱこいつか!」
立ち上がって走りながらRPKと予備弾倉を投げ捨て、ベネリM4を構える
背後から迫り来るアリにFRAG-12を叩き込むと、表皮を砕いて破片が散る
2発目でそいつの頭部を完全に破壊するが、同時に別のアリが死角から接近していた
俺の頭を捉えた顎が左右から迫り、その先端がアルティンに接触した瞬間、俺はしゃがんでそいつの頭部に銃口を突きつけ引き金を引く
グシャっとそいつの顎部筋肉が砕け散り、体液が上方に四散する
その死体を退けてヘルメットを拾おうとしたが、チタン製の重装甲ヘルメットは見るも無惨なひしゃげた金属板に様になっていた
初めてのダンジョン突入の結果は敗走であった
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