第八話 休息の日
眩しさに手をかざした後、これが陽の光だと気づくのには少し時間がかかった
妙にリアルな夢だったからか、体に寝汗がまとわりついている
「予知夢かよ…クッソ、目覚めが悪い」
毛布をどかし、ベッドから降りてカーテンを開けると少し眩い光に照らされる
「丸1日寝てたのか…喉も乾いた」
部屋の扉を開け、寝ぼけ眼を無理くり開きながら階段を下る
だがリビングに降りても、家族の姿が見えない
「みんな出掛けてるのか……」
貯水用の樽から水を汲みながら、今日はどうしようかと妄想に耽る
乗馬の練習とか、兵器召喚Ⅱの詳細を確かめたりとかもいいかと思う
ただどうにも疲労が抜けず、ソファにぐったりともたれかかってしまった
こうなってしまってはもうダメだ。ソファに気力を吸われて何もできなくなる
「とりあえず風呂入ろう……臭いがキツい」
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「風呂入ったらめちゃくちゃ元気出てきた」
「それは喜ばしい限りです」
風呂上がりに水を飲もうと思ったら、ちょうど起きたらしいカティが2階から降りてきた
「疲労困憊でほぼ気絶の様に寝入ってしまいました……すみません」
「あれは俺が始めた事だから。ごめん、無理に巻き込んで」
「いえ…義務ですから」
「…そう、まあ今日は休日にしよう。カティもお風呂入りな」
「あ、わかりました。失礼します」
随分と疲れた様子を見せていたので、咄嗟にあんな事を言ってしまった
やはり無理をさせすぎたか。これからしばらく狩はやめておこう
(てか女神の目的阻止ってどうするんだ。後からくるあいつら殺せばいいのか?)
(連中は殺せんぞ)
(は?)
(連中は老衰以外でほぼ死なない。生きようと思えば何度でも生き返る)
(ゲームかよ)
(あぁ、まさにゲームだ。だからこそ、連中を確実に殺すなら心を折る必要がある)
(萎えさせればいいって事か)
(だな)
(まあ戦うのは十何年も先だし、後々でいいか)
(先延ばしは悪い癖だぞ)
(そうかね)
(ああ。それとあの女。どうするつもりだ?)
アークのことか。まあどうするかは悩みどころだ
(一応は戦力としておくが……裏切られたら困るんだよな)
(眷属にしたいが、人間には相当な負荷がかかるぞ)
眷属なあ。こいつの口ぶりからすれば、本来の意味とは違う立ち位置なんだろうが
(まあ様子見だ。機動戦を行える唯一の戦力だからな)
(よくわからんやつだな、お前は)
(俺にとっちゃこの世界の方がよくわからんよ)
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まあ本当によくわからん。
時代的にはお決まりの中世ヨーロッパって感じだろうが、その割にはおかしな点がある
一つ目がこの水だ
中世…てか近現代まで清潔な真水というのは大変貴重で、庶民などはきっちりとした上水道の整備がなされるまではまず飲めない。アフリカの発展途上国を見ればわかるだろう
一応井戸を掘れば飲め無くはないが、設置と維持には相当な費用が掛かる上に地盤を選ぶ
だからこそ中世の飲み物といえばビールやらのアルコール類だ。麦で作れて、アルコールのおかげで川の水よりは清潔かつ保存が効く
次に風呂。そも風呂に毎日入る様になったのは1970年ころからだとも言われる
中世ヨーロッパなんか半年に1回とか、冠婚葬祭の時にしか入らない方が当たり前である
なのに、なのに少なくともこの家庭では毎日入る。市場には仲のいい人もいるが、その人達も嫌な匂いはしないので少なくとも魔族には頻繁な入浴習慣があるのだろう。
人間の方は知らん。アークは遠征中だったので血と汗の臭いがしていた
あと飯。親父曰く俺たちの食生活は普通の家庭と同じらしい
小麦が主原料の白パンと鳥獣の肉を毎日食えて…?
まあ予想通り中世の庶民は毎日白パンなんか食えないし、獣の肉なんか貴重だ
中世の庶民の食生活といえば、ライ麦から作る黒パンに野菜のスープと大量の野菜ってもの
それに家の作り
窓に板ガラスが付いており、さらに暖炉と煙突もある
総じて中世前期と後期に近現代が交わった様な作りであり、一つ一つが噛み合っていない
魔力灯も、言ってしまえば電灯や電気と変わりないものだ
魔導とかいうのはまあ……いいか
これは元々の世界にもなかったしなんとも言えん
違和感の塊、しかし外からの手が加わったものか独自に発展したものかの区別はつかない
まあ俺の他にも転生者がいないと言う保証はない。すでに両親という前例がいるし
「井の中の蛙大海を知らず、とも言うし……ダンジョン攻略後はとっとと学園まで行くか」
ダンジョンの攻略とは言ったが、ダンジョンの事もよくわかってない。
あんないきなり地下空洞ができるもんなのだろうか。正直いつ崩落するかわからない空間に突っ込んで戦闘を切り広げる勇気はない
ただまあダンジョン上階から漏れ出る魔力は局所的な魔力汚染起こすので、とりあえず最低ラインの10階まで攻略しなければならんか
「あ、おはようございます」
「アークか、おはよう。今月中に近隣のダンジョン攻略しに行く予定だけど来る?」
「当然です。ダンジョン攻略は4~5人が最適ですが、銃さえあれば3人でも大丈夫でしょう」
「そうかなあ……」
いささか銃火器を過信しているな。閉所戦闘じゃDMRや機関銃は取り回しが悪くて不向きなんだが…
「まあ、なる様になるか」
一抹の不安を抱えつつも、久々の休日はあっという間に終わってしまった
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2週間後、俺たちは深い森をカティの魔力感知のみを頼りに進み、ようやっとダンジョンの入り口に辿り着いた
「ここがあの女のハウスね」
「誰ですか」
「ただの引用だよ。大した意味もない」
「なるほど」
崖にできたデカい穴はツタに覆われ、遠目からの発見は困難か
とりあえず位置は把握したので、一旦近場に野営地を造ることに
適当に開けた地点を探り出し、天幕と寝袋を含めた各種物資を保管する為に天幕を張った
「ここをキャンプ地とする」
「引用ですか?」
「ああ」
さて、今回は閉所戦闘になるということで色々といつもと違う
まず俺はRPKと共にベネリM4 12ゲージのセミオートショットガンを装備
FRAG-12と言う特殊な炸裂弾と000Bバックショットを合計で32発持ち込む
またフラッシュバンと破片手榴弾を多数ぶら下げ、上腕と首まで守れる6B45アーマー
そしてアルティンヘルメットと、もはや歩く戦車と言っても良い程の重装備だ
カティはSVDSに変わりHK M417を装備
フラッシュハイダーを銃身に取り付け、ハンドガードの右側にフラッシュライトを搭載
レットドットサイトにレーザーサイトを載せ、一応AFG2 フォアグリップを装備している
弾はダンジョン内でも弾道をわかりやすくする為にM62曳光弾で統一してある
アークはまあそのままMG5だが、接近戦用にM9を持たせた
あと給弾方式をベルトリンクの弾倉からバックパックからのベルトリンクとした
装弾数500発であり、相当な重量だが今までの甲冑よりはマシらしいし身体強化魔導でどうにでもなるらしい
斯くして頭ワルワル脳筋弾幕パーティが完成してしまったが、この判断が吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知るところである
アルティンヘルメットのフェイスガードを上げたまま、各種武器や野営地の最終チェックを済ませる
緊急帰還用の魔導陣に防御結界を展開し、テントにも問題がない事を確認した
「重くは無いのですか?」
「気合いとレベルがあるから重くは無いね。準備の方は?」
「完了しました。いつでも突入できます」
「んじゃあ行くかな」
バイザーを下げ、鉄仮面で顔を覆う
各々がコッキングの金属音を鳴らした後、俺たちはダンジョンへと突入していった
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