第一話 はじまり

元気な子が産まれた

妻も元気に笑ってくれて、私は感激のあまり泣いてしまった

妻も、子供も、私も泣いている場面を見ていた従者も、一緒に泣いてくれた

我が子、我が息子、エーカーは、本当に愛おしかった


━━ヴェルフォイア・シュラハットの日記より




俺はまた意識を取り戻した

目の前には深い緑の髪をした女性と、長い白髪を縛った初老の男性が俺を抱き合って泣いている


(おい、なんでちゃんと目が見えてんだよ。赤ちゃんなら生後数ヶ月しないとまともに見えないだろ)


独り言の様な否定が脳内に響くと、それに返答してくるものがあった


(そりゃお前が半人半魔だからだ。悪魔おれの心臓もあるし、七割五分は魔だな)


(コイツッ!直接脳内にッ?!…いや流石に訳がわからん。てか新生児で始まって、計画なんか阻止できんのかよ)


(安心しろ。お前の友人ご一行が到着するのは16年くらい後だからな)


(…は?それまで何すんの?)


(戦闘訓練と能力の強化。あと配下の眷属を増やしたりしろ)


延々と泣き続ける俺達の裏で、悪魔と会話を繰り広げる


(いや能力ってなんだよ。当たり前の様に言うな)


(この世界の知的生命体なら最低一つは持っている物だ)


(はぇ〜流石異世界。で俺は?何持ってるんだ?)


(不老、超回復、収納、兵器召喚、眷属化、変態……)


(多い多い多い多い。え?何個あんの)


(知らん。いちいち数えてるわけないだろ)


(あほくさ。兵器召喚以外わかるからまぁいいや。兵器召喚ってなんだよ)


(お前の世界にあった、古今東西大体の兵器や装備を召喚できる)


(…お前、俺がミリオタって知ってたのか?)


(人間の内側なんか簡単にわかる。しかし今のお前じゃ小銃一丁でも召喚したら魔力欠乏だ)


(ぶっ倒れんの?)


(いや死ぬ)


(ウッソだろお前)


(半分嘘だな。低度の魔力欠乏ならお前の言った通り気を失うだけだ。簡単に言えばセーフティがかかる。しかし一気に魔力が底を突くと死ぬな)


(怖すぎんだろ。なんかこう、魔力消費量とか自分の魔力量って可視化されたりしないの?)


(そこら辺も、後2年程度経ったら教えてやる)


(2年?その頃の俺とか二足歩行が関の山じゃねぇのか)


(んな事はない。お前は半人半魔だから普通の魔人より成長が遅いだろうが、それでも2年程度経てば人間で言う所の16歳程度になる)


(マジかよ。化け物か?)


(まぁこの世界で魔族の扱いは化け物みたいなものだな)


(クッソ…まぁそう言う事なら承知した。2年程度ならすぐ済むだろ)


そうして半ば諦め気味に会話を〆ると、だんだんと感情が落ち着いてくる

意識に反して泣き続ける俺は、気づけば眠りに落ちていた


で、目を覚ましてまた眠って、たまにご飯食べてたまに遊んで

また寝て起きて、歩ける様になったから家の中歩き回って

転んで頭打って、泣いてたら父さんと母さんが走り寄ってきて抱きしめられて

2週間くらいでちゃんと言葉が話せる様になったから父さんと市場に行ったりして━━



━━━━━━━━━━━━━━━┫


━━1年7ヶ月後


俺は今、家の近くの森林で陽の光に当たりながら目を閉じて休憩している

そんな折に付近から人の気配がしたので、目を開けて気配の方に神経を集中する


「またここにいらっしゃったのですね。エーカー様」


そう声をかけられてから、その方向に頭を向けた

表情に乏しいながらも整った顔付きに、鮮血の様な赤髪を腰まで下げ

足首ほどと丈の長い質素なメイド服の上から、外出用の外套をかぶっている

俺の専属使用人としてあてがわれたエジカテーナだ。俺はカティと呼んでいる



「カティか。最近は苦労かけて悪い。後2時間程度で戻るから」


「ランヴリンデ様が心配されていましたよ」


「母さんは心配性だからね」


抱え込む様にしていたを地面に置き、一度大きく伸びる

背骨をポキポキと鳴らした後、彼女を近寄らせる


「…カティ、わかるか?」


「五時の方向、70m程度に4匹ですか?」


「正解。じゃ、これ」


そう言って俺はとある物を渡す

黒く光る非金属の外見に、細長く延びた銃身

少しばかりカスタムしたMP-443だ


「9mmの7N31徹甲弾が16発にサプレッサーとレーザーにドットサイト、使い方はわかるね?」


「はい。予備のマガジンは」


「ないよ」


「わかりました」


そうしてカティはグラッチを受け取ると、こちらに背中を向けて戦闘の準備をする

スライドを引いて薬室に初弾を送り、軽くスライドを引いてチャンバー薬室チェック

確認したらスライドを戻し、息を殺して待ち構える

俺も手元のAK-12で戦闘体制を取るが、あくまでもバックアップの為だ


AKに備え付けられた1-4倍のスコープが、音のする方を覗いていく

暗い森の中、木の間を潜り抜けるのは……


「ゴブリン。魔力汚染されてんね」


「わかりました」



そう短く返すとカティは外套の中から左手で片手剣を取り出し、ハリエス・ホールドの様に二つを構えて立ち上がり、静かに近寄ってきたゴブリンが茂みから飛び出したその瞬間

一気に距離を積める様に駆け出すと、真っ先に飛び出した1匹に銃弾を2発叩き込む

その隙に左右をすり抜けたゴブリンへ左足を軸に振り向くと、相手も彼女に飛び掛かる

カティは右の相手に3発撃ち込むと、左のゴブリンの腹にノールックで剣を突き立てる

もがきながらもその錆びた短剣を振り下ろそうとするゴブリンに俺は5.45mm弾を叩き込んだ

しかし、最後の1匹は静かに彼女の背後へ迫っていた

それに対してカティは右足を軸に右回転、片手剣を遠心力で叩きつけてゴブリンの脊椎を叩き折ると、地面に転がったそいつの頭に1発撃ち込む


「6発で全滅、流石だわ。怪我は無い?」


「はい。ですが1発だけ援護をいただいてしまいました。すみません」


「良いよ、戦闘は何も1人で行う物じゃ無いしね」


「ありがとうございます。ではお返しします」


カティはそう言ってMP-443を抜弾し、銃口を自分の方に向けて渡してくる

さも平然と異世界で銃火器を扱っていたが、これは俺の能力による物

そう、兵器召喚能力使用のきっかけは4ヶ月程前━━




ある日の昼食時、2階から降りてきた父さんが不意に声をかけてきた


「エーカー、お前はもう大きくなったし、そろそろ1人で狩に行ってみるか」


「いいの?母さんが心配しない?」


「エジカテーナをつけると言ったら、渋々認めてくれたよ」


「珍しい。じゃあ早速明日にでも行ってくるよ」


母さんは心配性で、父さんと狩に行く時も酷く心配していたのにどう言う風の吹き回しか

何はともあれ、エジカテーナにも確認をとった後は自室に戻って脳内不法滞在者こと悪魔に、能力について聞いてみた


(そろそろ能力の事教えてくれよ。当初の予想より成長速度は速いんだろ?)


(せっかちなヤツだ。まぁいいだろう、教えてやる)


瞬間、脳内で何かが弾ける音と共に、視界が暗転する


次に目を開いたのは、真っ白な広い空間だった

四肢の状態を確認し、特に問題がない事を確認してから振り向く


「ここは?」


悪魔の作った、簡易的な世界だ。ここでお前の能力を試す」


「それより先にステータスとか、魔力消費量と魔力量を把握する方法を教えてくれ」


俺はその場に胡座をかいて座ると、悪魔を見上げてそう問いかけた


「それならば簡単だ。右手を握り、右の側頭部を3回叩け。軽くな」


言われた通りにすると、視界の中央下寄りに水色の反った線が出てきた

その右端は2つの線で区切られている


「それがお前の魔力量だ。もう一度同じ所を3回叩けば消える」


「おー。いいなこれ。ステータスは?」


「逆の場所を同じ様に叩け」


ポンポンポンと叩くと、今度は視界の右半分を占領する様に大きな画面が出てきた

大まかに左右で2分割されており、右には今の自分の立姿、左には様々な項目があった

魔力総量の下にはいくつかの四角があり、召喚や能力と言った物が記されている


「上から魔力総量、低度魔力欠乏、重度魔力欠乏の数値だ。覚えておけ」


「ほーん。魔力量が1700、低度魔力欠乏が400で重度が30ね」


「魔力総量は一定の条件を満たすと上昇する。15年後までに出来る限り上げておけ」


「条件ってのは?」


「特定の魔物を殺したり、一定数生物を殺傷したり、何度も能力を発動させたりだな」


「タスク的なアレね。それも何処かで確認できんの?」


「ステータスと書いてあるところを触ってみろ」


言われた通りに指先で突く様に触れると、表記が変わってずらっと文字が並んでいた

ステータスのところもCONDITION条件となっており、ページ自体が変わっていた


「いっぱいあるな。ちなみに魔力量1700ってどんなもん?」


「ゴミカスだ」


「ゴミカスぅ!?」


「ドブネズミクラスだな」


「ドブネズミィ?!」


「魔族で言えばってもんだ。人間なら上の下ってとこだな」


あまりにも酷い言いように、思わず文句が飛び出した


「十分じゃねえのかよ」


「お前が小銃1丁召喚するのに1400必要だからな」


脳内で計算し、すぐさま結論が見える


「召喚できねえじゃねか。どうしてくれんのこれ」


「最初の召喚ならナイフか拳銃だな。じゃあステータス画面に戻れ」


チュートリアルかと思いながらステータスに戻り、もう一度その画面を眺める


「召喚ってあるだろう。そこに触れろ」


指を滑らせピッと押すと、ズラーッと項目が並んでいる


「現代、銃火器、ハンドガンと選択していけ」


言われたとおりに選択してもなお、散々な選択肢が広がっていた


「好きな拳銃を思い浮かべろ」


好きな拳銃と言われても、絞れる程好みは固まっていない

いないが、とりあえず色々な条件を絞っていく

9mmを使い、堅実で、高貫通弾を使える……


「MP-443にするか」


全体をスチールで作られ、堅実かつ保守的にも関わらず7N31と言う9mm貫通を安定して使用できるロシア製の大型拳銃である

グロックとかベレッタも好きだが、個人的にはコイツが1番好きだ

とりあえずMP-443を脳裏に思い浮かべると、無数の選択肢が消えて行き、最終的にMP-443だけが残った


「押してみろ」


「言われなくても」


躊躇いなく押してみると、また画面が変わりMP-443がズームアップされ、右上には

「MP-443 600S」とあり、またそのスライドや銃身から線が伸びている

その先には四角形の空白があり、それぞれSightやBarrelと表記されている


「カスタムできるのか」


「あぁ、ただパーツごとに魔力がかかるし、高性能なパーツほど多量の魔力を必要とする」


「じゃあ今回は一個だけにしておくか。適当な照準器サイトで…」


ポンポンと触っていくと、どうやらカスタムパーツの表示される枠の下に数字がある

おそらく必要な魔力だろう。右上のも合わせて考えるなら単位は「S」か

とりあえず110Sのレッドドットサイトを取り付け、これでよしとした


「そうしたら、次はマガジンと弾薬、そしてどこに召喚するかだ。マガジンと弾は魔力が必要になるから気をつけておけ」


手探りで触っていくと、決定とある場所があったのでそこをタップ

すると俺の立ち姿が表示され、右端に「装具」と記された空欄が何個もある

頭部、胸部、背部、腕部、脚部とあり、その下にはMP-443とマガジンの欄があった

とりあえずマガジンの部分をタップする


「マガジンと弾……あぁ、これか」


その欄から横に一つ追加で空欄が展開し、さらにそこに触れると下へ様々な9mm弾が現れる

ダムダムに軟鋼徹甲弾がある中、最下部までスクロールするとお目当ての弾があった

しばし魔力量と相談しながら考える


「15連マガジン1本18S、7N31弾が15発で30S。じゃあ予備弾倉1本に薬室分で31発だな」


銃本体とカスタム費、銃弾に予備弾倉で全部合わせて790S


「決まったか。じゃあどう召喚するかだが、今のお前はホルスターもないからベッドの上に転がるぞ」


「ホルスターもあるのか。どれぐらいする?」


「450だな。召喚したら魔力欠乏で20時間は起きれなくなるな」


まじかよと思い、とりあえずの所ホルスターは諦めた

銃とマガジンはズボンの間にでも挟んでおけば良いだろう。

そして最後、俺の立ち姿の下にある「召喚」をタップ

俺の初召喚が、あっけなく完了した

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