第二話 露見


俺がまたその瞼を開いた時、窓から差し込む光は橙色に染まっていた

いつのまにか毛布がかけられていて、身体を起こして動かした視界の端には━━


「はッ?!カティ!何で?!」


椅子に腰掛けて、静かに本を読んでいるカティがいた

かすかに残っていた眠気は吹き飛ばされ、視線はあちらこちらに錯綜する


「ランヴリンデ様に、エーカー様が起きるまで着いてろと言われましたので」


「…あぁ!あ、うん、ありがとう。いきなりで悪いけど、水を一杯持ってきて欲しい」


「わかりました」


カティがそう返して部屋を出ると同時に、俺は毛布の上に目を向ける


(MP-443あるじゃねえか!やべぇ早く隠さねぇと!」


後半が口に出ていたがそれすらも気に留めず身を乗り出してグラッチを掴もうとして右手を突き出したその瞬間


(あ、お前そんな不用意に触ったら…)


(ッッッ〜〜〜〜!!!あ…頭がッ!)


突然の激しい頭痛に、体勢を崩してしまう

それと同時に、脳内に何らかの情報が入ってくる


(……初めて召喚した武器や装具は、触れるとその使用方法等が脳内へと植え付けられる。何度も試せば楽にはなるが...)


(そう言うのは初めから言え……クッソ、取り敢えず抜弾ばつだんしてベッドの下にでも隠すか…)


そうして頭痛の余韻に耐え、グラッチを持ち上げてマガジンを抜き、チャンバー内の1発も取り除く

スライドストップを解除してセーフティーを掛けた、その瞬間


「あ…」


バチバチにグラッチを持っている状況で、よりにもよってカティが扉を開けてしまった

カティが顔にも出さずとも、驚いているのは分かった


「カティ、こっちおいで」


グラッチをベッドに置きつつ、カティを手招きで引き寄せる

彼女は一度頷くと、近くの机に水入りの瓶とコップを置いて近寄ってきたので、ベッドの手前に座らせる


「カティ、見た?」


「…はい」


「じゃあさ…」


意を決し、カティの肩に手を置いて頭を下げる


「頼むから、父さんと母さんには言わないでくれッ!これは2人だけの秘密にぃ……」


力無く語尾がすぼむと、カティがその両手で俺の肩を押してきた


「あの、顔をあげてください…エーカー様が秘密にされたい事なら、口外など致しません」


カティの言葉に安堵し、糸が切れた様にベッドから滑り落ちる


「あの、エーカー様」


「あぁ…ん、なに?」


「エーカー様も、転生者なのですか?」


瞬間、項垂れていた俺の頭の中に、理解を超える様な情報が飛び込んできた

まるで宇宙猫の様にぼーっとしている訳にも行かず、とりあえずとぼけてみる


「え…っと、ちょっと何言ってるかわかんないかな…転生者ってのは…」


「あぁ、心配には及びません。シュラハット様もランヴリンデ様も、転生者なので」


また別の意味で宇宙猫になる

何だか頭が痛くなってきたし、どうしようか


「…あーね、ちょっと待ってね」


そう言って部屋からベランダに出ると、 悪魔に話しかける


(おい悪魔)


(どうした)


(お前、俺に両親が転生者だって1度でも教えたか?)


(いや、1度も言ってないな)


(てめぇふざけんじゃねぇぞ。もしこれからお前が伝えてない情報で俺が死んだらお前の枕元に化けて出てやるからな?)


(そいつぁ無理な話だ。お前が死んだら俺も死ぬからな)


(コイツガチで……クッソ)


俺は眉間に手を当てがって項垂れる

いやまさかな?親まで転生者とは思わないだろ普通

てかどうしよ、この能力兵器召喚の事話そうかな。いや話して良いのか?


(てかさ、俺が魔王になって女神に喧嘩売るとか言ってたけど、魔王ってどうやってなるの?)


(あぁ、お前は魔王の子だから能力継承と共に魔王になるな)


(…は?魔王の子?えどっちか魔王なの?転生者で魔王?キャラ濃すぎない?)


(どっちかというか、実質どっちも魔王だな)


(どゆこと〜?)


もうわからない。コイツは何を言っているんだ


(元来、魔王という種族や役職は存在しない。魔王と言うのは魔族の中で頂点に立つ、またはその見込みがある者の事で、あくまで称号と言った程度の物…のはずだった)


(と言うと?)


(魔王という存在が人魔共に一般化していった時代、【魔王】という能力が現れた)


(何だ、能力って増えるのか?)


(あぁ、人や魔族が何かを極めると、それが能力として後の世で共有される。今ある不老や召喚も過去にそれを極めた先人がいたからだ。もちろん全人魔に備わるわけでも無いがな)


(で、その魔王って能力は何なの?)


(これは複数の能力を収束した物で、その数は膨大。先にあげた不老に召喚、眷属化に超回復

これら全て魔王の能力に内包された物だ。そしてこれは初代から延々と継承されてきた)


(はぇ〜。え?じゃあ俺は近親交配の末に生まれたって事?)


(いや違う。お前の父は正当な能力継承者、お前の母は自然発生した魔王だ)


自然発生した……は?野生の魔王ってこと?いや…え?

本当にわからない。数奇な運命なんて物じゃ済まされないわ。あぁもうめちゃくちゃだよ


(なんかもうわからんから、結論だけ欲しい。能力継承するとどうなる?)


(魔王2人分の能力を受け取った場合、従来の魔王を凌駕する基礎能力となる。初代と並ぶ程の戦闘力を持つことも夢では無い)


(わからん、もっと簡単に)


(最強になる)


(おもんな。最強になって女神と喧嘩ぁ?4万回くらい聞いたことあるぞ)


(いや、能力継承、こと魔王については相当な難易度だぞ?少なくとも2〜3年でできた物じゃ無い)


(どうすればいいん?めんどいのは嫌だぞ)


(なぁに、Lv上限まで上げれば良い)


(ねぇ〜大事そうなやつ後出しで出すのやめて〜?グラッチの召喚の時に教えてよ〜)


(いや聞かれなかったからな。それに特段解説のいる物じゃ無い)


ほんまこの悪魔、心臓ぶち抜いたろかな

しかしここで怒っても意味はないので、グッと堪える。大人だから


(ままええわ。ほら解説はよ。手短に)


(生まれた時の両親の合計レベル、その1/100を受け取る。これが初期レベルと言われる。

その後は主に生物を殺すと内包する魔力が殺したやつに取り込まれる。それはそいつの魔力を補填した後余剰分は俗に言う経験値になって、それが一定数溜まるとレベルが上がる。レベルが上がると使える能力が増えたり、能力のスペックが上がる。治癒力が上がったり魔力消費量が減ったりと言った感じにだ。これ以外にもレベルアップの条件はあるがな)


(で、レベル上限って何レベ?)


(魔王継承前は1000、継承後は3000。これは人魔共通だ)


(へー、今の俺のレベルは?)


(47だ)


(だいたい1/20か。てかあれ、なんか殺したっけ)


(お前に場合は授乳でいくらばかの魔力を受け取ったんだろう)


(え、そんな方法あるんだ。母さん最強かよ)


(母は強しだな。さてレベルと能力継承については理解したな?ならば次にやることは…)


(レベル上げか…まぁいいや。カティが放置プレイくらってるし、後はこっちで何とかするわ)


(そうか。じゃあ俺は寝る。またな)


ほんまコイツ……


ふぅ…と一つため息をつくと、カティの方を向いて口を開く


「そうだね、俺は転生者だよ」


「やはりそうですか……では、シュラハット様に報告いたしましょうか?」


「遅かれ早かれ気づかれるだろうし、知っていてもらった方が何かと都合がよさそうだしね。夕飯の時に俺から話すよ」


「わかりました。時間も時間ですので、私は夕食の準備をしてきます」


カティはそう言って立ち上がると、失礼しました、と言って部屋を出ていった

俺は残されたグラッチをどうしようかと思いながら、再びベッドへと腰掛ける


しんとした部屋の、無造作にもシーツの上に撒き散らせた9ミリの7N31貫通弾

マガジンを抜かれセーフティのかかったMP-443に、机に置かれた水入り瓶とコップ

橙色に染まった部屋と、影に落ちた左半身

明らかなミスマッチ、さながら拳銃自殺の一歩手前のよう


しばしの静寂の後、俺はグラッチを手に取り空のマガジンを差し込むとズボンとパンツの間に挟み、その上からシャツを掛け直し姿見で不自然じゃないか確かめる

9ミリ弾はポケットにいくつかしまい、残りは机の戸棚に隠しておいた


そして来たる夕食に備え、何と説明するか熟考していった

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