市役所へ!?

 では、4度目の質問タイムです……

 前のパートが本当に地獄のような会で、書きながら当時の記憶がだんだんフラッシュバックして、少しずつ気分が悪くなってしまいました……


 Q.完璧な翻訳は存在すると思いますか?


 少々哲学的な問題かもしれません。今までの3回の質問は全て渡航証申請に直接関連するような質問でしたが、これがなんと後々になって大きな問題として私たち家族に襲いかかってきます。

 注釈程度でいいのですが、私が見たあの必要なもの一覧は、おそらく原文が台湾で使われる繁体中国語であるものを日本語に翻訳したものだと思われます。

 

 では、おつかい編です。お楽しみください!

 

 * * *


 金曜日。明日からお盆休みが始まるため、私の住むマンションの駐車場の半数以上の車がおそらく帰省でいなくなっていました。

 蝉の声と熱風、そして太陽による暑さと強い日差しのフルセットは未だ健在。窓を開けるなんてあり得ない、エアコンこそ正義! という言葉がピッタリな日でした。


 とても家から出るような日じゃないのに、私は家から出る必要がありました。

 住民票の印刷とレターパックを購入する必要があったからです。

 できれば1時間くらいで済ませたいなぁという願望を胸に、私は灼熱の世界に身を投じました。流石に言い方が大げさでしょうか?


 移動中に言われたのですが、パスポートと在留カードのコピーは、父がしてきてくれたらしいのです。

 これらは私たち家族が日本にいるための超重要資料なので今回はいいと言われ、父が一人一枚ずつ、白黒で印刷された計六枚の紙を見せてくれて、それで終わりまし

た。


 ですが、私でもできるレターパックの購入と住民票の印刷はまだ残っています。ミスをしないよう、私はもう一度念入りに確認をしました。


住民票1つ

・レターパック520を1つ


 「記載省略のされていない住民票……?」


 意味のわからない単語に私は顔を顰めました。元々郵便局から市役所に向かう方が順路だったので、私は先に郵便局へ向かい、レターパックを買うことにしました。

 

 父と一緒に車に乗り、まずは郵便局へ。黒い座席シートは暑さにやられ、座れないくらいに熱かったです。

 郵便局に入ると、まさかの行列ができていました。久しぶりに郵便局内に入ったので、前に入ったときの記憶など無く、とても新鮮でした。


 受付の方の声が小さく聞こえるくらいで、それ以外の雑音は一切耳に入らない閑静な室内。天井からはテレビが吊り下げられていて、音がないからか、字幕の存在感が非常に強かったです。


 入ってすぐにカウンターに目を遣ると、まさかの行列ができていました。そして、今受付をしてもらっている人の側には大きな箱が一つ。

 そしてその人はその大きな箱から丁寧に1個ずつ小さな箱を取り出し、スタッフさんに手渡していきました。


 何かのインターネット販売業者でしょうか。少なくとも、私には初めて見る光景でした。個人販売だったら大手の郵送会社とのつながりもないので、こうして郵便局に来て1個1個送るのも当然か、という結論に勝手に至りました。


 普段から行列になるのか、わかりやすいように仕切りが置かれていて、その角には地域の特産物の宣伝がされていたり、郵便局の郵送料金が変わるお知らせがされていたり。

 ハガキの郵送料が85円になることに私は思わず目を大きく開いて2度見してしまいました。今までは確か60円くらいだったはずなのに……と、悲しみに暮れているのも束の間、大量に郵送物を出していた人が列を離れると、スムーズに行列は解消されました。


「レターパック520を一つ、お願いします」


 少し口ごもりながらもなんと言い切ると、受付のお姉さんは素早くレジの下から赤い封筒を取り出しました。

 あまりの大きさに思わず後ろに引いてしまったのですが、そんな私を気に留めることもなく、お姉さんは黄色いシールを指差して言いました。


「送るときは、このシールをはがして送ってください。それで、追跡のサイトがあるのでこの番号を入力すると追跡することができますよ」


 さっき口ごもったせいか、お姉さんはゆっくりと私に説明してくれました。

 非常にありがたかったのですが、生憎これを使うのは私ではないので、適度に相槌を打ちつつ、お金を払って私は郵便局をあとにしました。


 次に、住民票の印刷です。これはマイナンバーカードさえあれば、コンビニでもできる所業なのですが、「記載省略されていない住民票」がどんなものかわからなかったので、私と父は市役所へ向かいました。


 市役所も普段の生活では特に行く用事もない場所なのですが、こちらも最近改修工事が終わったばかりで、どうなっているのか楽しみでした。

 自動ドアを通ると、昔のあのグレーで少しヒビが入っているかのような床の面影はなく、ピカピカの綺麗な床になっていました。

 改修後だからか、新しい建物あるあるのあの木の臭いが鼻孔をくすぐりました。

 天井は高く、奥を見ると自動発券機まで置いてありました。用事ごとに別々のカウンターが用意され、中央は待機所になっていて、ちょっと高級そうな椅子がたくさんありました。


 発券機で番号の書かれた紙をもらったのですが、待ち人数は0組だったので私たちはすぐにカウンターに通されました。

 椅子に座り、カウンターの奥を見ると、たくさんのパソコンが並んでおり、大人の方々が雑談を交えながら仕事をしていました。中にはコーヒーを片手に談笑する人まで。


 職場が新しくなったからみんなやる気が出てるのかなぁと、なぜか受付をされる側の私が温かい目で見ていました。

 すると、見た目40代後半〜50代前半の、イキイキとしたおじさんが爽やかな挨拶と共にやってきました。


「お待たせしました」


 そう言って席についてパソコンを起動するのと同時に、父が言いました。


「記載省略がない住民票を、印刷したいんですけど、できますかね? 」


 すると、おじさんは首を傾げました。私は「これです」といって、確かに必要なもの一覧には記載省略のされていない住民票と書いてあるのを見せると、おじさんはボードを一つ取り出しました。


「ここに記入をお願いします」


 そのボードには、住民票を印刷するのに必要な個人情報を記入するためのシートでした。

 おじさんと父が何か話をしている傍らで、全ての項目を埋め終わった私は、おじさんにボードを渡すと私たちはなぜか待機所に戻されました。

 どうやら私が書いているときに父が話を進めていてくれたようなのです。


 待機所の椅子は想像していたものより硬かったですが、改めて辺りを見回すと、だいぶ変わったなぁという印象でした。

 おまけに2階もあるようで、時間があまり残されていなかったので行きませんでしたが、次は2階にも行ってみたいです。


 そして無事、印刷された私の住民票を受け取り、私たちは足早に市役所を出ました。というより、父の歩くスピードが速かったのです。


「ねえ、歩くの速いけどこの後スーパーとか行くの? 」


 確かに予定の時間は既に過ぎていましたが、別に遅くなっても大したことではなかったので父に問うと、父は言いました。


「顔写真」


 その単語で、私は前に書いた、個人情報関係の書類に顔写真を貼る欄があったなぁというのを思い出すと同時に、嫌な予感がしました。

 車に乗り込むと、案の定行き先はセブンでした。


「はぁ……」


 忘れていた私も悪いのですが、顔写真だけは特別、嫌な感情がありました。

 なぜなら、正式な書面に貼る顔写真は服装から顔の表情、顔のパーツ、そして写真の大きさまで厳格に定められていて、どれか一つでもアウトになると差し戻される仕様だったからです。

 幸い、今回は前にパスポートの更新のために撮った写真を使いまわしましたが、あのような証明写真を撮るのは二度とごめんです……


* * *


 さあ! 帰宅して用意した書類を整理し、あとは予約した時間に領事館に行って実際に手続きをするだけ!

 次回、じゅじゅ氏ついに領事館へ行く! デュエルスタンバイっ!

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