第4話
チモキさんの家は、すごく散らかっていた。獣の足跡みたいな、僅かに見える床を踏みながら、奥を目指す。マイクは当たり前のようにすたすたと歩いていくけれど、ボクは上手く歩けなかった。こんなところを歩くのが初めてだったっていうのもあるかもしれない。でも、なんとなく、この雑然とした感じを踏み壊してしまいそうで怖いとも思っていた。
先を行くマイクの足が、積まれた何かの箱に触れて、それがコロンと落ちた。ボクはそれが落ちたままだと床を踏めないから、よいしょ、とそれを元に戻してから、また歩く。
ようやく机と椅子があるところにたどり着いた時、ボクの心は、少し弾んだ。
その部屋もまた、ひどく散らかっている。そして、散らかった部屋の床から、にょき、と生えたように、机と椅子がある。
まるで、海原を旅する大きな船と、小さな船みたいだ。
汚い家とか、汚い部屋と言ってしまったらそれまでだけれど、物たちがここに、自分が過ごす日常とは異なる世界を作り出していると思うとワクワクした。
「おまたせ~。どこにしまったかわからなくなって、探すのに時間がかかってしまったよ」
「散らかしすぎだからだよ。相変わらずだなぁ。頭の中も? ごちゃごちゃしたまま?」
「えへへ。まぁ、これでこそ私だからね。……ん? なんだかキラキラした目をしているね。トッド」
「この家に来た人はたいてい〝げぇ、汚い〟って顔するのにね」
マイクはごくごく自然に、チモキさんが持ってきてくれたお茶やお菓子を並べる手伝いをし始めた。
「そうそう。実際問題、汚いからさ。そういう顔をされてもどうとも思わないんだけれど。なんだか、キラキラした目で見られると、急に恥ずかしくなるね」
「ご、ごめんなさい」
「ん? トッドは今、なんで謝ったんだい? 私はちょっと恥ずかしいけれど、とてもうれしい気持ちなんだ。キミは謝らないといけないようなことなんて、していない」
「あ、はい……ごめんなさい」
「ごめん、が口癖になっちゃっているのかな?」
「ってかチモキさーん。お茶が冷めるー」
「おお、ごめんごめん。って、あれ? 私も〝ごめん〟って言うの、口癖かもしれない。ホッホッホ。じゃあ、似た者同士、かんぱーい!」
「ってかチモキさーん。俺、仲間外れにされてるー?」
「そんなことないよ。ほら、マイクも。かんぱーい!」
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