すくう

@youmu_yowashi

本編

いつもの日の帰り道、また赤ちゃんポストに子供が捨てられていた。今月だけでもう三人目だ。こんな事を平気でする人間を愚かしく思いながらも施設への新しい子供の参入には私自身ワクワクが隠せない。その子をすくいあげた腕の中に温かい子どもの体温が伝わり、心のなかになにか心地よい感情が広がる。少し感傷に浸っていると降り出した雨とともにポタポタと子供の顔に水滴がかかった。おっと、早く施設に戻らないと。口元を拭って施設へと足を進めた。施設の賑やかな音を聞きながら裏口を使って中に入り、赤ちゃん用の部屋でその子を寝かせる。たとえ捨て子であっても幼子の寝顔はかわいいものだ。思わず口角が上がってしまう。今日は施設のみんなでパーティーをする予定だ。下準備のために調理室へと向かう。調理室では、みんなで囲むための大きな鍋が用意されていた。ちょうどメインの具材が煮込まれ始めるところで、調理室にはちょっとした緊張が走っている。まあ、この分なら滞りなくパーティーも進行するだろう。ちょっとした下準備を済ませ、大部屋へ向かった。扉を開けると、仲間たちが一斉にこっちを向いてきた。不安そうな目や期待をしている目が私に向かってくる。


「今日は、ひとりすくえたぞ!」


私の大声を聞いて一瞬静まり返った大部屋が大歓声に包まれた。そう、だって今月はさっきの子を合わせて三人もすくえたんだから騒がずにはいられない。奥から大きな鍋が運ばれてきて、またいっそう歓声が大きくなる。中央に置かれた鍋の中身をみんなが一斉にすくいだす。私もまた身を乗り出して、うつわに具をすくった。口にした肉からは温かい子どもの体温が伝わり、心のなかになにか心地よい感情が広がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すくう @youmu_yowashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画