第四話 遠距離魔法なんかより自動小銃で戦いたいと思います

折れた小枝を踏みながら、俺達は森を進んでいく

聞こえる爆発音や声は、着々と大きくなる


「てか、なんでカティは戦闘を察知できたの?」


「魔力の漏れです。大きな魔法を発動した時や生物が殺された時、微かに魔力が漏洩するんです」


「そんなの分かるんだ、すご。俺はわかんないな」


「褒めて頂きありがとうございます。この魔力の漏れを感知出来るのは、限られた種族だけですのでご心配なされずとも大丈夫です」


「え?カティって人じゃないの?」


「はい。薄くはありますが竜の血を受け継いでいますので。その証拠にこんな物が…」


彼女がそっと自らの側頭部を撫でると、耳の上あたりから後頭部に流れる短い突起が現れる

少し湾曲したそれは黒くゴツゴツとしており、先にかけてすぼんでいる。

いかにも竜のツノといった様子を醸し出している


「魔王2人にその候補1人と竜の血を継いだのが1人となんて言うか、うちの家族はキャラ濃いね」


「……ありがとうございます」


「なんか感謝されるような事したっけ」


隣を歩くカティを横目に見るが、赤髪とツノを再び隠す仕草で顔が見えない

まぁ良いかと思い再び前を向いて歩いて行く

いつか戦闘車両も出したいが、それにはまだまだレベルが足りない

この前少し見てみたが、使いやすそうなT-72Aは必要魔力が24000で俺が2回死んでも出せない程であったし、個人的に好きなT-80U系はUDで60000、UE-1で67000と桁違いに高い

Lv.200程度までいかないと召喚できないんじゃなかろうか

しかもFCSやアビオニクスで西側に劣る東側戦車でこれであるからに、M1やLeopard2系統など想像もしたくない


「道は長いな」


「『千里の荊棘も勇気の一歩が切り開く』、です」


「これが蛮勇じゃなけりゃ良いけどね」


木々をの間を通り抜け、草を踏み倒して歩く間にもそんな雑談を繰り広げる

魔法の爆音も兵士の声も収まりを見せず、あたり一体に響き渡っている

そしてまた、何の変哲もない立木に手を触れた、その瞬間


「エーカー様ッ!危ないッ!」


カティが怒鳴り声をあげ、俺の右肩を掴むとそのまま地面に身を投げる

その直後、先ほどまで目の前にあった木が弾き飛び、木片が高速で四散する


「クソなんだってんだッ!カティ大丈夫かッ?!」


咄嗟に庇ってくれたカティを心配しつつAKを構えて戦闘態勢をとる

セーフティを解除しながらカティの方を見るが、どうやら外傷はない様に見えた


「すみませんエーカー様、咄嗟の事で…」


「平気だ、庇ってくれてありがとう」


「いえ…義務ですから」


「…そうか。にしてもいきなりなんだこれ。流れ弾か」


「おそらくそうでしょう。しかしここまでの威力となるとかなり激しい戦闘の様です」


「なら急ごう、立てるか?」


左手を差し伸べると、カティはその手を取って立ち上がると、土まみれのスカートと外套をそのままに、SVDSを持ち直す

2人で一気に駆け出し音の方向のぐんぐんと接近すると、木に塗れた森が唐突に開けた

その先は急激な崖になっており、音はその下から鳴っている


「下か…撃ち下ろせるな」


そう言って数歩踏み出し、崖の下に何百人もの兵士がいた

多くは軽装の楔帷子、フルプレートも多く見え、それらの後ろに杖と厚い本を持った人間が見える

無秩序な乱戦が、そこで繰り広げられていた


「……フェンタルとヴァイダードの連中か」


「人様の土地で好き勝手争っていますね」


鎧の紋章を見るに、魔族の領地に接しているフェンタル連合国とヴァイダード神聖国の連中だとわかる。最近また領土争いが起こっているらしいが、ここは魔族の領地だぞ。

殺し合う分には構わないが、人様の土地ではやめていただきたい

俺たちはそっとセーフティを解除し、その照準をまず派手な鎧の人間に合わせた


「まず指揮官クラスを殺す。そのあとに魔導士だ」


「仰せのままに」


前線に立つ指揮官が剣を掲げ、動きが止まる瞬間


Pash…pash…


5.45mmと7.62mmの死神が、その頸動脈を掻き切った

高く掲げた剣城が落ちるまでに、さらに1人2人と撃ち抜かれていく

この世界のこの時代、この様に指揮官を真っ先に狙い撃つ行為は『恥たる処刑dishonor execution』と呼ばれ避けるべき物であったが、魔族であり転生者である俺にとっては知った事ではない

空薬莢ひとつと、人の命がトレードされる

そんな事を行うのは初めてではない


「やっぱり戦争が迫ってるな。小規模な部隊が森の中をうろついていたのも納得だ」


「ことごとく殲滅していたので、おそらく勝手に互いの仕業だとでも思ったのでしょう」


カティに新しいマガジンを渡しつつAKのマガジンを交換する

数十発の弾丸だけで、既に連中の魔導士と指揮官級は壊滅し、まばらな魔法の反撃はかえって生き残りをさらすこととなる


「しっかし普通の歩兵が多い。《アレ》を使うか」


俺はAKを背後に回し、長さ1m強程度の無骨で緑色をした筒を召喚する

105mm口径の使い捨て式対戦車ロケットのRPG-27……ではない

それを元にしたサーモバリック弾発射機RShG-1だ


「カティ、少し離れる。その間援護頼む」


「了解」


試射もしていなかったのに、カティは既にSVDSを使いこなしている

1発1発が敵の装甲の隙間や動脈を狙い撃ち、限りなく少ない射撃数で敵を撃破している


ただ他人の射撃を見ていて勝てる訳では無いので、俺は俺の仕事に取り掛かる

フロントとリアの照準器を展開し、安全ピンを引き抜いてRShGを担ぐ

距離にして120m程度、照準を合わせ、背後を確認してから発射筒の上にある射撃装置を押し込む


BASHHH!


AKのそれとは異なる大きな反動が伝わると同時に大きく長い弾頭が一直線に数十人の集団へと突っ込む

加害半径10mに広がる一連の爆風、爆圧、爆縮

そして燃え上がる炎によって辺りは酸欠状態となる

密集した相手はたちまちと吹き飛び、肉片の一部が崖の壁際まで吹き飛んだ


「たーまやー」


そう言って空の筒を放り投げると、新しい発射機を手に取る

今回召喚したのは3発分で、今抱えているのを含めてあと2発ある

同じ手順を踏んで、後方もよしと確認してからある事に気づく

を言っていないのだ

とりあえずもうひとつの集団に照準を定め、ひと息吸って準備を整えてから....


「RPGッ!」


BASHHH!


本来は撃たれる側の言う言葉だが響きがいいし言ってみたかったので仕方が無い

燃え盛る集団を横目に、残った1発を背負ってカティの傍に戻った

先程からなにか、違和感のようなむず痒さを感じる


「妙だと思わないか?」


「やはりですか」


俺はカティに背中を向け、今しがた抜けてきた森に銃口を向けて警戒する

この違和感の正体は大方見当がつく

が居ないのだ

連中は崖下で戦っており崖の上は死角になっている

殊更森の中など、どうしようと見えるはずが無いのだ

つまり......


「あの魔法を発動したヤツは、今も何処かにいる」


この崖の上のどこかにだ

カティと俺は互いに背中合わせになり森の中を何度も見返している

木の影、根元、岩の上に倒木の端

至る所を探しても、そいつの姿は見えない


「......やはりただの流れ弾か?」


俺は使った弾薬を補充する為に召喚メニューを開き、6L31マガジンに弾薬を込めて召喚する

そして装填の為に、AKを下げ気を抜いた時━━


「いました!左前方の木の上です!前方190と後方70mにも3人!」


目だけを動かしてそちらを見る

しかしそこには何もおらず、だが青い光が魔法陣のようなものと共に大きくなっている

俺はAKをコッキングしチャンバーの弾薬を取り出すと照準も儘ならない中トリガーを引く

撃破したかは不明、しかし光が消えたのでまぁ殺っただろう。が、状況は依然として不利


「包囲されたか...!カティ、背後に火力集中して包囲を突破するぞ!続け!」


「はい!」


にしても敵の数が多い。対応と回避に追われて狙いが定まらないのもあるが、それでも多すぎる

に...し...ろ...や...と...に...


「前方だけでも12か...ええい!このまま家に帰る訳にはいかない!森の外で殲滅する!」


「平野でですか!それでは...」


「詠唱前に撃ち殺せばいい!それより視界の悪い中で奇襲される方が不味い!」


最後に残ったRShGを発射し、森への突破口を切り開いて走り出すと、カティはSVDSを背中に回し短剣を引き抜いて後ろに着いて来る

AKの走り撃ちで頭を抑えているが、直ぐに数十発など撃ち切ってしまった

左手でAKのグリップを握り脇に抱えてから右手にMP443を召喚して撃ち続ける


「邪魔なぁッ!」


杖先の刃を構え飛び出して来た魔導師の鳩尾をAKの銃床で殴り、怯んだ隙にMPを胸から腹に叩き込む

AKとMPを傍に投げ捨て還元し左手にスモークグレネードを召喚して投擲すると同時に走り出しカティを追う


「はっはぁ!今殺したので何人目だ!」


「20から先は数えてません!」


「あのローブとかは見た事ある?!」


「ヴァイダードの国家憲兵軍かと!ただ本来は治安維持の為の部隊がここにいる筈は...!」


「とりあえずは撒くぞ!草原まで走る!」


既に体力を消耗しているが、ここで止まる訳には行かないのでスモークの召喚と投擲を繰り返しながら走ると、やがて森が開ける

九死に一生、地獄に垂れる蜘蛛の糸

形勢逆転の為の立地が、そこに広がっていた

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