第七話 旅路の友
タチャンカ、と言えば機関銃を載せた荷台を馬が引く物か、さもなくばガチムチの変態がDP-28を構えているのを想像するだろう
今回俺がやりたいのは前者なのだが、ちょっとだけ違う所がある
「......これ、馬上で撃つんですか」
「まぁ、一応グリップ付けたし.....ね?」
「いや無理じゃないですか。それにリロードとか...」
「一撃離脱オンリーだからそこはカバーする...さ」
「なんですか今の間」
俺の横を歩くアークがその重さに苦労している中、俺とカティが会話を交わしていく
そしてその対象はデザートカラーに包まれ、切り詰めた見た目とは裏腹に900mm近い全長と、レシーバー上部にはACOGの4倍照準器を備えている銃だ
(HK MG5…7.62×51mm弾をベルトリンクでぶっぱなせる分隊支援火器なら馬上でも使えるか...?まぁ少なくともMG42のバイポッド掴ませて撃つよりは断然マシだろ!ヨシッ!)
弾薬はベルトリンクで200発、腰の後ろに弾薬箱を括り付けてその中にベルトを突っ込んでいる
かく言う俺もAK-12からRPK-16に武器を変え、95連のドラムマガジンを付けている
カティはそのままSVDSだ
「タチャンカもどきが何処まで効果的か知りたい。場合によっちゃ、それで部隊でも編成したいな」
「銃騎兵ですか。機動打撃戦力としてみるなら相当良さそうではありますが」
「ドラグーンとか言う奴だな。まぁなんにせよ結果次第だな。まぁその相手が来ない事にはどうにもできない」
「ですね」
カチャカチャと腰の左右のドラムマガジンが揺れる
この身体になってしばらくして気付いたが、握力や跳躍力がバカほどに上がっている
今だって95連のドラムマガジンを括り付けたRPK-16と同じマガジンを2つ腰にぶら下げているのに全くと言っていいほど身体能力の衰えを感じない
「てかダンジョンの調査もしないといけないのか。入学まで時間がなさすぎる」
「10階層までの攻略が条件ですし、そこまで時間はかからないかと」
「ほんとにぃ…?俺まだ魔法とかほぼ使えないから、そこら辺も教えて欲しいんだよね」
「エーカー様なら身体強化くらい覚えておけば何とかなりますよ。一気に近づいて近接戦に持ち込めば大体の魔導師相手には勝てます」
「本当なんですか、それ」
「えぇ。私はそれで何人も屠ってきました」
(おお、こわやこわや。カティに絡め手無しで近接戦挑むのはやめとこ)
今の所、カティは遠近両方に対応できる唯一の仲間だ
俺は魔導刃を扱い始めたばっかだし、アークは機動打撃要員として単独で動かす
俺は1人でオールマイティに動きたいので魔導の勉強と並行して近接戦の練習もするか
「てかアーク…と言うか、俺たちの顔って割れてるのか?」
「いや、割れてないです。でもまあ隠した方が良いですかね」
「うーん……バラクラヴァって召喚できたかな」
おれは召喚メニューから装備品の所を絞っていくと、ちょうどバラクラヴァがあった……が
(あ、2人とも髪長いからバラクラヴァは不向きか。えー…フードに仮面とか?)
「じゃあ、これで大丈夫ですね」
「へ?」
アークが足を止めて手で顔を覆ったかと思うと、こちらを向いてそう言ってきた
その顔は白色をした楕円形の仮面が覆っており、表面には夥しい数の模様が刻印されている
めちゃくちゃびっくりしたが、慌てて取り繕いながらその仮面について問いただす
「えっ何それは…それも魔法?」
「はい。市街地戦や家宅捜索の際、顔がバレるのを防ぐために使用します。ちゃんと前も見えますし息もできますよ」
「めっちゃ便利じゃん。何それ欲しいんだけど。教えて欲しい」
「非詠唱魔法なので難易度高いですよ」
「マジか…じゃあ俺はバラクラヴァで我慢するわ。あ、カティはどうしよう」
「私も使えますよ」
「嘘でしょ」
「本当です」
カティはそう言って人差し指で眉間から鼻先までなぞると、そこから結晶化する様に仮面が広がって行く。同じ様な楕円形だが、色は暗い赤色になっていた
「クッソ使えないの俺だけかよ……」
俺は愚痴りながら召喚したバラクラヴァをつけ、どうせならと装備をPMC風に固めてみる
COMTACをそのままに、リグを6B46にしてMP-443とホルスターを取り付けたあと、余ったスペースにMPのマガジン3本と6kh9-1銃剣、グレネードをいくらばかりか
そしてキャップをかぶる
「重くないんですか?」
「そこまでだね。
RPKを持ち直してからアークに進む様に促す
俺たちはその後ろに続き、辺りを見回したり邪魔な草木を薙ぎ倒しながら進んでいく
「学園に入る前にこんな事して大丈夫なのか」とか
「数時間前まで敵だった女をよく仲間として信用したな」と
そう言う話を何度か交わしながら山道を切り開いて歩く
数分か十数分程、そうして歩くとやがて木の密度が減り、ついに森を抜けた
「湖…か。大きいな」
「カナマ湖ですか。あ、確かに馬がいますね」
カティの視線の先を見ると確かに2頭の馬が少し離れた湖畔に佇んでいた
2頭は仲良さそうに水を飲みながらその栗毛を輝かせている
「よし、とっとと......いやアーク。どちらがお前の馬だ」
「安心してください。もう死んだ
俺が構えかけたRPKをアークが片手で抑えるとMG5を肩に掛けて馬に近づいて行く
カティに周辺警戒のジェスチャーを出した後、俺はアークを追う
「馬の事はわからんが、賢そうだな」
「とてもいい子ですよ、2人共」
アークが2頭の頭を撫でながら笑っている
「この全身が茶色の子がパルで、この足先だけ黒い子がツィルです」
「2頭とも連れて帰るか?」
「はい。2人とも鞍はあるので、乗ることはできます」
「俺は乗れないけど、カティなら乗れる」
ここ最近はあまり市場にも行っていなかったが、狩に出る前はよくカティや父さんとよく馬に乗って市場まで行っていた
ともあれ馬の回収という目的は達成、斯くして2日間にわたる狩が幕を下ろした
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「アークの事は”魔物に襲われて死にかけていた所を助けた”って設定で通すから。口裏合わせは頼むよ、2人とも」
「その内ボロ出そうですね」
俺はバラクラヴァとComTacを外し、RPKを膝の上に置いて馬に跨っている
奇襲や交戦もなく穏やかに山道を下っていくが、一応周辺警戒は怠らない
…まあカティの前に座っているので、そこまで視界は取れないが
「こうしてエーカー様と乗馬するのも久しぶりですね」
「最近は丸1日使って狩とか多かったからね。息抜きがてら、また市場にでも行こう」
「はい。にしてもエーカー様はまた大きくなられましたか?」
「多分?170強ってところかな」
「そろそろ追い越されてしまいますかね」
「案外この辺で止まるかも。まあ175はほしいかな」
「魔族の女性が言うに、自分より小さな男は好まないとのことですよ」
「えっ175あっても小さい方なの...?」
「魔族は基本大柄ですからね。女性で190程ある者もおりますよ」
「おおう......」
「エーカー様ならきっといい方と出会えますから。ご心配なさらなくともきっと大丈夫ですよ」
そんなもんかね━━と言葉を零したしばし後、人肌の温かさに包まれ、眠気が段々と強くなる
カティもそれを察したのか、静かに右手で俺の身体を手繰り寄せる
「不眠不休の数日間でしたから…しばしお休み頂いて、着いたら起こします。おやすみなさい」
全身の強張りがふっと消えた時、俺の視界はこれ程までになく暗転してしまった
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