第3話


 ずんずん歩くマイクの後ろを、ボクはそろそろとついて行く。

 草むらを歩き、林を抜けた。街からだいぶ離れた、ひと気のない、なんだかちょっと寂しい雰囲気の場所に、ぽつんと小さな家があった。

「こんにちはー!」

 マイクは扉を叩いたりすることなく、家全体を包み込みそうなほど大きな声を出した。

「あれ、聞こえなかったかな。こーんにーちはー! ……うーん。おい、トッドも言え」

「え、ええ?」

「こんにちはって叫ぶだけ。簡単だろう? ほら、ほら! せーのっ!」

 ボクは大きな声を出すのが得意ではないから、あんまりやりたくなかった。でも、嫌だとか、叫ぶ代わりにできることを提案する間もなく「せーのっ!」と言われてしまったから、オドオドしながら空気を肺いっぱいに吸い込んで、

「こーんにーちはー!」

 生まれてから一番なんじゃないかってくらいの大声を出した。

「まって? ねぇ、マイク。なんで言わなかったの?」

「ふはは! お前ひとりの声でも届くだろうって思ってさ。ごめんごめん」

 ニコッと笑いながら謝られた。ボクは怒りみたいな感情を見失った。

「もー」

 ボクもニコッと笑う。

 そうして二人して笑っていたら、キィと音がした。ドアのほうからだ。

「やぁ、マイク。と、キミは、ええと――」

「ト、トッドです。こんにちは」

「こんにちは。私はチモキ。マイクはここへ来る必要なんてないだろうから、何かモヤモヤしたことを抱えているのは、キミかな? トッド」

「おいおい、俺だってモヤモヤすることはあるぜ?」

「ホッホッホ。そりゃ失礼」

 チモキさんは、ふんわりと微笑みながら、ボクのことを見つめた。今、チモキさんの顔に浮かんでいるのは、優しさとか、そういう温かい心に見える。ようこそ、っていう歓迎の気持ちが、濁りなくそこにある。

「えっと、その……。ボクです。モヤモヤしてるの。それで、マイクに話をして、ミヤナさんの所へ行って。ミヤナさんに、チモキさんの所に行ってみたら? と言われて、それで」

「そっかそっか。うーん。ミヤナの所に寄ってから来た、ということは、コーヒーを飲んで来たでしょう? どうしようかなぁ、コーヒーじゃつまらないよねぇ。うーん」

「お、お気遣いなく」

「ああ、いや。気遣いといえばそうなのかもしれないけれど、私は客人をもてなしたい性分でね。うーん……あ、そうだ! いただきものなんだけどね、ここぞという時に飲もうと思って、大事に取っておいたら、もうすぐ賞味期限が切れそうなハーブティーがあるんだった!」

「ってかチモキさーん。早く家の中に入れてよー」

 マイクが口を尖らせて、不満を露わにしながら言った。

「おお、ごめんごめん。さあ、どうぞ。すぐにお茶を淹れるからね。奥に机と椅子がある。座って待ってて」

「はーい!」

「おじゃまします」



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