最悪スキルでも何とかなる!
煤元良蔵
最悪スキルでも何とかなる!
俺の名前はナーフ・スール。A級冒険者を目指す冒険者の端くれだ。今日も今日とて薬草採取や初級ダンジョン攻略に勤しんでいる……のだが、年を重ねる事に不安が増していき、最近では生活が少し乱れてきてしまっている。
自慢ではないが俺はDランク依頼や初級ダンジョンをソロでクリアするくらいの強さはある。もしかしたら、中級ダンジョンやCランク依頼をクリアする力もあるかもしれない。だが、中級ダンジョン、Cランク依頼以上の依頼受注にはパーティーに所属していなければならないので本当のところは分からない。
え?
なら、パーティーに入ればいいじゃないかって?
俺もそう思う。しかし俺の
説明しよう。
味方弱点とは、常時発動型のスキルで一定時間(1時間)行動を共にした人間の能力が大幅に低下するという何ともいえないスキルだ!
うん。自分でも思うがかなりのクソスキル。だからこそ、俺は今の今までパーティーに正式加入したことがなく、お試し入団ですぐにクビを宣告されること360回。
最近では誰も俺に近づこうとすらしない。
今日も初級ダンジョンを攻略した後、小規模パーティーへ加入の打診をしたが、やんわりと断られてしまった。
「はぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁあぁ」
肺の空気を全て吐き出す勢いでため息をついた後、俺は入った事のない小さな酒場に入った。
酒場は思ったよりも綺麗で、かなり清潔感のある店だった。カウンター5席とテーブル席が3つというのも穴場っぽくていい。
店内を見渡すと、どうやら俺以外の客はテーブル席に座る5人の冒険者だけらしい。俺は5人組が座るテーブル席から一番離れたカウンター席に腰を下ろした。するとすぐに店主らしい白髪の老人が愛想のいい笑顔を浮かべて注文を聞いてきた。
「とりあえずビールと……肉って置いてます?ああ、チキンです。はい、じゃあそれを一つ」
店主に注文をし終えた俺は出された水を一口飲んでから、横目でテーブル席に座る冒険者たちを見た。
見た感じだと4人の男女が、一人の青年を責め立てているところらしい。
「ガロック!今日の出来はなんだ!俺様がいなかったらパーティーが全滅だったんだぞ!」
リーダー格らしい青髪の青年が唾を吐き出しながらそう言うと、残りの3人の男女もそれに同意するかのように頷き始める。
「ち、違うよ。あれはリーダーのミスですよね。それを僕がカバー……」
「うるせぇ!」
青年の言葉を遮るようにリーダー格の男がテーブルを叩く。その音に店主の老人の肩がビクッと震える。
どうやらあのリーダー様は、ここが公共の場であるという事を忘れてしまっているらしい。
「というか、ガロックさん。いい加減このパーティーから抜けてくれません?」
「私もそう思うわ。いてもただ邪魔なだけですもの。前衛火力職ならリーダーであるロドロさんで十分じゃない」
リーダー格の男……青髪のロドロの両脇に座る女性冒険者の言葉に気分を良くしたのだろう。ロドロはジョッキのビールを飲み干し、ビシッとガロックを指さした。
「ガロック!テメェは今日でクビだ……ヒック。俺たちもB級パーティーに昇格したんだからな、人員整理が必要なんだよ。テメェは役立たずだからさっさと出てけ!脱退金は今までの迷惑料として俺たちが有効に使っといてやるよ!」
その言葉にガロック以外のメンバーが歓喜の声を上げ始めた。ガロックは絶望した表情を浮かべた後、静かに酒場を後にした。その背中はとても悲しいものだった。
どこのパーティーでもありえるクビ宣告。パーティーの知名度が上がり、高い難易度の依頼を受けるようになると、どのパーティーも人員整理を始める。力がないメンバーは、それまで苦楽を共にしていようがいまいが関係なくパーティーから切り捨てられる。その代わり脱退金と呼ばれるまとまったお金がもらえる仕組みがギルドによって作られている。
命を賭けて依頼や冒険をする職業なのだからクビ宣告は当然だろう…………だが……とても胸糞悪い現場に遭遇してしまった。
俺はキンキンに冷えたビールとキツネ色に焼かれた美味そうなチキンを味わった後、ゆっくりと席を立った。
御年37……俺、ちょっと頑張りますか。
小さく息を吐き、俺はどんちゃん騒ぎをしているテーブル席に近づいた。
「どうだい。一杯奢らせてくれないか?」
数か月後。
俺はいつものように街の人の小さな依頼から初級ダンジョン攻略、採取したモンスターの素材を売って生活していた。
風の噂で聞いた話だと、ガロック青年には才能があったらしく、既にA級冒険者になったとのこと。
逆にBランクに昇格したあのパーティーは、Dランクの運搬依頼を失敗してCランクに降格したらしい。
まあ、俺と一定時間飲んだ日に依頼を受けたらそうなるわな。
これで少しは反省すればいいのだが……。
「はぁ……ん?ぶっ!?」
何度目か分からない溜め息をついた時、風で飛ばされてきた新聞紙が俺の顔に張り付いた。
「な、なんだよ……ん?ふっ、頑張ってんだな」
広げた新聞紙の一面にはガロック青年が所属しているパーティーがS級に認定されたという記事が書かれていた。
「まあ、何とかなるか」
大きく伸びをした俺は次の仕事を貰うべく、ギルドに向かうのだった。
最悪スキルでも何とかなる! 煤元良蔵 @arakimoto
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