転生者return

紅葉ひいらぎ

第1話

冷たい風が吹く日、僕――霧野零斗は湖の中にいた。


身体中から熱が奪われていく。


指の先の感覚もなくなり、呼吸ができない苦しみも、もはや感じない。


『死ぬ時ってこんな感じなんだな。』


頭の中が黒一色に塗り潰されるような不快感。


まるで自分の意識が誰かに奪われているような――。


「!?」


死んだはずの僕はそこで目が冷めた。


辺り一帯何も無い。


思わず声を上げてしまう。


そう、『何も無い』。


暗闇すらもないのだ。


そして何より...


「どなた...ですか?」


目の前に立っている綺麗な人に目が向いた。


いや――『人』というのは間違いだ。


その女性の背中には大きな純白の翼があった。


その女性はこちらを向くと、両手を組み、目を瞑った。


「霧野零斗さん。貴方は亡くなられました。」


心底悲しそうに、天使彼女は告げる。


「私、豊穣と審判の神 《ミラリス》より、心から哀悼を捧げます。」


深々と頭を下げ、


「まだ若い貴方には、まだ明るい未来もあったでしょう。幸せな人生が待っていたことでしょう。

いつか運命の人と出会い家庭を持つことも出来たでしょう。」


気付くと僕の目からは涙がこぼれ落ちていた。


「貴方の人生が何物にも変えられない物だというのは分かっています。」


僕を優しく抱きしめながら天使ミラリスは告げる。


「代わりにはならないでしょうが、貴方に第二の生を差し上げましょう。」


泣き続ける僕の背中を彼女は優しく擦り続けてくれた。

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転生者return 紅葉ひいらぎ @momizi_hory

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