第111話 成果と覚悟
散魔玉の解析が終わった事で、残す戦利品は一番の大物“
健全な日本男児だった勇は、巨大ロボットにはやはり浪漫を感じる。勢い込んで翌日から調査に入るのだった。
「……駄目だ。これはちょっと……、なんというか根本的に別物だと思います」
しかし半日解読をしたところで勇が天を仰いだ。
「根本的に、とはどう言う事じゃ?? ぱっと見、あの鎧よりは細かくないように見えるがの?」
意味は分からないまでも、どの程度の密度で描かれているのかは分かるようになったエトが尋ねる。
「そうですね。モノが大きい事もあって、密度は薄くは無いですがまぁ許容範囲です。ただ、どんな動きをするのかが、ほとんど具体的に描かれていないんです」
「……どういう事じゃ??」
イマイチ言っていることが理解できないエトが聞き返す。
「例えば“手を握る”という動きがあります。これは親指から小指までの5本の指を曲げる、という動きから成り立ってますよね? 普通であれば、その動作を指にさせる魔法陣が描かれています。ところがコイツは、そういう具体的な動きをさせる魔法陣がほとんど見当たりません。
替わりに、別の所で行われた動作を〇倍にして再現させる、という機能を実現させるための魔法陣だけが描かれているんです。この腕はあくまでその一部が描かれているだけなので、どれだけこの腕を分析しても、ちゃんと動くものは多分永遠に作れないと思います」
「…………」
勇の口から飛び出した、突拍子もない仮説にエトが言葉を失う。
「まぁだからこそ分かった事が二つ、いや三つあります。一つは、ほぼ間違いなくこれが
この
それを物理・科学的なものの替わりに魔法的なものでやろうとし、そしておそらく完成させているのだから間違いなく天才だ。
「この武器っぽい部分だったり、装甲の部分だったりは独立した魔法具になっているようなので、解読自体は続けます。ただ、一気にやるのではなく、時間をかけてちょっとずつ進めていこうと思います」
「……そうじゃな。面白そうではあるが、すぐにどうこう出来るもんでもないしの。何よりこれ以外にもかなりの数を実用化する事になっとるんじゃ。そっちの量産化をしているだけで、あっちゅう間に今年が終わるわい」
エトは勇の言葉に深く頷くと、そう言って笑うのだった。
こうして、
整理のため、ヴィレムがあらためて紙に書き出しまとめていく。
・雷玉・改(水中用):威力向上、並びに使い捨てから繰り返し利用できるものに改造の上、少量生産。魔法陣を登録し水運事業者向けに販売予定だが、タイミングは要検討。
・雷玉(陸戦用):規格外の極小魔石を使ったものに改造の上、少量生産。投擲武器としての有用性検証のためチームオリヒメと騎士の一部にテスト配備。魔法陣の登録、対外的な公開は行わない。
・爆裂玉:規格外の極小魔石を使ったものに改造の上量産、領兵の正式兵装として配備。魔法陣の登録は行わず。対外的にはデチューンしたものを必要に応じて公開。
・散魔玉:白魔銀と魔石の粉を使ったものを少量生産。運用方法検証のため、チームオリヒメと騎士の一部にテスト配備。魔法陣の登録、対外的な公開は行わない。
・対物理攻撃反応装甲1:対象の攻撃を打撃に絞り盾として量産、領兵の正式兵装として配備。シャオマオ タイプ1と呼称する。また、防壁や大扉への応用も検討。魔法陣の登録、対外的な公開は行わない。
・対物理攻撃反応装甲2:防壁や大扉への応用を検討。
・対物理攻撃反応装甲3:馬車の改良への応用を検討。
・対魔法反応装甲:対象の魔法を火、雷に絞りマントとして少量生産、領兵には順次配備。シャオマオ タイプ2と呼称する。魔法陣の登録、対外的な公開は行わない。
・雷の魔剣:ロングソードタイプ、槍タイプを量産、領兵の特殊兵装として配備。状況に応じてフェリス1型、2型と使い分ける。剣タイプをフェリス21型、槍タイプをフェリス22型と呼称。魔法陣の登録、対外的な公開は行わない。
・繰風球:繰風球を動力にした乗物の開発を継続的に実施。
・充魔箱:レプリカを1台作成し、応用研究は保留。
・
・冷蔵箱:対魔法反応装甲に使われていた温度を取得する魔法陣を利用し、省エネタイプを量産。魔法陣を登録し販売予定だが、タイミングは要検討。
・その他:米の籾摺り、精米作業を効率化する魔法具開発を進める。
「こうしてみると、とんでもない数じゃの……」
「あっはっは、100年分くらいの成果だねぇ、これは。それをたったの一ヶ月半くらいでやっちゃうんだから、笑うしかないね」
エトが遠い目をし、ヴィレムは吹っ切れたのか大笑いしていた。
その日の夜、夕食後の歓談時に一覧を領主夫妻に見せながら、勇が今後の方針についての報告を行っていた。
「いやぁ、毎日のように何かしらの成果報告が入っていたもんだからすっかり麻痺していたけど、並べてみるととんでもないね……」
領主のセルファースが、紙を見ながらため息を漏らす。
「まったく……。好きにやればいいと言っておきながらなんだけど、やりすぎじゃないかしらね?」
セルファースの妻のニコレットも、苦笑するしかない。
「アハハ、ここまで一気に増えるとは思いもよりませんでした。運良く見つけられたモノも多いですしね」
勇も笑いながら頭を掻く。
「で、ここからがご相談です。先日フェリクスさんに聞いたんですが、年が明けてすぐに毎年全貴族家当主が王城に集まる機会があるんですよね?」
勇が表情を引き締めて、セルファースに正対する。
「ああ。大評定の事だね。1週間くらいかけて、国王陛下からその年の方針や懸案事項がお話しされたり、各貴族家からは前の年の報告とその年の予定を話す感じだね。勲章の授与や昇爵や叙爵がある場合もこの期間に行われるね」
「その大評定と並行する形で、各家の騎士団による合同演習があるとか?」
「うん。各家の代表による模擬戦のトーナメントと、王都近辺への合同討伐演習がある。トーナメントは観客も入れてやる大人気のイベントで、毎年大評定の期間はお祭り騒ぎになってるよ。でもそれがどうかしたのかい?」
「いえ、新しい魔法具も色々出来てきて、商品化できるものも増えました。しかし、どれも“たまたまやったら動きました”という内容では、もう誤魔化しきれません。ですので、そろそろ私の
「…………なるほど、続けてくれ」
一旦そこで言葉を区切って自分を見た勇に、セルファースが続きを促す。
「以前、アンネマリーさんが“まわりが手を出そうと思わないほど強くなれば良い”と言っていましたよね? この合同演習がそれを証明する丁度良い機会なんじゃないかなと思ったんです。そこで圧倒的な強さを見せつければ、一気に全貴族家にそれが伝わります。強くなったことを知らしめるのって時間がかかりそうだし大変だなと常々思っていたんですが、こんな良い機会があるなら使うしかないかな、と。武器以外に防具も揃ってきましたし、旧魔法の習得もだいぶ進んでいますよね? 丁度良い頃合いなのではないでしょうか??」
勇が一気に話をする間、セルファースもニコレットも黙ってそれを聞いていた。アンネマリーとユリウスは息を飲んで状況を見守っている。
「……なるほどそういう事か。私も常々、強くなったとしてそれを知らしめるにはどうしたものかと思っていたが……。うん、中々良いアイデアだね。ニコはどう思う?」
「そうね……。結果次第だから、今回強さを見せられなくても先送りにするだけだから、リスクは無いわね」
セルファースもニコレットも、勇の方針には賛成のようだ。
「……ただ、問題はその後だ。いや、子爵領にはあまり問題はないから、正確にはイサム殿の問題かな。とんでもない
セルファースが苦い表情で言う。
「……それって、既に私が既婚者だったり婚約していた場合でも、後出しの縁談が優先されるんでしょうか?」
「いや、結婚している場合はもちろん、正式に婚約している場合はその限りではないよ」
「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。いや、まだ安心しちゃだめか」
笑顔になった勇が、あらためてセルファースとニコレットに正対する。
「セルファースさん、ニコレットさん、こういう時
そう言ってゆっくりと頭を下げる。
そして勇が立ち上がり、アンネマリーのほうへとゆっくり歩み寄ると、その目の前で片膝を突いた。
「アンネマリーさん。私が初めてこちらへやって来た時にあなたが掛けてくれた言葉を、私は今でも覚えています。知らない世界に飛ばされてきたのに不安な思いをさせて申し訳ないと、何も悪くないあなたは言ってくれました。あの一言で、私がどれだけ救われた事か。仰る通り不安でしたが、知らない世界でも見知らぬ人間を初対面で慮ってくれる人がいると分かって、急に落ち着けたんです」
じっとアンネマリーの目を見つめながら、勇が言葉を続ける。
「その後も、事あるごとに私の事を心配し応援し続けてくれました。そんなあなたがいたからこそ、私はこれまでやって来れました。今にして思えば、多分最初に声を掛けられた時から、私はあなたの事を好きになっていたんだと思います。アンネマリーさん。私はあなたの事が大好きです。その優しさ、可愛さ、時折見せる芯の強さ……。その全てが大好きです。
こんなおっさんで申し訳ありません。しかし、この先何があってもあなたを守り抜いてみせます。そしてあなたと、あなたの大好きな家族、領地の皆を幸せにしてみせます。ですので、どうか私、松本勇と結婚していただけないでしょうか?」
ゆっくりと。だがしっかりと一言一言嚙みしめるように勇がアンネマリーに思いを伝える。
しばしの沈黙。
突然のプロポーズに最初は呆気に取られて呆然としていたアンネマリーだったが、時が経つにつれ理解が追い付いてきたのか、首まで真っ赤にしてどうにか声を絞り出す。
「あの、その、私なんかで、よろしいのでしょうか……?」
「私なんか、と言わないでください。私は、あなた“が”良いのです。あなたでなければ駄目なんです」
にこりと微笑みながら勇が答える。
「は、はい。わた、私もイサムさんの事をお慕いしております。あの、その、不束者ですがよろしくお願いいたします」
途中で何度も言葉に詰まりながらも、どうにかアンネマリーが承諾の返事を返す。
「良かった。では、これを受け取っていただけますか?」
満面の笑みを浮かべたまま勇は立ち上がると、懐から何かを取り出し、アンネマリーの左手をそっと取る。
「それは?」
「私のいた世界では、結婚や婚約の申し込みをするときに指輪を渡すんです。そしてそれを、左手の薬指に嵌めます。結婚指輪とか婚約指輪とか呼ばれていましたね」
そう言いながら、勇がアンネマリーの左手の薬指にそっと指輪を嵌めた。それは淡い緑色をした金属のリングの表面に、銀色の複雑な模様と石がいくつもあしらわれた指輪だった。
「これはミスリルで作った指輪ですが、裏側と表に細かな魔法陣を描き、光の魔石と無属性の魔石を埋めた魔法具でもあります。この石が起動用です」
そう言って、いくつかある魔石の中のひとつにそっと触れると、指輪の表面が薄っすらと輝き始めた。
「綺麗……」
アンネマリーが思わずため息を漏らす。
「ふふふ、気に入ってもらえてよかったです。どうしても指輪型の魔法具を作ってプロポーズしたかったんですよね。私がこちらで初めて見て、作ったのが魔法カンテラ、光の魔法具でした。それを今持てる技術を全部詰め込み改良して指輪にしてみたんです。世界に一つだけしかない、世界で最も小さな魔法具だと思いますよ?」
「すごい……。こんなに小さいのにちゃんと光ってますね! 素敵な指輪をありがとうございます」
アンネマリーが指輪を愛おしそうに撫でながら、優しく勇に微笑んだ。
「にゃぁ……」
それをずっと黙って見ていた織姫が、小さく鳴いてそっと部屋から出ていった。
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