第五話 月夜の記憶
その日の夜
俺達は平原ではなく、森との境目にある大木の中に伸びた、大人が1人寝そべられる程に太い幹の上に座っている
俺は双眼の暗視装置を上げ、双眼鏡を手に400m強先の魔術師の野営地を眺めていた
焚き火を囲って飯を食っているのが11人、警備が四方に4人
その中でも1人だけ目立つ人間が見える
フードを下ろした金髪の女で、あたりの人間の振る舞いと格好から指揮官だと推測できる
「15人相手かぁ...一気に減らさないとだなぁ」
「またあの...なんか爆発するやつを使っては?」
「
「今の魔力残量はどれくらいで?」
「7240S。ただ同じ事だけは芸がないと思うのよ」
双眼鏡を下ろし、幹から足をぷらーんと垂らしながら召喚メニューを開く
ライフルも拳銃も逃げる時に還元してしまったし、ライフルをフルカスタムだけでもかなりの魔力を消費する
「...ステルス、やってみるか」
「ステルス...?とは」
「んー、簡単に言えば敵に見つからずに目標を達成する事かな?まぁそんな技術はないから、ステルスごっこって感じだな」
「なるほど...?それで目標は何にするのですか?」
「あの指揮官風な女。あいつをひっ捕らえて情報を引き出す。色々と知りたい事もあるし」
そう言って俺はMP-443とは別の拳銃を召喚する
MPとは違う合成樹脂のスライドとレシーバーに少し大きいグリップ、長いサプレッサーにドットサイト
レシーバー下部にはXH50という、レーザーサイト付のライトを装備してある
「テッテレー、FV Five-seveN。SS190弾ならアイツらも抜けるだろ」
俺は満足気にそれを眺め、次にデジタル迷彩のローブと真っ黒なシースナイフも召喚した
その後に20発マガジン4つにナイフをリグに納め、かっこよくローブを身につける
残りの魔力はSVDSのマガジンと弾丸にしておく
「あの女が休息に入ったら仕掛ける」
「援護はどうしますか?」
「俺に気づくか攻撃の素振りをしたヤツとレーザーを当てたヤツ以外は撃つな」
「わかりました」
カティはSVDSの弾倉を交換すると別の太い幹に移りバイポッドを立てて寝そべった
夜間にも関わらず夜間照準器も使わずに標的を覗いているが、これも竜の血がなせる技か
それはともかく、俺57をコッキングしながらその時を待つ
SS190弾は射距離100mでもボディアーマーを貫通できる優れた貫徹力を誇る高貫徹弾だ
俺は逃走の最中に至近距離から9mm 7N31を叩き込んだが貫通や流血した様子はなかった
(バリアかなんか知らんが、7.62×54R徹甲狙撃弾はともかく5.45×39mmのBS弾で貫通したならNIJ規格のレベルⅢ未満。レベルⅢAまで貫通する
月明かりが雲に遮られた頃、遂に悪魔がその赤い双眼を開いた
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警備していた魔導士の後ろを取り、そのまま組みついて喉元にナイフを突き立てる
コポコポと血が流れ、息の根が止まる前に心臓へ一突き
動かなくなった後俺は体を起こし野営地を見る
(あーね。誘い込まれてるわ。どうしよ)
焚き火は消され、野営地は暗闇と静寂に包まれている
何となくそんな気はしていたが、こいつら何らかの通信方法を確立してるな
まぁ警備は今ので4人目だし、特段問題はないとはいえ捨て駒にされたのは同情物だ
(お前は魔道通信は使わんのか?)
(ガチで後出しやめろ。で魔道通信ってどうすんの)
(会話したいやつを思い浮かべれば会話できるぞ。魔族なら大体できる)
(あね、理解したわ。じゃあバリアとかって使える?)
(バリア…シールドか。あれはこう……そういう魔法が刻印された装飾品があって、それさえあれば誰でも発動できる。発動と終了の2回だけ魔力を流せば良いしな)
(ふーん。その装飾品ってこれか?)
俺は死体から首飾りやブレスレットを剥ぎ取って調べる
(首飾りはシールドと個体識別の魔道が刻印された複合品か。しかし個体識別は持ち主の血で行われるからな。欺くのは困な……何をしている?)
(頸動脈に入れてる。もし1番近いところの血液で判定してんならこれで欺瞞できんじゃね)
(人の心とか……)
(使えるもんは使わないと。しかも俺魔族だし。悪魔に言われたくないし。それで、この派手なブレスレットは?)
(近接魔道用の媒体だ。魔力を流せば一定範囲で使用者の求める形に変形して現れる)
(はぇー便利。で、どうやって魔力流すの?)
(えぇ…あ、お前まともに魔法使った事ないのか)
(しゃーない。銃火器が強すぎる)
(まぁなんだ。心臓から血管を辿る様な感覚を目的の場所まで繋げろ)
(むず。まぁ試してみるわ。そんじゃ)
悪魔との会話をぶった切り、ネックレスまで言われた通りの感覚を伸ばす
すると体の奥底からゾワゾワとした何かが込み上げ、全身に鳥肌が立つ
首飾りに埋め込まれた何かが静かに光ると、頭上から足元まで六角形の透明な板が発光しながら覆ってくる
まるでビー玉の中にいる様だったが、程なくして発光は治った
「あね。よしよし。じゃあ行くか」
俺は一歩、野営地の方へ踏み出した
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私は戦闘の報告書を書き上げると、ため息を一つ吐いて紙束を整える
元々の命令は、新しい魔王候補の存在を探知したからその情報を集めろ、と言うものだった
正直逃げ出したかった。魔王候補といえど、その素質ある者に人間程度が勝てるわけがないのに、今更偵察なんかしてどうするつもりなのか
付けられた将校も最悪だ。傍若無人という他ない
宮廷将校というだけで私から部隊の指揮権を取り上げた上、戦果に目がくらみ勝手に攻撃を仕掛けて、気づいたら死んでいた
戦闘慣れしていないのに接近戦など挑むからだ。あいつの
蛮勇と欲望のおかげで、第11魔道騎兵団は壊滅。特に思い入れもなかったが、流石に心にきた。
110人もいたのに、もう20人も残っていない。だから逃げ出したかったのだ
だがもう、全て遅い。勝てもしない、勝算もない。生還の見込みさえ……
だから最後、せめて一矢報いようと
「化け物め……」
私はトントンと側頭部を叩くと、目の前に周辺地形を模した地図が出てくる
野営地を中心にした物だが、その野営地に向かってくる青い点があった。警備の魔導師の物だ
「ちょうどいい......夜風にでも当たるか」
そう言って席を立ち、1つ大きく伸びる
バサッとテントの幕を払い外に出ると、気持ちのいい夜風が肌を撫でるように通り過ぎた
先程まで魔力灯を使っていたので、目が慣れない
ふと横を見ると、のろりと歩く人間が見えた
「そこのお前!哨戒はどうした!」
暗闇に目を凝らし、追い風の中で声を掛けるが返事が聞こえない
風のせいかとも思ったが、聞き返す声もない
「...なにかあったのか?」
ようやく目が慣れてきたと言うところで、月明かりがまるで本のページをめくるように辺りを照らす
青みがかった草原の中、それが姿を現した
「ッ?!勇者バルトロス・ロード...!」
「どうも、魔導師ネイド・レイラント」
(こいつは...
人間種にだけ現れる能力の《勇者》を持ったフェンタル連合の中でもそこそこの実力者じゃないか...)
私は咄嗟に近接戦用の魔導刃を展開し、警戒しつつ言葉を紡ぐ
「なぜ、貴様がここに?」
「話す義理もない。どうせここで死ぬ」
「はん、ヴァイダードと
「まさか...まぁ長話する必要もないし...」
殺すか━━
その言葉と同時に、衝撃波で土埃が舞い上がる
ヤツが踏み出した証拠だ
侵入経路を絞る為にトラップを置いて、魔力を軽く放出させ警戒陣を引こうとする
「対地対空トラップ展開!警戒魔ど...」
しかし警戒魔導を敷く前に、背後から激痛が走る
反射的に振り返り、牽制のために刃を振るうも腕を掴み取られる
「暗くて見えなかったが、中々にいい顔付きだな。兵士よりもいい生き方があっただろうに」
怪力に腕を痛めつけられ、魔導刃が粒子となって消え去る
無理やりにねじ伏せられるように、両足をついてしまった
「その顔は遺してやる。少し痛むがな」
男の短剣が、私の左胸に押し当てられる
シールドが刃を拒むも、ジリジリと肉が断ち切られ
肋骨の隙間を刃が進む
呼吸すら自覚できるほどに浅く、痛みに意識が朦朧としてきた
「勇者とあろう者が、関係ないヤツ相手に弱いイジメかぁ?」
━━そりゃないだろ。魔王じゃあるまいに
その言葉は、今後一生忘れる事はないだろう
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