第三話 かすかな進展

「父さんと母さんは、俺が転生者だって言って信じてくれる?」


散々考えたにも関わらず、話の切り出しはこんなにも唐突になってしまった

俺の対面に座る父さんも、その隣に座る母さんも驚いた様に目を見開いたが、すぐに納得した様な目になって口を開く


「あぁ、信じるよ。しかしまぁ、やっぱりと言ったところか」


「証拠とか、欲しくないの?」


「あるなら欲しいけど…あるの?」


「あるよ…でも、驚き過ぎないでね」


俺はグラッチを静かに抜き、決して銃口が人に向かない様に注意して机の上に取り出す

黒光りするスチール製の拳銃の側には、メタリックに光る銅色の9ミリ弾が10発弱


「能力は兵器召喚。今はこの拳銃を召喚するので精一杯だけど、そのうち戦車とかも召喚できる様になる」


「なるほど。良い能力だな」


「取り扱いには気をつけてね?間違っても大事な人とかに…」


「当たり前だよ母さん。能力のおかげで扱いはわかってる。もちろん慢心せず扱うよ」


「ならいいけど…」


「そうだエーカー、なら明日からの狩は拳銃そいつでやるのか?」


「うん、グラッチをメインにやるつもり。でも一応短剣も使うよ。弾切れになって何もできませんじゃ話にならないしね」


「良い心意気だな。カティの剣術は素晴らしいから、何かあったらすぐに頼れよ」


「わかった。カティ、背中は頼んだよ」


「お任せを」


意外とすんなり納得してくれた事に安心しつつ、食事を進めていく

改めて見るとこの世界の食事は欧州風なのか、パンとスープ、あとジャガイモみたいな物が基本になっている

どれもしっかりした物で、スープには豚肉の様な肉がいくつか入っているし、副菜は主に鶏に近い味をしたものが多い

どれもこれも、父さんと狩ってきた物だ

父さんは能力…と言うか魔法を使った狩に長けている様で、短い詠唱で放った1発の小石が、大きなクマを一撃で倒したのも見たことがある

それに家族が本当に好きな様で、過去に母さんが軽い風邪にかかった時など三日三晩、つきっきりで介抱していた


母さんは飯がうまいし、要領がいい

狩ってきた獲物を余す所なく調理してくれるおかげで毎食毎食、腹八分目など忘れて食べてしまうし、マルチタスクなどお手のものなようだ

炎系の魔法の扱いに長けており、どうしても食べれない所は外で灰にしている

俗に親バカという物で、よく過保護な一面を見せている。


カティは基本何でもできる様で、よく俺と一緒に洗濯を干したり家の傷を治したりしている

魔法は見たことがないが、料理しているところを見るに刃物の扱いが相当にうまい様だ

それに俺の事は何かとわかっている様で、たまに欲しいと思った物を口に出す前に持ってきてくれる。本当に頭が上がらないが、従者としては当然と考えているらしい

そしてでかい。今の俺の身長は170程度だが、どう見ても180強はある

一見華奢に見えるが体幹はしっかりしている様で、この前階段から落ちた時は普通にキャッチしてくれた。惚れちゃう


そうして近所の何々さんがどうとか、最近は豊作気味だとか話しているとき、父さんがふと思い出した様に、とんでもないことを言ってきた


「そうだエーカー。来年の春…まぁ4月頃から、お前を人魔共学の学園に入学する事になった」


「ん?え?」


「いや、いきなりですまん。なんせ、今日突然招待状が来たから…」


「えぇ……え。拒否権とかないの?」


「んまぁ、入学した方が色々と便利だぞ?卒業証を提出すればレストランとかで割引されたり、検問を通りやすくなるし。まぁ中等部からの入学だから、それまでにある程度は魔法の知識をつけないとだけどな」


「あとダンジョンも10層までいかないとだったかしら」


「まぁ、そこら辺はカティが詳しい。狩の時にでも教わってくれ」


「わかりました」


そこからもしばらく、学園について話していった

曰く、魔法の研究機関を兼ねた施設で、有望な魔導士と魔法を育てるのが主目的だという事

曰く、その為に人魔も男女も分け隔てなく入学を許可しているという事

曰く、魔法と能力の強さによって区別されるという事

な話に興味を沸かせつつ、その日の夕食は終わった


日も暮れて、風呂に入った後に自室でグラッチのマガジンに9ミリ弾をこめている最中にふと思い立ち、悪魔を呼び出した


(ヘイ悪魔)


(俺は人工知能じゃないが。で、何だ)


(夕食で聞いたけど、ダンジョンって何)


(魔物の発生しやすい地域の総称で、多くは洞窟や平原だが人工的に作られた塔型もある)


(で、10層ってのは?)


(魔物の強さが明確に上がる階層だ。基本的には攻略不可能ではない)


(この辺だと?)


(人間の領地にあるものだ。31層まで攻略してあるな)


(今の俺だとどこまで行ける?)


(19までだな。それ以上は厳しい)


(おっけ。もういいよ)


(扱いが雑過ぎるだろ)



パッと脳内の会話を断ち切った時には、もう9ミリ弾は薬室用の1発だけを残すのみとなった

家族公認の転生者、新たに得たダンジョンという物


「うぁ…今日はもう寝よ。これからは忙しくなりそうだし」


時刻にして9時半過ぎ、魔力灯の明かりを消して俺は眠りについた…


━━そしてこの2週間後に冒頭の場面へ繋がる



━━━━━━━━━━━━━━┫



この2週間で、俺のレベルは87、魔力総量は9200にまでなった

カティも銃の扱いには慣れた様で、初心者とは思えない命中率を誇っている


「はー、飲み込みが早い。射撃精度も高いし、マークスマン選抜射手でもやらせるかてみるかな」


「マークスマン…?」


「まぁ、簡単に言えばアーチャーの中に狙撃できる魔導師を混ぜる感じよ」


「なるほど。となるとそれグラッチとは別の銃にするのですか?」


「だね。取り回しやすくて、そこそこの威力で……」


召喚用のウィンドウを開いて考えて行くと、まず取り回しを考えブルパップに絞られる

そして高威力となれば7.62mm以上は欲しい。長銃身で尚且つ高貫徹弾を使用できるとなれば……

OTs-03Mか、その原型のSVUか。RFBライフルも7.62×51で良さげだ……

いや、別にブルパップじゃなくてもいいか。ストック銃床を折りたためるだけでも十分か?


長銃身、大口径弾薬、射撃精度に連射力……あと見た目

これらを兼ね備える銃は…これだな


Снайперскаяスナイペルスカヤ Винтовка ヴィントレフカ Драгуноваドラグノヴァ Складнойスカラドノーイ……」


俺達の間に、一丁の黒光りする長物が現れた

細長い銃身、軽量化された銃床、レシーバーと同じ程の長さのスコープを備えている


「これは…」


「SVDS、通称ドラグノフって呼ばれてる」


「長いですね」


「カスタムで銃身長640mmに専用サプレッサー、スコープは4-20倍。バイポッドにレーザーも装備」


全長にして1200mm、つまり1.2m程度の超長物

折り畳み銃床を右側に折りたたんだとして、それでも900mm程度か

使用する弾丸は7N14 SNB狙撃用徹甲弾、20連マガジンを使用して継戦能力を高める

俺のAK-12は5.45mmのBT弾だから有効射程も威力も段違い、それこそゴブリン程度一撃で吹き飛ばすだろう


「これからは、こいつを使って後ろから支援してもらいたい。今日から暫くは狙撃の練習とかだね」


「分かりました」


「じゃ、扱い方の習得という訳で...」


「...はい」


俺達は、そっと指先を静かににSVDSへ伸ばす

ぴとっと、金属の冷ややかさが人差し指に伝わった瞬間、ギシギシと頭が割れるような頭痛が頭蓋に響きわたった


「うぉ...あぁ、やっぱ慣れないわ。大丈夫?」


もう片方の手で頭を抑えているカティを心配する

とりあえずSVDSを近くの木に立てかけ、彼女もその木に預ける

やはりこの世界の物でない分、俺よりも痛みが激しい様で、MP-443の時は一瞬倒れかけていた

今回も長引きそうなので、木陰で休憩を取らせつつ俺も彼女の近くに座ると、AKとリグから何本かマガジンを抜く


「あー......60...69...81...?」


空のマガジン2本に、使いかけが2本

うち1本はバネがへたれて使えなくなったので、そろそろするか

還元というのは魔力を使用し召喚した物を魔力に戻す事で、使用料の50%も戻って来ないがこの世界でAK-12のマガジンをその辺に捨て置くのは流石にまずいので、こうして還元しているのだ


新しいマガジンに弾薬を召喚すると、1発1発込めていく

カチャッカチャッと金属が擦れる音を聴きながら目を閉じて弾の補充を進める

どうやら満タンのマガジンを召喚するより、別々に召喚した方が安上がりなようで、最近はこうして休憩がてらに弾込めしている


「そろそろ間引きを切り上げてなんか狩るか」


気持ちの良い風に吹かれながら弾込めをしているとあっという間に時間が過ぎる


(異世界の地でメイドとガキが長物を脇に森で昼寝か)


変な事になったと思うが、俺的には満更では無い

ただ、あっちの世界が時々恋しくなる

どちらの世界も母さんは飯が美味くて、父さんは優しい

女神をシバいて元の世界に戻るまで何年かかるかも分からないが、こうしていると戻らなくていいとも思ってしまう


(でも皆が帰った時、俺が帰らなかったら...)


あの中で、自分の息子だけが死んだと知った両親はどう思うだろうか

それを考えるだけで心が痛む


そして最後の1発をマガジンに込め、そのマガジンをポーチへと込める

どうやらカティの体調も戻ったらしいので、2人で森の奥へと行こうと思ったその時、彼女が話しかけてきた

珍しくこちらを見ず、どこか別の場所を捉えている


「エーカー様」


「何?」


「...戦闘が起きています。ここから北に1km程」


「あぁ...最近多いよね。領土関係だっけ」


「どうしますか?」


「行くだけ行ってみようか」


「分かりました」


AKとSVDSを持った男女が1組、森の陰へと消えた

この戦いが、ただの小競り合いでは無い事を知らず

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る