第2話


 ミヤナさんは家の外にいた。

 歩いてくるボクたちに気づいて、笑顔で手を振ってくれた。

 握手できる距離まで近づいて、挨拶をする。マイクが間髪入れずにここへ来た理由をペラペラと喋り出す。すると、

「それは困ったわねぇ。もうすぐ――。ああ、ごめん。こっちの話。さあ、中に入って」

 なんだろう。ミヤナさんが今、何かを隠した。心が少し、モヤモヤする。でも、敵意のような何かを感じなかったからだろうか。ボクの心から、それはゆっくり消えていく。

 

 部屋へ入って席に着くと、ミヤナさんがコーヒーを出してくれた。

 ボクは苦いコーヒーがあまり得意じゃないから、カップに四角い砂糖をいくつも落とした。

「おい、いくらなんでもいれすぎじゃね?」

「え、そうかな。マイクはいくつ入れたの?」

「んー? 一個」

「少なくない?」

「え、別にヘーキ」

 ボクとマイクが砂糖の数について話していると、ミヤナさんが突然、くつくつと笑い始めた。

「何個入れたっていいんだよ。コーヒーの香りを楽しみたいのなら、少ない方がいいかもしれないけれど。コーヒーを飲みやすくしたいなら、たくさん入れたほうがいいって人もいるからね。その人が、〝こんなコーヒーが飲みたい〟って思うくらいに入れればいいんだよ」

「じゃあ……、えっと?」

「二人とも、多いんじゃない? とか、少ないんじゃない? って思うことも、それを問いかけることも自由なの。でも、そうだなぁ……。今はお互いに、その先に踏み込んだりはしていなかったけれど、もしもその先に踏み込んだら、こうしなよって強制されたりしたら、どう思う?」

「あっそ、って感じかなぁ」

「そっか。トッドは?」

「えっと、ボクは……ボクがいけなかったんだって思って、シュン、とする、かな?」

「なるほど。マイクは気にしないけど、トッドは気になるんだね」

 ミヤナさんにいわれて、ボクはハッとした。似たようなことを言われても、人によって感じ方は違くて、その先に膨らむ気持ちもまた違うってことを、ふんわりとは理解していたように思う。でも、今、それがはっきりした気がした。

「もしかしたら、ケイくんとのこともさ、感じ方や考え方の違いが関係しているのかもね」

「うーん……」

 考える。何か、感じ方の違いを押し付けてしまうようなことを言ったか、思い出す。でも、そんな覚えはない。

「もし時間があるなら、チモキさんのところにも行ってみたら? チモキさんならきっと、モヤモヤを晴らしてくれると思うよ」

「俺、時間あるし、チモキさんの家、知ってる!」

「トッドは?」

「えっと、時間は、ある。チモキさんの家は、知らない」

「じゃあ、連れてってやるよ。ミヤナさん、コーヒーありがとう」

「どういたしまして。また来てね。いつでも歓迎するから」



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