第38話 新たな魔法陣(2)
「最初にお話ししたように、すぐにでも魔法具として使えるレベルの魔法陣は三つあります。火の魔石を使うものが一つと、土の魔石を使うものが二つです」
「ふむ。土の魔法具とは珍しいね」
「そうなんですか?」
「ああ。珍しいと言うか、民生用として珍しい、と言ったほうが正確だね」
セルファースの言う通り、土の魔石を使った民生用の魔法具は、あまり多くは無い。
元になる土属性の魔法は、その名の通り土や砂、石を生み出したり干渉したりする魔法だ。
家庭で土や石を使う機会と言うのは、そうそうあるものでは無い。
それは旧時代も同じだったのか、民生利用出来そうな魔法具はあまり発見されていないのだ。
代わりに軍用や公用の物は種類が多く、土の魔法具と言えばそちらの方が一般的だ。
最も有名で活躍している土の魔法具は、城壁などの土や石で出来た壁を強化する魔法具だろう。
残念ながら強化の効果は永続的では無いので、定期的なメンテナンスは必要だが、使うか使わないのかで強度がまるで違うため、砦や街、城の外壁などには必須と言える。
ここクラウフェンダムの外壁も、この魔法具を使用して強化がされている。
弱い魔力を常に流しながら常に強度を維持するタイプのものと、十日ほど続く効果を一時的に付与するタイプのものがあり、燃費だけで言ったら後者の方が良い。
城や砦のように、範囲が広くメンテナンスが大変な場所は前者を、貴族の館のようにそこまで規模が大きくない場合は後者と使い分けている。
個人向けのものだと、金属を強化できる小型の魔法具が上位の冒険者や騎士の鎧に組みこまれ、魔法の鎧と言う体で使われているのが一番多いだろうか。
「なるほど……。それだと今回の魔法陣の一つは個人用では無いもの、もうひとつは個人用と言う感じですね」
「ほぅ、個人用の物もあるのか……。それぞれどんな効果の魔法陣なんだい?」
「まず公用の物ですが、これは石を生成する魔法陣ですね。実際に動かしていないので、どんな石が出来るかは不明ですが……。いくつか数値を設定するようになっているので、ある程度の範囲で好みの石が生成できるのだと思います」
勇からしたら、なんのパラメーターも設定せずに”石”を生み出すと言われても、「それ何の石だよ?」となるので、この仕様には何の違和感もない。
しかし他の者にとってはそうでは無いらしい。
「おいおいおい、そりゃ本当か? レンガやら砂やらを生み出す魔法具はいくつも知ってるがよ、好みのもんが作れるなんて話は聞いたことが無いぞい!?」
エトが皆を代弁するように大声で叫ぶ。
「ええ、本当ですよ。ただ数字を変えると何が変わるかハッキリしないので、はやく実験してみたいですね!」
「ふふ、どういう結果になるのか楽しみでもあり怖くもあるね……。じゃあ個人用の方はどんな魔法陣だったんだい?」
「個人用のほうは、地味ですけど結構アタリと言うかやばいものだと思います。刃物の切れ味を良くして、それを保つ魔法陣です。どの程度切れ味が増して、どの程度の時間それが持つかは分かりませんが……」
「それは……。結構どころか大当たりじゃないかね??」
「あ~、やはりそう思いますか?」
「ああ。さっきの石を作る奴はまだしも、こっちは当面秘匿することになるだろうね。ただ、領軍に行き渡らせる事が出来るなら、相当強力な武器になるから、イサム殿と領地を守るには何とも心強いよ」
「そうね。こちらの魔法陣は最優先で実用化を図るべきね」
勇も、これはかなりヤバイ部類のものだと薄々勘付いていたが、やはりそうらしい。
「丁度良いから、イサム殿にも話しておこうか……。旧魔法を使った時にも少し言ったと思うけど、イサム殿の
ただ、イサム殿を欲する人間が、全て善人であるとは限らない。いや、手に入れようと具体的に動くものは、善人では無い確率のほうが高いだろうね。我々も自分の事を棚上げして言っているから、決して善人では無いがね……。ただ、無理やり自分たちの為にイサム殿を使おうとは決して思っていない。そこだけは信じて欲しい」
「はい。もちろんそこは信頼しています。そもそも、どんな
「ははは、ありがとう。信頼してもらえて嬉しいよ。しかし、その
「そう、ですね……。
「イサムさん……」
「ふふ、貧乏子爵に嬉しいことを言ってくれるね……。まぁそうなると、やはり存在がバレた時にどうしたら良いのか? と言う話になる。私と妻は、悩んでいたんだが、アンネが簡単だと言うじゃないか」
「そうでしたね……」
「ああ。我々が強くなれば良いだけだ、とね。ここで言う我々と言うのは、個人だけでは無く領地全体でという意味だ。要は簡単に奪えると思われているから危険なのであって、迂闊には手が出せないと思わせれば良いだけの話だと。そしてそのために、イサム殿の
そこまで一気に話して、セルファースは勇をじっと見つめた。
「綺麗ごとで誤魔化すなら、持ちつ持たれつ、とでも言うのかな? でも実際はそんな良いモノじゃない。君の力を利用させてもらおう、と言うだけの話だ。それを知って尚、イサム殿は力を貸してくれるのかい?」
「ええ、もちろんですよ」
勇は笑顔で即答する。
「さっきも言った通り、拾っていただいた恩がありますからね。むしろ最初に有用な
あ、強くなると言うのであれば、今回の魔法陣は確かに大当たりですねぇ。何か武力とかに繋がるようなのって、ヤバイんじゃないかと思って考えないようにしてましたが……。そういう事なら、今後は武器とか防具への転用も視野に入れて魔法具をつくりますから、一緒に強くなりましょう!」
「そうか。一緒にか……。ありがとう。あらためて今後もよろしく頼むよ」
「もちろんです! さーて、そうなると今回の魔法陣の試作は急がないとなぁ。他のも色々使えそうだし……。あ、ちなみにもう一つの火の魔法陣は、火を起こすヤツでした。ただ、火力の調整が色々出来るようなので、内容によっては化けるかもしれないです。何にせよ、また色々な魔法具を作って行きますね!!」
セルファースとしては、随分と重たい話をしたつもりだったのだが、当の本人は気にも留めていなかったようだ。
勇は、すでにそんな話をしていたことも忘れたかのように、どんな魔法具を作るかの話でエトと盛り上がるのだった。
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