第43話 魔槍とデッドコピー対策

 思わぬイベントがあったが、興奮が冷めてきたところで勇があらためて本題へと立ち返る。

「これ、突きでも効果が変わらないなら、剣だけじゃ無くて槍なんかに使っても良さそうですよね?」

「「!!」」

 その勇の何気ない一言に、ディルークとリディルが思わず顔を見合わせる。


「確かに……。これは槍にも使えますね」

「ああ。集団戦の場合、むしろ主戦武器は槍だからな。この剣ほどの効果が無かったとしても、多少威力が上がるだけで大違いだ」

 混戦や遭遇戦でもない限り、集団戦の主戦力は槍の組織運用である。

 剣より遠距離から攻撃できるし、集団だと基本は突くか叩くだけなので運用も容易だからだ。


「魔槍と呼ばれるものも極少数は存在しているが、集団運用出来ないため、単体で使い勝手の良い魔剣程評価はされていない……。もしイサム殿の力で、魔槍が量産できるのなら……。戦術の概念が変わるな」

「そうですね。一当てで削れる数が増えますし、盾を貫ける確率も上がりますからね」

 二人の言う通り、集団運用される武器の威力底上げは、そのまま軍団としての戦力底上げに直結するので、非常に効果が高い。


「……しかし、それはそれとして、やはり”魔剣”は良いですね」

「ふふふ、そうだな。魔槍の話と魔剣の話は別だ」

 真面目な話をしていたと思ったら、話は魔剣に戻って来た。

「イサム殿、先ほど仰っていたように槍にも応用できるかどうかを確認してもらえないでしょうか? また、それとは別に魔剣も是非作っていただきたい」

 そんなお願いを、ディルークから強く依頼される。


「ええ、元々剣は作るつもりでしたし。ちょっと効果時間の検証をしたいので、少し時間がかかりますけど」

「む。検証をすると言う事は、この魔剣は持ち帰られる、と言う事か……」

 あからさまに残念そうな表情をして、名残惜しそうに魔剣もどきを見るディルーク。

 しかしそこへ、リディルが見事なキラーパスを入れてくる。


「イサム殿、その効果時間の検証、我々でも出来ないでしょうか? 使用した時間とその時間内で行ったことを書き留め、魔石の効果が切れるまでどれくらいかかるか測ればよいので??」

「ええ、それで十分ですよ。お願いしても良いですか? お願いできれば、私の方は槍の実験に取り掛かれるのでありがたいですけど」

「「お任せ下さい!!」」

 ディルークとリディルの声が見事に重なる。そしてこそこそと内緒話をする二人。

(でかしたぞ!リディル!!)(はっ!)

 大の大人が、玩具を手に入れることに成功した子供のようなやり取りをしていたが、それはそれだ。


「じゃあお願いしますね。あぁ、そうだ! 忘れてた!! 効果の度合いを変えた剣があと2本あるんですけど、これの検証も合わせてお願いしちゃっても良いですかね? 今試してもらったのと比較して、切れ味と効果時間の違いを調べて欲しいんです」

 そう言って、脇に置いてあった包みから二振りの魔剣もどきを取り出す。


「なっ?! 別の魔剣がまだあると……?」

 さらりと新しい魔剣を取り出した勇に驚愕するディルーク。リディルは目を見開いて言葉も出ない。

「はい。一応理論上の切れ味上昇の効果は、最初の物より高いはずなので、最初は注意してくださいね」

「これより、効果が、上……?」

「ええ。どの程度効果が違うのか、全く分からないですけどね。魔法コンロの時は、消費魔力を増やしても一定以上はあまり効果は上がらなかったので、これもそうなるとは予想してます」

 まるで料理の塩加減の話であるかのように語る勇に、聞き耳を立てていた騎士達も絶句している。

「それじゃあ、よろしくお願いしますね~!!」

 そんな事はお構いなしに、話すべきことは全て話したと、勇はひらひらと手を振りながら詰所を後にした。


 数秒後。

 再び騎士団詰め所に嵐が吹き荒れた。

 ただでさえ魔剣の凄さを見せられているのに、さらにそれより上のモノが目の前にあるのだ。

 取り合いにならない訳がない。


 自分達がすでに魔剣を体験しているディルークとリディルは、現時点で嫉妬の対象になっているため取り合うなとも言えない。

 結局、切れ味の違いの比較だけは、二人が試すしか無いためさっさとそれを終わらせて、以降の効果時間検証は、騎士団全員で行う事となった。


 騎士団の全精力を注いで行われた事で、魔剣の効果時間検証はその翌日には終了してしまう。

 30分交代で24時間体制の検証を行ったそうだ。

 その結果、最初に試した最も効果を低くしたものでおよそ20時間程度稼働し、デフォルト値の物は8時間程度、その倍の数値の物は2時間程度で効果が消滅する事が分かった。

 一日で20時間稼働させると言う脅威の稼働率が、騎士団のテンションの高さを如実に物語っているのだった。


 切れ味については、デフォルト設定のモノでは横木を綺麗に切るには至らず、最高設定のモノはギリギリ断ち切るに至ったとの報告を受けた。

 セルファースとも協議した結果、主戦兵器として量産するのは稼働時間が最も長いモノとし、奥の手として最高設定のモノを少量生産する事になった。

 魔物討伐の遠征や、何日も戦場に駐留する事も多いため、瞬間風速より継戦時間の長さを優先させた方が良いとの判断からだ。

 ただし、強力な魔物対策や緊急時用に、戦況を覆せる可能性のある切り札は有用なので、最高設定のモノも生産自体はするに至った。


 一方、効果検証を騎士団に任せた勇は、翌日から早速魔槍もどきの作成に取り掛かった。

 効果がシンプルだったため、効果範囲の調整程度で大した苦労も無く魔槍もどきの試作に成功する。

 再びの騎士団によるテストを受け、こちらは効果時間が最も長いモノだけ量産が決定した。


 こうして騎士団によるお祭り騒ぎを経て、魔剣もどき並びにそれを応用した槍の量産が決定するのだった。


 また、懸案だった実装場所についても改良が施される。

 まず起動陣については、柄を縦に2分割できるようにした上で、挟み込むように柄の中に入れ込む形にした。

 そして機能陣は、強度を落とさない程度に刀身の中央に浅い窪みを作り、その中に陣を描く事で削れにくくなる事が判明し、採用された。


 そしてさらに……


「なるほど、こうして上からメッキで覆う訳か」

 出来上がった魔剣もどき改を眺めながら、セルファースが感心する。

「はい。あくまで魔石の粉が入ったもので描いたもののみが魔法陣として認識されるようなんです。なので魔石が入っていないモノであれば、上から塗っても魔法陣には干渉しないので、目隠しにはもってこいでした」

 勇が行ったのは、簡単なセキュリティ対策だった。


 コンロのように、隠れて真似されたとしても金銭的な損失しかないならばまだ良い。

 だが、武器となると話は別だ。

 魔法陣は見た目を丁寧に真似をすれば、意味が分からなくても複製が出来てしまう。

 その為の登録制度であり罰則なのだが、大量に売らない限りなかなか発見できない事も事実だ。


 もし敵対勢力に鹵獲されたり盗まれたりした場合に、真似をされると自分たちの首を絞めることになってしまう。

 特に今回作ろうとしている武器については、販売せず身内だけで使う想定の為、魔法陣登録も当面行わない予定なのだ。

 そのため、簡単には真似できないセキュリティ対策が必要だと、勇は最初から考えていた。


 エトとヴィレムに相談した所、ヴィレムが金でメッキされていると思われる魔法陣があったことを思いだした。

 古代の権力者が、見た目を豪華にするために行ったものだと予想されるが、機能を損なっては意味が無いので、メッキしても動くのだろうとアタリをつけて実験した所大成功。

 万一メッキを剝がされても解析が困難なように、剝がれにくい偽銀と白魔銀の合金によりメッキを施している。

 これで、無理に剥がそうとしても魔法陣そのものも剥がしてしまうため、余程の事が無い限り複製されることは無いだろう。


 ちなみに白魔銀は、みんなのあこがれ魔銀ミスリルの一種で、薄緑をした真魔銀より安く流通している金属だ。

 勇はその名前を聞いただけでテンションが上がり、皆に若干白い目で見られていたのだった……。


「うん。これなら鹵獲しても複製は困難だろうね。いやぁ、まさかそこまで考えて作ってくれてるとは……。そこまで全く気が回らなかったよ。ありがとう、イサム殿」

 そう言ってセルファースが深く頭を下げた。

「いやいやいや、そもそも魔法の武器を量産する、と言う概念があまり無いでしょうから、当たり前かと。うまく行く方法があって何よりでしたよ。ヴィレムさんがいなかったら、せっかくできた魔剣もどきもお蔵入りする所でした」

 苦笑しながら勇が答える。


 しかし苦労した甲斐もあり、魔剣および魔槍の量産配備が始まる事になる。

 クラウフェルト家の戦闘力を大幅に底上げする道筋が、ひとつ増えたのだった。


 ちなみに、機能陣の上からメッキをした事で起動時の光がはっきりと見えなくなってしまった為、一部の騎士が非常に残念がっていたとかいなかったとか。

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