地獄の書類制作

 3回目の質問ターイム! いきなりですが読者様へ質問ですっ!

 Q.このあと私に降りかかる災難とは!?


 ではぜひ、本編を読んでご自身で答えを確認してください!

  今回は少々投げやりな感じになっていますが、クイズが思いつかなかったとか決してそんなことはないです……


* * *


 先生からサインをいただいた日の夜、夕食後にベットに寝転んで優雅にショート動画を垂れ流していた私に父は新たに別の書面を2つとスマホを渡して言いました。


 「あとこれだけだから。それと、住民票とかは今度印刷しに行くよ」


 父の言葉を聞いた私の脳内には? マークしかありませんでした。

 え? あの同意書だけで終わりじゃないの? まだあるの?

 修学旅行に行けないのは流石に嫌なので、私はすぐに書面とスマホに目を通しました。そして、それによって得た数々の衝撃の事実。


 いろいろありすぎて私はしばらくその場に固まってしまいました。


 まず、私が追加でもらった書面について。

 私が追加でもらった書面は個人情報を記入するものと、台湾に行くときのフライトから帰りのフライトまでの全ての行程を記入するものでした。


 これだけで既に絶望でした。というか、個人情報を記入するのはまだ百歩譲って理解できるのですが、なぜ行程表まで!?

 私、もしかして束縛される!? 修学旅行中に私が行程表に書いたこと以外をしないように監視してくる凄腕の黒服黒メガネのスパイがいるのか!? と、映画のような展開が頭をよぎりました。


 次に、私は父が口にしていた「住民票」という言葉を思い出し、スマホを開きました。すると、表示されたのは渡航証の申請のために必要な書類一覧でした。


 暗い部屋の中、電気もつけずに私は画面に釘付けになってどんどんスクロールしていきました。

 これがまた、頭がオーバーヒートしてしまうくらいに複雑なものでした。まず、渡航証の種類によって必要な書類が違っていました。私が最初に読んでいたのは留学の項目だったので非常に危なかったです……

 他にも永住者用の項目や、仕事に台湾へ赴く人用の項目など、さまざまな目的によって分かれていて、必要な資料も違うところがありました。


 私の場合、表面上は修学旅行ですが、滞在日数は旅行とさほど変わらないため、観光の欄を見ました。

 観光にいくための渡航証に必要なものは以下の通りでした。


・家族3人の在留カードを持参とそのコピー

・家族3人のパスポートを持参とそのコピー

・記載省略がされていない住民票1つ

・父からもらった書類3枚

・渡航証郵送のためレターパック520を1つ


 これを見た瞬間、私は大きくため息を吐きました。


『多すぎやろーーーー!!!!』


 昨晩怒られたばかりなので口にはせず、あくまでも心の中で叫びました。

 在留カードにパスポートに住民票に……あぁ、レターパックは郵便局に行けば買えるんだっけ……と、私の頭はすっかりオーバーヒートしてしまいました。


 それからしばらくして。私はなんとかオーバーヒートした頭を冷まし、書類を埋めることにしました。

 エアコンの送風音が少しだけ聞こえる、両親2人とも静かに仕事をしているリビングで、私は項目ごとに頭を抱えながらなんとか書類を一度ボールペンで全て埋め切りました。


 行程表を書くときに、まるで自分の生活を本当に間近に監視されているようで気は進みませんでしたが、全ては修学旅行のため……


 再びオーバーヒートしかけた頭を休めるべく、私はソファーにダイブし、再びショート動画を見ようとした時でした。私の記入し終えた文書を確認した母はすぐに私を呼び戻しました。


 母の声は少し圧を帯びていたような気がしました。既に頭を使い果たしてクッタクタだった私に母を上手く応対する気力は残っておらず、ただただ母の言うことを聞くだけでした。


 「じゅじゅ、あなたちゃんと模範のPDF見た? 」


 ため息混じりに母が言うと、私は数時間前の記憶を想起しましたが、その中に模範のPDFという文字はありませんでした。


 「え、なにそれ。模範とかあるの? 」


 刹那、いつの間にか換気で開いていた窓から夜風が、たばこの臭いを纏って吹き抜けました。反射的に窓を閉め、私はもう一度必要な書類一覧を見直しましたが、どこにも模範PDFはありませんでした。


 母が私の手からスマホを引き抜くと、開かれていたページを閉じ、私にスマホを差し出しました。すると、そこにはしっかり「模範①」「模範②」と書いてありました。

 つまり、模範PDFは別のファイルにあったのです。


 普段なら「そんなのわかるか! 」と声を大にしていうところですが、そんな体力があるはずもなく私は再び大きなため息を吐きました。

 やり直しです。そして、既に瀕死状態の私に母が追い討ちをかけやがりました。


「あと、模範の通りに埋め終わったら次はパソコンね。実際にこれと同じようにデジタルの書類を作って印刷するわよ」

「……は? 」


 やり直しを終えた後にさらにパソコン作業……おでこに右手を当て、頬を試しに左手でつねって見ましたが、熱はあるはずもなく、すごく痛かったです。何かの間違いで夢だったらよかったのに……


 泣き喚いている時間などなく、私はすぐにもう一度模範の通りに書き直し、パソコン作業へ移りました。

 普段なら初めて使うプラットフォームに好奇心が湧いて、変に弄りたくなるのですが疲れ切った私にそんな感情などなく、Adobeを開き、不慣れな作業が始まりました。


 母に簡単にテキストの打ち込み方を教えてもらった後は全て自分で。

 フォントだったり、テキストのサイズ、移動や拡大・縮小に大苦戦を強いられました。

 矢印がどうしても斜め方向にしか出ず、斜め方向にしか拡大できないときは怒りでどうにかなってしまいそうでした。


 マウスを握りしめる右手にはこれ以上ないくらいに強い力が加わって、手汗でマウスはびしょびしょになってしまいました。

 長い時間のモニターとの睨めっこを経て、完成した時には私は既にふらふらでおぼつかない状態だったと思います。とにかく頭が重かった記憶しかないです。


 翌日、完成した書類を家のコピー機で印刷して、無事……かどうかは怪しいところですが、書類制作を終えました。

 その解放感はまだ終わってない夏休みの課題を終えたときの達成感を先取りしたのかってくらいの、すごく大きな解放感でした。

 

 終了後、ベットに飛び込んでまもなく私は眠りに落ちました。


 残されたミッションがあることに気にも留めずに数日はあっという間に経ち、私は郵便局と市役所に行かされることとなるのは次のお話……

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