魔王ですが、即死魔法なんかより現代兵器で戦おうと思います
天漿琴季
~第一章~ 王と付き人
〜プロローグ〜
広い広い草原に、2両の戦闘車両が走っていた
そのうちの1両の赤熱化したままの砲身は蒸気を上げたまま力無く項垂れていて
黒緑色に包まれた車体、砲塔には日よけの幕をコープゲージの様に取り付けてある
「どうだアーク、BMPの操縦には慣れたか?」
「頭では理解できますが、なかなか思う様には…ですが前よりはマシになったかと」
「あぁ、その調子で上手くなってくれ」
ガタガタと揺れる車体の上で俺は1人の人間を介抱している
黒髪に、土まみれの懐かしい制服に身を包み、傷だらけに身体のまま気を失っている
各所に包帯を巻き治癒魔法もかけておいたが、しばらく意識は戻らないだろうか
念の為に回収のヘリを要請したが、あのままあそこにいるのは危険と判断して走らせている
とりあえずの応急処置をした彼女の身体を砲塔に預けてからATGMの再装填をしておく
まず空の発射筒を取り外し、次に車内から新しい発射筒を取り出す
それを照準器に取り付け、ロックをかけて完了だ
車体のハッチを閉め、砲塔に置いてあったAK-12を手に取る
そこからしばらく走り、森に差し掛かった所で呻き声が聞こえた
「……ゔッ…ぐぉッ… あ゛ぁ…」
「ん、起きた。はーいこれ追える〜?」
微かに瞼が開いていたので、近場にあった30mmの薬莢を左右に振る
木漏れ日が瞳に注いでいるのを見ると、とりあえず意識は戻ったようだ
「お…お前は…」
「今は喋らなくていいよ。安全は確保したから、安静にしといて」
そう言って土嚢を枕の代わりに敷き、差し出された手を握る
「……朱山か?…うッ…」
「喋らなくていいから。基地に帰ったらなんでも答える。だから今は……」
「そう…か…」
起こしかけた身体を再び車体に預けると、再び彼女の意識は落ちてしまった
まるであの日の、俺達の乗っていたバスの様に
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あの日は綺麗な粉雪が降っていて、みんな窓から見える夜景をカメラに収めていた
本当に綺麗で、誰かが粉雪でも歌えばと思っていた
かく言う俺もスマホで写真を撮っていて、隣で寝ていた学級委員長を叩き起こして、一緒に写真を撮ろうとしていて
でもそれは、最悪の選択だった
「頭下げろ!姿勢低く!」
凍結した路面を曲がった瞬間に、追い上げてきた車に衝突され、そのままスリップ
落下すると判断した瞬間、委員長の襟を掴んで無理矢理頭を守らせる
しかしそのコンマ数秒の遅れが、俺の命を奪ってしまった
転落するバスのアクリルガラスが、俺の頸動脈を切り裂き、右頬を切り裂いて…
「で、どこだよここ」
次に目を覚ました時、俺は見知らぬところにいた
螺旋階段の吹き抜けで右足首に巻き付いた何かによって逆さ吊りのまま揺れている
上を見ても下を見ても、ただただ暗い空間が延々と続いている
「おーい!誰かいないのかー!」
「いるぞ」
一際大きな声を出して聞いたのに、帰ってきたのは小さな声だった
それも、後ろから
身体を振って後ろを向くと、そこには異形と称される様な、黒光りする人間がいた
ヒトらしからぬ皮と骨だけの全身、下腹部はなく、脛まで伸びた両腕に爪は長く延びている
雄羊の頭蓋を被った頭は、その隙間から人間の下顎が覗いている
高鳴る心臓を無理矢理抑え、平静を装って話しかけた
「誰だよあんた。てかここは何処だ、なんで俺は生きてんだ」
「俺はお前らの世界で言う悪魔。ここはお前らの世界と異世界を結ぶ回廊で、お前は死んでいる。ok?」
「いや全く。なに異世界転生しろってこと?」
「察しがいいが、それだけじゃ説明不足だ」
「じゃあどう言う事だよ」
「お前には魔王として、あっちの世界の神様に喧嘩を売ってもらう」
「神様と喧嘩ぁ?勝率は?」
「…
「おいなんだよその間は。さては50もないな」
「いやまぁ、喧嘩売るって言っても殴り合いするわけじゃない」
「喧嘩売るのに?」
「まぁお前には、神様の計画を阻止してもらう」
「…具体的には」
「あのクソ女神は、お前ん所の若い人間を無理矢理命の危機に瀕してこの世界に召喚した。そいつらに自分でご加護とか言う
「そうするとどうなる?」
「知らんのか」
「知ってるわけないだろ」
「だろうな。まあ簡単に言おう。世界が滅びる。そうなるとお前らを元の世界にも帰れなくなるし、向こう側の世界でお前らは正式に死ぬ」
「おい待てよ。俺は死んだからここにいるなら、元の世界に戻っても死んだままか?」
「いや、女神の計画を阻止したなら俺がお前らの世界の神に交渉してやる」
「蘇生させてくれって?」
「あぁ。悪い話じゃないだろう?」
「…ここまで端的に聞いたが、俺はお前の話を信じきっちゃいない。本当はお前が世界を支配しようとして、俺を利用しようとしているのかもしれないし、ただ単にお前の娯楽として異世界に落とされるのかもしれない。お前は俺に、信用できるものを何一つ提示していない」
「なるほど。じゃあこうしよう」
そう言ってそいつは自分の胸をこじ開けると、骨肉の破ける生々しい音と共に鼓動する心臓を取り出した
カピカピに乾いているにも関わらず、力強く鼓動している
悪魔はそれを俺の右胸に押し当てると、まるで水面の様に波打って心臓が入り込む
「俺の心臓をお前に植えつけた。お前が死ねば俺も死ぬ。これでいいか?」
「人の勝手に内臓増やしやがって、良いわけないだろ。でも覚悟は伝わった」
「ならよかった。詳しいことは後で話してやる」
悪魔はその気色悪い腕を俺の足首に伸ばすと、長い爪を立てる
ブチッとした音と共に、俺の視界は再び暗転した
(あれ、能力ってもらえない感じ…?)
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