第六話 魔王らしい戦い方
男の背後から、その声はした
そいつが声の主を確認した時、私も男も分け隔てなく、酷く恐怖してしまった
男は私の胸に短剣を突き刺したまま、立ち上がって腰の剣を抜くと、少しばかり震えた声を絞り出す
「お前...その溢れ出る魔力......てめぇが魔王候補ってヤツかよ。ちょうどいい、ここで殺してやるよ...」
背中と胸の出血で五感が朧気になっても分かる
あの魔力の漏れは異常すぎる
背後の夜空すら覆い尽くすほどの魔力が、異形を成して天地に伸びている
黒いローブの下で、赤い目が無機質な殺意と混ざりあって光っている
「死ぬのはお前だよ、
ローブの男...魔王が右半身と右手を突き出し、その手に握られた何かから青い線が伸びている男の方はと言うと、魔王の迫力に気圧されたのか先手を打てず足踏みをしている
「魔王のクセしてビビってんのk━━」
そう言って勇者が剣を構えた、その瞬間
バシャッと、瑞々しい果物を砕いた様な音がして男がピクピクと痙攣した後、地に伏した
「はっ..はっ..はっ..うぐぇ..はっ.....」
私は逃げようと失血と痛みに抗って身を起こすが、直ぐに膝を付いてしまう
土を踏みしめる音が段々と近付くが、何も出来ることはない。ないはずなのに、身体が生きようとする
両手で短剣の柄を握り、引き抜こうと力を込める
「やめろ。出血が増して助かる確率が落ちる」
痛みに耐えかねて夜空に視線を向けた一瞬に、男は私の目の前まで来ていて
しかも私の手を解きながら、楽な姿勢に変えている
「勇者っ....は...頭を...っ...吹き飛ばしただけじゃ...」
「喋るな。直ぐに治癒魔導を使える奴が来る」
「銀の...剣で...心臓っ..を...」
なんでそれを話したかは分からない
これからどうなるかは分からない
ただ、消えゆく意識の中で、願うのは......
「死にたくは...ない」
━━━━━━━━━━━━━━━┫
NVDを上げ57をホルスターに突っ込んむと、急いで女の方へ駆け寄る。情報源を死なせる訳には行かん
「カティ!早く!」
「はい!ここまでの傷は時間がかかります!援護を頼みます!」
「分かった、絶対に死なせるんじゃないぞ!」
「ご命令とあらばッ!」
カティに女を預けたあと、俺はすぐに召喚メニューを開いて目的のものを探す
「銀の弾丸なんざ使ったことある銃あんのか...?」
思考を弾丸に絞ると、1つの銃が最後に出てきた
(お前すげぇな)
おれはその銃を召喚すると、銃口を心臓に突き付けて引き金を引く
銀の30-06スプリングフィールド弾が男の心臓を貫き、土と血の混じった物が吹き上がる
8発撃つと同時にボルトストップがかかり、キーンと甲高い金属音がなりクリップが飛び出す
「M1ガーランド...はは、やっぱ良い銃だ」
俺はガーランドに別のクリップを装填し、そのまま肩にかける
小手先の技で不意を突けたが、正面戦闘にならなくて良かったと思う
「お、結構上がってるんだな」
死亡確認がてらステータスを開いたが、相当な魔力を保有していたのかLvが20ちょっと上がり、これまでの戦闘も含め154となっていた
魔力総量は18400となっていたので装甲車程度なら召喚できるだろうか。というか人狩りのレベル上げ効率が良すぎる。魔物狩りの2~3倍は効率的だ
そして能力の枠に「!」の記号が着いていた
タップして確認すると、兵器召喚の名前が兵器召喚Ⅱとなっていた
詳細を確認すると、どうやら「ツリー」と「兵站」という物が追加されている
(悪魔、なにこれ)
(ツリーは召喚する武器を発展できる。例えばそのM1ガーランドをM14ライフルに改造できたりだ)
(兵站は?)
(医療品や食料を召喚できる。今のLvだとレーションや真水、止血帯に骨折直し程度が限度だがな)
(真水とレーションさえあれば十分だ。じゃあな)
(相も変わらず雑な扱いだ)
既読スルー並に無反応で会話を断ち切る
ガーランドの詳細欄に視線を移すと、確かにツリーというものがあったのでタップする
ツリー欄はまぁゲームのツリー欄的な感じだ
M1から横に線が伸びてM14の枠に繋がり、M14から更にMini14とMk14に分岐している
M1をタップすると下にM1CとM1D、その下にはM2ライフルもあった
(まぁ後でいいな。とりあえずあの女を...どうしよ)
残敵は10人程度。正直殲滅してもいいが......
仲間にすると言う手もあるか。いや散々仲間を殺して置いて仲間になるか...?
......いや、眷属か。否が応にも仲間にすれば
「カティ。そいつの処置が終わったら一旦退け」
「了解です」
暗視装置を上げた、月明かりの蒼い草原に鮮血を纏う人間が2人寝そべっている
(女の方...仲間にでもしてみるか)
男の死骸にある仕掛けをした後、振り向いてカティの方へ歩み寄った
夜風が赤髪を靡かせて、微かに揺れている
治癒は終わり、既に女は意識を失ったままの様だ
「外傷はどうなった?」
「縫合と鎮痛は完了。完治にはあと10日程です」
「なら森まで後退する。俺が殿を務める」
「わかりました。お願いします」
カティは女を担ぎあげると、元々いた木に向かって歩き始めた
M1を手に後を追って行く
逃走に夜襲、騙し討ちからの捕縛、そして仕掛け
いやはや......
「多少は、魔王らしくなったか」
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翌朝、予想通り迎えが来た
でかい鳥が2匹に、そこへ乗った人間が5人
騎士が1人、聖職者らしき人間が4人
「紋章的に、やっぱフェンタルの人間だな。勇者の死骸の回収か。ご苦労なこった」
聖職者達は鳥を降りると、勇者の惨状に酷く狼狽しながらもその骸を持ち帰ろうと手を伸ばす
そしてその身体が少し地面から持ち上がった時......
爆風で地面から土埃が立ちのぼり、少し遅れてドンッと爆音が届く
胸の底を揺らす様な衝撃が伝わってきた
「...ブービートラップですか」
「知ってるの?」
「爆発魔法を仕込むのは常套手段ですが......あそこからは何の魔力漏れもありません」
「そりゃそうよ。だって仕込んだのは...」
改造した152mm榴弾だからね━━
そう。152mm榴弾の信管を改造してワイヤーで勇者の死体と繋げたのだ
ワイヤーが一定の張力に達すると信管が作動、後は見た通りである
8kg弱の榴弾が至近距離で爆裂したのだから、生存者は居ないだろう
「さて。じゃあ彼女の尋問に移るかね」
俺は構えた双眼鏡を下ろし、木の幹に縛り付けた女を見る。金の短髪にカチューシャを付け、身長は目算160...165程度。目は赤い
カティがナイフで猿轡と目隠しを切る
「とりあえず名前と、俺達を追いかけた目的を」
「......マーシャル・ナハト・アーケルフ。目的は魔王候補の情報収集」
「普通は情報収集であそこまで追いかけないだろ。威力偵察か?」
「死んだバカが勝手に始めた事ですよ。引くに引けないからここまで追いかけただけで」
「有能な的より無能な部下ね......じゃあ所属部隊と上級部隊の名前。あと根拠地は?」
「所属は第11魔導騎兵団、上級部隊はフェンタルの国家憲兵軍第107内務大隊。あ、騎兵団も国家憲兵軍隷下。根拠地はタルハ市」
「大隊の規模と、次はどんな手で来るか。喋れ」
「編成定数は1200人。次の手は総力戦か、戦力の逐次投入で情報収集の後、残存戦力で夜襲かと」
「戦術は?」
「爆破魔導による漸減の後、速力と防御力を活かした白兵突撃」
俺はそれを書き記しながら、チラチラとアーケルフの方を見ていく
特段反抗の様子は無く、そもそも俺の捕虜の認識とはだいぶ異なった行動をしている
「はぁ...なんかこう、捕虜って最低限の事以内話さないもんじゃないのか。どうしてこうペラペラと......」
「......そもそも、私は一応高貴な家系の人間です。貴族は金払いがいいから、基本こんな事せず身代金と交換して軍資金や予算に回すので殺されない事が多い」
俺は指でトントンと枝を叩く
(やっぱそうだよな。対尋問訓練とか強化尋問とかないか。いや強化尋問と同じことするのはあるけど)
(うーん、仲間に出来るか?仲間にして...いや戦力は多い方がいいけど、一人の人間が管轄出来んのは多くて8人までとか聞いた事あるし...)
(銃を与えるか...?えぇどうしよ。カティはタッパあるから長いSVDS与えたけど...えぇ...?あ、でもコイツもライフル並の長さの杖使うのか。なら大丈夫?)
(てかカティは射撃の腕がいいからSVDSにしたけど魔導騎兵の戦い方とか知らんし...ん、てか騎兵ってんなら馬は?)
「お前らの馬は何処にある?」
「森の中に。まぁ騎兵と言っても、部隊指揮官しか軍馬は使いません。魔導騎兵とは名ばかりですよ」
「名ばかりねぇ...」
騎兵...騎兵か。いいなこれ
騎兵の機動力は魅力的すぎる、これに銃火器の打撃力を加えれば相当な戦力だ
欲しいな、是非とも欲しい
「......アーケルフ、だったな。お前仲間になるか?」
「本気で言ってますか?私は敵だったんですよ」
「本気で国家憲兵軍に忠誠を誓ったりはしていないんだろう?」
「まぁ、いい所の家系だったから入れられただけで別に国への忠義も何も無いですよ。仕事してれば衣食住と賃金が貰えて、そのついでに楽しかったから続けてただけです。どうせ戻った所で殺されるのがオチなら、喜んで仲間になりますよ」
「粗雑な人間だな。まぁいい。仲間になるから歓迎しよう。エーカー・ガルテンだ」
「ラフェリア・エジカテーナです」
「ではこれからよろしくお願いします。2人とも」
「ああ、よろしくなアーク」
「では早速......この縄、解いてくれません?」
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