第二話 演習
「頼みますよ!今乗らないと間に合わないんです!」
格納庫に一つの声が響く、朝霧はあの後格納庫に向かい、整備長に刃癸の試運転をしたいと頼み込んでいた
「だから!少尉以下のパイロットは少佐以上の許可が必要なんだよ!わかったら荻原さんに許可証もらってこい!」
確かに陽ノ昇では許可証が無いと新兵は任務じゃ無い限り魔械には乗れないのだ、それは朝霧も解っている。
「そこをなんとか!整備長は今中佐なんですよね!?整備長!許可証下さいよ!」
ここで引いては荻原隊長に迷惑をかけてしまうと粘り強く頼み続ける
「確かに俺は中佐だが...なんでそんなに焦ってんだ新兵?」
朝霧が焦っている理由を知らない整備長にとって当然の質問である
「それは…明日には演習があるんです、隊長の足は引っ張れませんから」
「それを早く言いやがれ!ちょっと待ってろすぐ書いてやる!」
理由を聞くとすぐさま紙を用意し許可証を書き始める整備長、朝霧は深々と礼をする
「ありがとうございます!!」
「おうよ、理由を先に言ってたら、もっとスムーズだったんだがな、っとホラよ」
許可証を受け取ると駆け足で刃癸のもとへ向かう
「壊すなよぉ!」
整備長の声が格納庫中に響き渡る
そして刃癸の前に着いた朝霧はまず頭部へ向かう、それは訓練生時代の魔械石をセットするためだ。
魔械石には魔力が込められていると同時に魔械の動きを記憶しておける言わばICカードの様なものだ
「ここのハッチを開ければ...あったここだ」
魔械石を機械に接続するとこの機体が命を持ったかのようにメインカメラが光だす、それを確認した朝霧はコックピットへ向かう
「ここがコックピットか!シュミレーションマシンとは少し違うなぁ」
訓練時とは違う操縦桿に違和感を覚えながらベルトを締め
「確かこうやって歩くんだっけ?」
朝霧が歩こうとすると通信が入る
「おい!まだ動くな!俺が誘導する!」
整備長の声だ、したを見ると整備長が誘導線を持ち待機している
「俺に着いてこい!それるなよ!」
カタパルトまで誘導線に従い1歩また1歩と歩みを進める。
カタパルトに着き脚部を固定する。
「ありがとうございます!整備長!」
そう言うと整備長は答える
「おう!それと言い忘れてたが俺の名前は蔵元 多義(クラモト タギ)だ、次から多義って呼べ!」
整備長が名前を教えてくれた…そう思うのも束の間、システム音が鳴る
「射出推力正常…機体名刃癸搭乗者朝霧連……発進ドウゾ」
「え~っと、朝霧!刃癸出ます!」
カタパルトが前に進む、その瞬間強い負荷が朝霧に掛かる、しかしそれに耐え着地する、少しよろめいたがなんとか持ち直し、海上訓練場へ向かう
「おっと!難しいな…けど頑張らないと!」
海上訓練場に着きホバーシステムをONにする、そのままの流れで海上に浮かび少し進む
「浮いてる…のか?陸地と大差ない操作感だ」
ホバーシステムとは少しは浮いている感覚が有るものだ、しかしこの刃癸にはそれがない、それは革新的な性能だと新兵の朝霧でも解るほどだ
「こちら朝霧、刃癸の武装使用許可を申請します!」
通信機を火器管制に合わせ言う、少し待つと通信が反ってくる
「こちら火器管制、癸丁(キチョウ)および壱弐式拳銃、零壱式二連装魚雷の使用を許可する」
朝霧は壱弐式拳銃を取り出し、ターゲットに向かい構える
「サイトシステム正常…距離80m……ロックオン…今!」
2回の銃声が轟く、1発目はターゲットのど真ん中を捉え、二発目は的をかするように放たれた
「やった!ど真ん中だ!この調子で次は…近接だ!」
癸丁を取り出し前進する、そのスピードは言うまでもなく100mは離れたターゲットの懐につくまで3秒とかからなかった
「うらぁぁぁ!!」
癸丁はターゲットの頭部を切り裂く、突っ掛かりも抵抗もなく空気を切るように刃は進んだ
「なんて切れ味だ…下手したら刃甲(ジンコウ)の装甲をも切り裂けるぞ!」
その切れ味に朝霧は少し恐怖を感じる。
「後少しだけにしよう、もうすぐ夕食の時間だし…」
朝霧はそう言い夕食までの約30分間訓練場で撃ち、切り、切り、撃ち、また撃ちと繰り返し訓練場を後にした
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
~食堂~
疲れきった朝霧は食事を受け取り席へ向かう、その時
「ん!おい!三等兵!こっちだ!」
そう荻原が呼ぶ
「隊長!向かい側失礼します」
席に座る朝霧に荻原は質問する
「三等兵よ、お前はどこにいたのだ?」
「整備チ…多義中佐に許可証を貰い海上訓練をしておりました!」
朝霧は正直に答える
「なるほど海上訓練か、明日の演習の為にか?」
「は、はい」
朝霧はなんと言われるか身構えていた、無断で魔械に乗ったのだ、そして荻原の口が開く
「そうか!それはいいことだ!三等兵!」
予想外の言葉に口が空いたままになる、荻原は続けて
「明日の演習は第六海上攻撃部隊とだ、機体は刃癸が1機刃乙(ジンキノ)が1機と我々と同じだな、練度は相手が上だ」
我々と同じ、その言葉が引っ掛かる刃乙は海上用ではない強いて言うなら海上用に調整をした「蒼い辻斬り」の機体だけだ、朝霧は恐る恐る質問する
「刃乙は地上強襲用ですよね?空戦用のは聞いたことありますが、なぜ海上攻撃部隊に2機も配備されているんですか?」
荻原は不思議そうな顔をして答える
「そりゃぁ海上用にチューンアップしたヤツだからだろ、まぁ私以外にいるとは思わなかったが」
私以外?魔械のパイロットで蒼い辻斬りを知らないのか?
「蒼い辻斬りがいるじゃないですか」
朝霧がそう言うと荻原は少し怒った様な声で答える
「三等兵よ…貴様もしや気付いていないのか?」
朝霧はなんのことか解らず首をかしげる、それを見て荻原は口を開く
「蒼い辻斬り……それは私のことだぞ?」
朝霧は一瞬理解ができなかった、荻原少佐が蒼い辻斬り?しかしよく考えればつじつまが合う、海上用に調整をした刃乙、少佐で海上部隊の隊長など少し考えればたどり着ける答えだった
「まぁいい、私も言わなかったからな、食べ終わったら兵舎に戻り明日の演習に備えろ、時刻はヒトマルヨンハチだ」
そう言い残し荻原は食器を下げる
「了解しました!!」
朝霧は急いで食事を終わらせ兵舎に向かう...……
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
~早朝-兵舎~
「♪~♪~♪~~」
7月2日マルハチマルゴー第六兵舎から鼻歌が聞こえる、それは朝霧だった、朝霧は朝食の用意をしていた、陽ノ昇の食堂は夕食しか提供してないため朝と昼は兵舎にて済ませると言う、ルールがある
「おっもう起きていたのか三等兵」
2階から荻原が降りてくる
「はい、朝食も作ってありますコーヒーでいいでしょうか?」
朝霧は手際よく準備を進める
「いや紅茶をホットで頼むよ」
「解りました待ってくださいね」
棚からティーカップを用意し紅茶を作る、それをテーブルに置くと同時にトーストとジャムを横に添える
「どうぞ、ジャムはブルーベリーです」
「な……なんだこれは!前いた兵舎ではこんな朝食なかったぞ!トースト!?三等兵、お前がもっと早くいたならクッ!我慢できん!先にいただくぞ!」
料理を見た荻原はそう言い料理を食べ始めた
「そんなに酷かったんですか?」
朝霧が質問すると荻原は口に含んだトーストを急いで飲み込み答える
「っん、酷いなんてもんじゃないさ毎日レーションばっか、嫌になる」
「そんなにですか…それと頬、ジャムついてますよ?」
それを聞いた荻原は少し顔を赤らめ慌てて拭き取り
「誰にも言うなよ!三等兵!」
と釘を指す
「ハッハイ!」
腹から声をだし返事をする、時計を見るがまだ演習まで時間はある、だがやはり緊張する、緊張をどうにかしてほぐそうとすると
「おい三等兵紅茶のおかわりをくれないか?」
と注文が入る、なぜかは解らないがその言葉に少し気が楽になった
「解りました次もホットで?」
「あぁ……」
紅茶を入れている朝霧の姿はカフェのマスターの様に凛々しいそんな姿を見て荻原は問う
「なぁ三等兵よ……お前はなぜ軍に入ったのだ?」
突拍子の無い質問だ、しかし朝霧は何も感じずその問いに答える
「なぜかと聞かれると難しいですね強いて言うならば平和が欲しいから、ですかね?」
「なぜ疑問詞なんだ、私は知らんぞ」
そんな会話を続けて気付けば演習予定時間が迫っていた
「隊長、もうすぐ時間ですよ」
「あぁ、では向かおうか三等兵」
朝霧たちは格納庫へ向かう
~格納庫~
「おっ来たか!」
多義中佐が待っていた
「多義中佐!お疲れ様です!」
「中佐、第六海上攻撃部隊は?」
荻原が問いかける
「六海撃は先に海上訓練場にいるぞ、お前らも魔械乗って向かいな」
多義中佐は淡々と答える
「「了解!」」
二人は各々の魔械に向かい搭乗する
「射出推力正常……機体名刃乙搭乗者荻原佑樹…発進ドウゾ」
「荻原!刃乙出るわ!」
「射出推力正常……機体名刃癸搭乗者朝霧連…発進ドウゾ」
「朝霧!刃癸出ます!」
二つのカタパルトが同時に起動する
海上訓練場は少し歩かなければならない、ふと隊長の機体を見る
「隊長は本当に蒼い辻斬りなんですね」
「なんだ?疑っていたのか三等兵よ」
少し会話を交わし到着する
現在時刻はヒトマルヨンゴ-、開始三分前だ開始地点にどちらも着いている。すると荻原から通信が来る
「三等兵聞こえてるか?」
「ハイ聞こえてます」
「今から軽い作戦を伝える」
「作戦ですか?」
「難しく考えるなお前は潜伏しておき私が刃乙を撃破したら刃癸をやれ」
確かに軽い作戦だと苦笑する
演習では敵の頭部を破壊すれば撃破判定になる、そのため演習では魔械石をセットするところが変更された専用の魔械で行う。考えていると放送が流れる
「あー聞こえてるか?これより第六海上攻撃部隊、第七海上攻撃部隊の演習を開始する、3…2…1…始め!」
「行くぞ!三等兵!」
蒼い刃乙が先陣を切る、それを追うように朝霧も刃癸を動かす
「三等兵!潜れるか!?」
「はい!まだ完璧とは言えませんが出来ます!」
「私が合図したらホバー停止、潜伏して、撃ち抜け!」
話していると相手の魔械達が見える
「潜れ!」
その声と共にホバーを停止させ潜伏し機会をうかがう
「お前の相手は私だぞ!刃乙!」
鉄が削れ合う音が鳴り響く、伍伍式振動刀でのつばぜり合いだ、練度の差か本数の差か荻原が押し込む
「どうした!六海撃!」
相手は片足をつきだし参参式刺突杭を荻原機の足にかけ起動させる
鋼がひしゃげる様な音が鳴り響く、荻原機の足が吹っ飛ぶと同時に、荻原の伍伍式が相手の刃乙の頭部を吹き飛ばす…
「第六海上攻撃部隊刃乙撃破判定!第七海上攻撃部隊刃乙中破判定!」
放送が鳴る、隊長は倒したのだ、そんな中通信で隊長が言う
「ホバーシステム起動!上がってこい三等兵!」
その声に従いシステムを起動する
浮力が上がり物凄い勢いで海面へ向かう、海中から朝霧機が現れる目の前には相手の刃癸、考えるよりも先に拳を出した、拳は相手の肩部に当たり鐘の様な鈍い音が鳴る、相手はよろめきながら壱弐式拳銃を撃つ、運悪く弾丸は朝霧機の間接部に当たる、脚部だ、移動に大幅な制限が出来る。
しかしそれは海上での話だ、朝霧はホバーシステムを停止させ海中へ潜る、相手の刃癸は荻原機に向かって走り出した、海中から零壱式二連装魚雷を急いで構える
「サイトシステム正常距離50m、相手の動きを考えてロックオン………今!」
相手の脚部、ホバーシステムが吹き飛ぶ、浮力を失い海中に沈むそこには朝霧機が癸丁を待ち構えていた
「うぅらぁぁぁ!!」
癸丁が突き刺さる……頭部だ…これは撃破なのか?と考える、すると放送が流れる
「第六海上攻撃部隊刃癸、大破判定!したがって今回の演習は第七海上攻撃部隊の勝利である!」
その言葉に肩の力を抜く、家に帰り背負いものを下ろしたような解放感だ
「勝ったんですね、隊長、俺たち」
「あぁ初任務は大成功だ、それと……」
「どうしました?隊長」
荻原はためらいなが言う
「その……助かった、感謝する」
「どういたしまして、隊長!」
現在時刻を見るとヒトヒトゴーフタ
お昼時だ、昼食は何にしようか…そう考えていると
「なぁ三等兵…いや朝霧、私はお昼にブルスケッタが食べたいんだ」
と荻原が喋る、初めて三等兵ではなく朝霧と呼ばれたしかし、それよりもブルスケッタか、材料はあるだろうか?
「解りました隊長、作れそうなら作りますよ」
さぁ兵舎に戻ろう…そう思いながら格納庫へ向かう朝霧達だった……
第二話(仮)完
以下設定まとめ(前回忘れてたのも)
第六海上攻撃部隊
海神ノ壊と同時期に編成された全6人の部隊、今回戦ったのは少尉と中佐の2名である。
刃乙が2機、刃癸が4機で構成されており、タガソレの海上拠点の攻撃任務を主にこなす、略称は「六海撃」
刃乙(ジンキノ)
刃シリーズでは唯一開発時点で実戦配備が決まっていた機体。汎用性に長けており魔械石の調整をすれば陸空海の3戦線に適応できる。
一般的には空戦用に調整した機体が多く海戦用は蒼い辻斬りの機体とその他数機しか存在しない
武装には片腕にチェンソーの様な「伍伍式振動刀」
両脚部に装備されているが腕部や手持ち武器にもなる「参参式刺突杭」
刃甲(ジンコウ)
陽ノ昇の全技術を終結させた最初の刃タイプの機体
装甲を重視しており戦国武将の様な見た目をしている
武装には刃を発熱させ敵魔械の装甲を溶断する「壱式白熱刀」
貫通力に優れているサブマシンガン
「壱捌式連射銃」を持つ
蔵元 多義中佐(クラモト タギ)
陽ノ昇の整備長、新兵に甘く大体のことは事情を説明するとやってくれる。
刃シリーズに関わっており間接部等の小破程度なら1時間程度で修理を終わらす
第六兵舎
朝霧達第七海上攻撃部隊の兵舎であり、朝霧が持ってきた為料理道具は豊富である、3階建てだが他の宿舎よりやや小さく4部屋しかない。
(他の兵舎は2階建ての10部屋)
蒼い辻斬り
海神ノ壊にて、敵魔械を20機の撃破及び12機大破と言う戦果を上げた、当時中尉の荻原に与えられた二つ名
第七海上攻撃部隊
朝霧が所属する部隊、現時点では最新海上攻撃部隊であり、隊員は朝霧と荻原の2名である、略称は「七海撃」
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