第2話「習慣」

 *


 新たに購入した執筆機器に慣れるために、小説を書こうと思い立った。


 慣れるために執筆するというのは、どこか本末転倒な感もあるけれど、こればかりは仕方ない。キーボードの体感、押し心地、配置が、旧型機と若干異なっている。それに慣れるには、ひたすら書くしかないだろうというのが、私の結論である。

 

 ひたすら、書く。


 私が書くのは主に掌編小説と思われているやもしれないが、実は違う。


 ネット上に公開していないというだけで、本職(とはいっても、私はまだ作家志望の身ではあるが)は長編小説である。


 短編と長編、どちらを執筆するのが好きかと言われたら、後者と即座に答える自信がある。


 それくらい好きである。


 まあ、好きだからといって、良く書くからといって、それが世間から評価される訳ではないというのが、また世知辛いところなのだが。


 夢を見ながら、未だ作家になることができていない自分を見て、時折恥ずかしくもなる。


 ただ、そこばかりは、もう運と実力の世界でしかない。届かぬ未来ばかりを妄想せず、日々精進に励もうと思う。


 以前のポメラDM100では、長編小説の執筆には向かない仕様であった。しかし最新機器になると、1つのファイルに保存できる最大文字数もかなり増えた。


 打鍵以外に余計な機能がないことも、この機会の魅力である。


 今やネットに接続すれば何でも事足りてしまう時代である。誘惑は沢山ある。まあ、本来は執筆意欲でそんなもの押し通せという話だが、私はそれほどまでに自我も意思も強くない。


 そういう風に、育てられている。


 己の意思の異常なまでの抑圧。


 熱が冷めたら、またそんな話もしよう。


 とりあえず、今は書く。


 それが、私にできる唯一のことだから。 



(続)

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一代の擱筆 小狸 @segen_gen

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