5 スヴェータとのお昼ご飯(上)


 午前の授業がすべて終わり、昼休みがやってきた。

 チャイムが鳴ったと同時にクラスメイトたちが思い思いの動きをみせる。

 慌てて教室を飛び出していく人だったり、周りやほかのクラスの友達同士で集まっては机をくっつけ合ったり、はたまたひとり自席でもくもくと弁当にありつく人だったりとさまざま。

 ちなみにこの学校には弁当持参のほか、学食という手もある。慌てて飛び出していった人たちは学食を目指しているのだ。

 なんでも、早くいかないと席が埋まっちゃうらしい。鞍馬のやつも学食組なので、脱兎のごとく駆け出していってたな。


 そんな状況をのほほんと眺める僕は弁当持参派である。母さんが毎朝、作ってくれる手作り弁当をカバンから取り出し、顔をあげた。

 視線の先、そこにいた女子生徒と目が合う。相手はもちろん、スヴェータだ。

 手に小さな包みを持った彼女は、そのままの足取りでこちらにやってきた。


 「(ツムギ、今日も一緒に食べましょ?)」

 「(もちろんだよ。いつもみたく屋上に行く?)」

 「(えぇ、その方が気楽だわ)」


 苦笑いを浮かべるスヴェータ。

 その見た目や立ち振る舞いから常にみんなの注目を浴びてしまう彼女にとっては、お昼どきも例外ではない。

 最初のころは教室で食べてたんだけど、食べてるところまでじろじろ見られるのが耐えられなかったとのことで。

 まぁ、僕も同じ立場だったらそんなの嫌だもんな。お昼ご飯ぐらいリラックスして食べたいもの。

 そんなこんなで人気の少ないところを探し回った結果、屋上が一番過ごしやすいってことを発見した。

 以来、僕らは屋上でお昼をとるようにしてるのだ。



 そろって教室を出て、近場にあった階段をのぼっていく。一番上までたどり着けば、屋上へと続くドアが現れた。

 施錠はされていない。ピッキングでむりやり開けたわけじゃなくて、もともと開いてたのだ。

 べつに立ち入り禁止の場所じゃないし、ときおり僕ら以外の生徒たちが使っている光景もあったりするし。

 

 「っ、相変わらず寒っ……!」


 ドアを開けたとたん、押し寄せる風にぶるりと身体が震えてしまった。

 お昼どきで太陽が真上にあるとはいえ、時期的にはまだ春先といったところ。ブレザーを羽織っている程度では心もとないほどに冷えた。

 チラと隣を見やれば、まったく動じる様子のないスヴェータの姿が目に入る。

 と思いきや、首筋を手であおぎ始めたではないか。


 「(ふぅ、今日も暑いわね……)」

 「(や、やっぱり向こうに比べたらこんなのへっちゃらなわけ?)」

 「(そうね。むしろ暑いくらいかも。ツムギは、寒いのよね?)」

 「(う、うん、まぁ……)」

 「(ごめんなさい)」


 ふいに小さくスヴェータが頭を下げる。僕の頭にはてなマークが浮かんだ。

 べつに謝られるようなことをされた覚えはないし、寒いのは風のせいであって彼女のせいではないのだから。

 それとなく伝えてはみたけど、スヴェータに納得した様子はみられなくて。


 「(だって、ワタシのワガママでアナタに辛い思いをさせてるから……)」

 「(ワガママだなんて、ぜんぜん思ってないよ。僕が寒さを覚えるより、スヴェータがご飯を美味しく感じられない方がずっと辛いよ)」

 「(ツムギ……)」

 「(それに、ご飯はひとりより二人で食べた方が美味しいからね。場所なんて関係ない)」


 せいいっぱいはにかんでみせれば、スヴェータの顔に笑みが戻ってきた。どうやら納得してもらえたらしい。

 妹直伝「飯友になるための極意その一」がこんなとこで役に立つとは思わなかったな。

 帰ったらめいっぱい褒めてあげよう。

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日本語がわからない銀髪美少女を助けて以来、異文化交流を図るようになりました(ただし、距離感はすごく近いものとする) ゆずみかん @m-zhu

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