第83話 楽しい実験
「じゃあ次は風属性でいってみますね」
勇はそう言うと、今度は
そして変換した魔力を、メタルリーチへとゆっくりと流し込んでいく。
「ど、どうじゃ?」
固唾を飲んで見守るエトが、好奇心と心配が入り混じったような表情で尋ねる。
そのまま数秒魔力を流し込んでいると、変化が起き始める。
「ん? ……んんん???」
首を軽くひねりながら、尚もしばらく魔力を流し込み、ようやく得心したように頷くと、魔力の供給を止めた。
「風は、土の逆ですね。軽くなってると思います」
「今度は軽くなったか!!」
「ええ。念のためエトさんも試してみてください」
そう言ってメタルリーチをエトの手に乗せると、再び風属性の魔力を流し込んでいく。
「おおっ!? 確かにこれは軽くなっとるな!」
手の中のメタルリーチを見ながら大喜びするエト。
「さぁ、どんどんいってみましょうか!」
そう言って、残りの属性も次々と試していくのだった。
途中魔力を回復させながら1時間ほどで一通りの属性を流し終えた勇とエトは、結果をまとめた紙の前で休憩しながら話していた。
「いやぁ、色々と変化しましたねぇ」
「そうじゃな……。こりゃあらためてとんでもない発見じゃぞ??」
実験の結果、それぞれの属性に対する変化は、以下のようになった。
土:重くなる
風:軽くなる
水:弾力が出る
氷:艶、滑らかさが無くなる
光:色が変わる
火:不明(目に見える変化なし)
雷:未実施(勇がまだ覚えていない属性の為、実験できず)
水属性では、無属性の魔力を流した時とはまた違い、ゴムのような感触になる。
魔力の量を増やすと、低反発のゲルのような感触になっていった。
氷属性と光属性は、見た目の変化が劇的だった。
まず氷属性だが、魔力を流し込むにつれてどんどん美しかった光沢が無くなっていき、それと合わせて表面から金属特有の滑らかさも失われていった。
最終的には、コンクリートの塊のような、グレーでザラザラした物体に変化した。とても元がメタルリーチだったとは思えない物体だ。
光属性は少し変わっていて、魔力を流すと色がどんどん変化していった。
銀色だったものが、魔力を加えると徐々に赤っぽく変色していき、それが黄色を経て緑、水色、青へと変わり、最終的に紫色になって変化が止まった。
おそらく光の波長の長い順なのだろうと勇は予想していた。
火属性については、現段階では何が変化しているのか分からなかった。見た目も変わらず、重量や質感にも変化が無い。
他の属性が全て何かしら変化したことから考えて、変化していないとは思えないので、例えば熱伝導率といった内部的な特性が変わったのだろうと仮説を立てておいた。
雷属性については、現時点では勇が習得した魔法が無いため、覚えてから再度実験することになった。
そして、属性による変化以外にもう一つ分かったことがあった。
変化の量は、魔力を流す時間ではなく魔力の総量に比例し、また上限があるという事だ。
例えば光属性の場合、1秒間に1の魔力(勇基準)を流し続けると、10秒で黄色になるが、1秒間で10の魔力を流せばすぐ黄色になる。
そして100まで流すと紫となり、それ以上流し続けても変化しなかったのだ。
最初の土属性の実験の際、エトのアドバイスを受けて少ない魔力から試して良かったと密かに安堵した勇。もしいきなり大きな魔力を流していたら怪我をしていたかもしれない。
「しかしこれ、魔力を流し続けるには触れていないと駄目なので、使い道はよく考えないといけないですねぇ」
椅子にもたれ掛かりながら勇が言う。
「そうじゃの。手に持って使うようなものが候補じゃろうな。武器が真っ先に思い浮かぶが……。ある程度は集中せんと、魔力の属性変換は出来んのじゃろ?」
魔法を使えないエトが勇に尋ねる。
「そうなんですよ。むしろ、魔法を使う上で一番集中が必要なのって、魔力の変換までなんですよねぇ」
苦笑しながら勇が答える。
「まぁ呪文が不要な分、会話はある程度できますから、使いどころ次第なのかなぁと思いますけどね」
「なるほどのぅ」
面白い素材ではあるが、特性変化が魔力を流している間のみなので、意外に使いどころが難しいなぁ、と実験に飽きてメタルリーチの欠片や魔石を転がして遊んでいる織姫をぼんやり見やる。
「こーら、姫。魔石で遊んじゃダメだって言った……。いや待てよ、魔石か……」
途中からブツブツと呟き始める勇。
「んなぁ~~?」
名前を呼ばれたような気がした織姫は、不思議そうに首を傾げていたが、またすぐに遊びだす。
「エトさん、確か起動陣って、何の魔石でも良かったですよね?」
思い出しながら勇が尋ねる。
「ああ。無属性が安いから無属性を使っとるだけで、どんな魔石でも大丈夫じゃ」
針金の先に毛玉を括りつけたおもちゃで、織姫にちょっかいを出しながらエトが答える。
「ですよね。…………よし、ちょっと試してみるか」
そう言うと勇は、小さな基板にシンプルな起動陣を描いていく。
魔石から最小の出力で魔力を取り出して流し続けるだけのものだ。
書き上げると、メタルリーチを魔力の放出位置、通常であれば機能陣へと接続する場所へと設置する。
そして“土の魔石”を基板へセットした。
「!!! そうか、属性魔石の魔力を使うつもりかっ!」
「ええ。こうやって起動陣と同じ感じで魔力を取り出して流し込んでやれば、いけるんじゃないかなぁと。遺跡でも強引に別の基板に魔力を流せたので、メタルリーチに流せてもおかしくないですよね?」
「うむ、確かに……」
腕組みをしてエトが唸る。
「さて、それじゃあ早速起動してみますね」
そう言って左手に基板とメタルリーチを乗せると、右手で土の魔石に触れ起動させた。
「……」
「……」
無言で見守る勇とエト。重くなっても良いように、勇は基板を両手で支え直す。
そして……
「きたっ!!!!!」
10秒ほど経ったところで勇が叫ぶ。
「なぬっ!!??」
ビクッとしながらもエトが聞き返す。
「おぉぉぉっ! 重くなってきてますよ、エトさんっ! ほらっ!!」
満面の笑みで勇がエトの手に魔法陣をグイグイと渡そうとする。
「ちょ、ちょっと待たんかっ! ……おおっ!! 確かに重くなっとるの!!!」
強引に乗せられた魔法陣とメタルリーチから徐々に増加していく確かな重みを感じて、エトも興奮気味に言う。
「お、おい、イサム! そろそろ止めろ!! 重いっ、重いっっっ!!!」
それを聞いた勇が慌てて魔法陣を停止させる。
「ふーーーっ、重かったわい……。しかし起動陣から直接魔力が流せるとはの……。これで応用範囲が一気に広がるぞ?」
手をプラプラさせながらも、エトの目は輝きに満ちている。
「ええ。しかも最近、外部から魔力調整できる方法も手に入れましたからね。かなり色々出来そうな予感がしますよ?」
勇も楽しみで仕方が無いという表情だ。
「まぁ、メタルリーチの量が量なので、あれもこれもは無理ですから、どう使うのが良いか考えないといけませんけどね」
そう苦笑しながら勇が付け加える。
「それは仕方なかろう……。オリヒメのおかげで、ほぼ完全な状態で一匹分手に入れられたんじゃ。普通魔法で倒すか叩き潰そうとするから、歩留まりが悪いんじゃ。贅沢は言えん」
エトの言う通り、生きている間に身体から離れた部分は、変色して素材としては使えなくなるらしいのだ。
ハンマーのようなもので叩き潰すと、半分くらい飛び散ってしまい、素材として使える量が減ってしまう。
今回織姫は、一瞬で四つに切り裂き絶命させたため、ほぼ100パーセント使える。
バレーボールより一回り大きいくらいの量があるので、考えて使えばいくつか作る事も出来るだろう。
「そうですね! イノチェンティ辺境伯領へ出発するまであまり時間はありませんけど、役に立つものを一つでも作りたいですね!」
「そうじゃな。まぁ、あと五日あれば、一つ二つは作れるじゃろ? ものにもよるが」
「ふっふっふ、また楽しみが増えましたね、エトさん」
「くっくっく、そうじゃのうイサム」
研究所で見つめ合いながら怪しく笑い続ける二人。
「にゃっふぅ」
それを見た織姫は、やれやれとばかりに大きなあくびをすると、勇の足元で丸くなるのだった。
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