第85話 重量可変式ウォーハンマー
最初に着手することにしたのは、重量可変式打撃武器の試作だった。
「おはようございます、イサム殿。今度はどんな武器を作るのか、楽しみ過ぎて昨日は眠れませんでしたよ!!」
「あはは、おはようございますフェリクスさん。今日はお願いしますね」
朝食後、チームオリヒメのメンバーが工房へ集まっていた。
昨夜のうちに、隊長のフェリクスには新武器の開発の協力を願い出ていたので、騎士チームは寝不足ながら士気は非常に高い。
「今回作ろうと思っているのは、重量可変式打撃武器です。簡単に言うと、起動すると重くなるウォーハンマーですね」
「「「「??」」」」
勇の説明に、いまいち騎士チームはピンと来ていない様子だ。
「この中だと、ミゼロイさんがウォーハンマーとかモーニングスターとかの重量武器を偶に使うんでしたっけ?」
「そうですね。力が強くないと振りまわせないので、騎士団では私含め大柄なメンバーが使う事がほとんどです」
「じゃあ、重いハンマーと軽いハンマー、威力が高いのはどっちですか?」
「そりゃあ重いハンマーの方ですね」
勇の簡単すぎる質問に、戸惑いながらベテラン騎士のミゼロイが答える。
「そうですよね? じゃあ、軽いハンマーと同じ使い勝手の重いハンマーがあったらどうですかね?」
「そりゃあ便利ですね。より速く振れますし、狙いも正確になりますから……。あっ! そ、そういう事ですかっ!!??」
勇の言わんとしていることに辿り着き、驚愕するミゼロイ。
「正確には、重いハンマーだけど、威力はさらにそれ以上のハンマー、ですね。遺跡の魔物に硬い奴が多かったので、それ対策で威力のある打撃武器の必要性を痛感したんですよ」
「確かに……。フェリスの強化型でも、斬るのに苦労しましたからね……」
遺跡での戦いを思い出して、フェリクスが言う。同行していたミゼロイとリディルも渋い顔で頷いていた。
「剣の性能もあるとは思いますが、あれは相性の問題も大きいと思うんですよね……。遺跡は深く潜るほど魔物が強くなると言ってましたから、ああいう硬い奴が今後も出てくるはずです。今回作ろうと思ってるのは、そういう硬い奴らと相性の良い打撃武器で、手元の操作で重くしたり元に戻したり出来るようにするつもりです」
「そ、そんな事ができるのですか!?」
勇の常識外の発言に、ミゼロイが思わず聞き返す。
「ああ。この前のメタルリーチな、あれに土の魔力を流すと重くなることが分かったんじゃ。それを使って、重さを変えられるハンマーを作るんじゃ」
ミゼロイの問いかけにエトが答えた。
「メタルリーチにそんな特性が……」
「多分まだ誰も知らない事だろうね。全く次から次へとまぁ……」
絶句するミゼロイに苦笑するフェリクス。そんな二人の事など気にもかけず、勇は早速試作を始める。
「エトさん、大雑把な方向性として、メタルリーチを芯にするか外側にするか、どっちが良いですかね?」
「加工の楽さで言ったら芯じゃろうな。ただ、鉄よりメタルリーチの方が硬いからな。外側にして突起を付けるのが良さそうじゃ。幸い魔力で軟らかくなるから、芯にするより大変というだけで、大した差は無いじゃろ」
「確かにそうですね。じゃあ、細かいところは後で仕上げるとして、ひとまず作りましょうか」
「そうじゃな」
炉で溶かした鉄を、普段使っているウォーハンマーのヘッドの半分くらいのサイズの型に流し込み、芯となる部分を作製する。
冷めたところで、魔力を通して柔らかくしたメタルリーチを型取りし、芯の外側へくっつける。
魔力を通した状態のメタルリーチは、別の金属に吸着する性質があるようで、接着するのは簡単だった。
土の魔石が起動スイッチも兼ねているので、握りを細工して最上部に埋め込めるようにしておく。
試作なので、魔法陣は柄とヘッドの底面に描いておいた。
これで、重量可変式ウォーハンマーの試作品の完成だ。
「ミゼロイさん、試しに振ってもらって良いですか? 起動させるまでは、普段のものとほとんど差は無いはずです」
「わかりました」
勇が差し出したウォーハンマーを、ミゼロイが片手でひょいと受け取り、ぶんぶんと軽く振るう。
迷い人の門で計測したステータスによれば、勇の力は一般人の平均より高く貴族の平均程度だったはずだ。
その勇が両手でなんとか振りまわせる程度、片手だと持つことは出来るが到底振り回せない、そんな重さなので、武器としては相当重い部類であろう。
それを片手で軽々と振るうのだから、ミゼロイの膂力たるやいかほどのものなのだろうか。
「確かに、この状態だと元のウォーハンマーとの違いは感じませんな。何も問題ありません」
片手と両手で、何度かハンマーを振った後、頷きながらミゼロイが答える。
「良かったです。では、起動させた状態で振ってみてください。起動させた瞬間1.5倍くらいの重さになると思います。その先も、起動させたままだとどんどん重くなるので、少し試したら停止させてくださいね。あまり重くすると、柄が耐えられないので……」
「了解しました。では早速試してみたいと思います」
そう言うとミゼロイはハンマーを持って裏庭へと出ていく。
専属の護衛部隊が出来て研究所を増築した際、裏庭には騎士達が訓練で使う案山子も何体か設置されていた。
ミゼロイはその中でも一番大きくて頑丈そうな案山子へと歩いていく。
「一先ずはそのまま振ってみます」
そう言うと、両手でウォーハンマーを振りまわしては案山子へとぶつけていく。
ブンッ、ゴスン。という鈍い音が響き渡る。
「若干表面が硬くなっている感覚はありますが、この時点では大きな違いは無いですね」
十回ほどぶつけてから、手を止めてミゼロイが感想を零す。
「では、次は起動させてみます。いきなりだと怖いので、まずは重くした状態で振ってみますね」
そう言うと、緊張した面持ちでウォーハンマーを構え、手元で起動させた。
「むっ!!? ……なるほど」
その瞬間驚きの表情を見せたが、小さく頷くと軽く素振りを始めた。
ブゥン、ブゥン、と先ほどより心持ち音が低い気がするのは気のせいだろうか。
五回ほど振りまわすと、一旦その手を止めた。
「……これは凄いですね。確かに1.5倍くらいの重さになっている感じです。この重さであれば、まだ振るえる重さなので大丈夫ですが、時間が経つと厳しいですね。やはり仰る通り、当たる時に上手く重くするのが良さそうです」
まじまじとウォーハンマーを見ながら、起動・停止を繰り返すミゼロイ。
「では、次は当たる時に重さを変えてみます」
今まで以上に深く腰を落として構え、三度ハンマーを振りまわし始める。
「ぬっ……!」
ゴリッ
「ふんっ!」
ゴッ
真剣な表情で打ち込み続けると、次第に玉のような汗が額に浮かんでいく。
「せいっ!!」
ドゴンッ!
数分後、ひと際大きな掛け声とともに放たれた一撃が、大きな音を立てて案山子を直撃したところで、ミゼロイが手を止めた。
「ふぅぅぅ……。これは何とも奇妙な感覚ですね」
大きく息を吐き、流れ落ちる汗を拭きながらミゼロイが口を開く。
「重くした瞬間、急に止まるような感覚は無かったですか?」
一番の懸案を口にする勇。
動いている物体に、速度ゼロの重量が追加で加算されると、おそらく急制動がかかるはずなのだ。
現実にはそんな状況が起きる事は中々無いので分からないが、ハンマーの頭がすっぽ抜けるなど急に軽くなった場合は急加速する事になる。それの逆の現象が起きるのでは?と勇は危惧していた。
「それは無かったですね。振っているものが急に重くはなるので、当然力を加えないと減速したりコントロールが覚束なくはなりますが、急に止まるような感覚ではないです」
先程までの状況を思い出しながら、ミゼロイが答える。
「なるほど、であれば良かったです」
ほっと胸を撫でおろす勇。
どうやらこの謎物体は、重量が増えてもその時点の重量に合わせた速度は担保してくれるらしい。
そうであれば、インパクトまでの間さえ耐えることが出来れば、増加した重量に見合う威力が期待できる。
「ただ、持てないほどの重さだと、こちらが引っ張られるか手からすっぽ抜けそうなので、振りまわし続けるのは厳しいというくらいの重さにしておいた方が良い気がしますね」
ミゼロイの懸念はもっともだろう。
「そうですね。後は当たった時の衝撃や反動も大きくなりますから、あまり重量差があるとリスクが大きそうな気がします。頑張れば短時間使える重さの武器を、頑張らなくても使える、というレベルに留めておくのが無難かもしれませんね」
「そうですね。今よりもう少し重くても扱えそうなので、その重さにしていただければ、出発までには慣れておきますっ!!」
「分かりました」
その後、うずうずと見ていた他の騎士達も試してみたが、膂力が足りず実戦投入は無理との判断が下った。
こうして重量可変式打撃武器については、フェリス5型試作タイプと命名の上、ミゼロイ専用として開発する事が決定、当日の内に増加重量微調整の上引き渡された。
いわば自分専用の魔法武器を手に入れたことになったミゼロイは、数日の間喜色満面で、裏庭からは訓練する音が一日中聞こえてきていた。
噂では、ベッドに持ち込んで一緒に寝ていたという。
うっかり起動させてベッドの底が抜けなければ良いのだが、とその話を聞いた勇は苦笑するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます