老害

@KYOMU299

居眠り運転

 Aこと俺はもう82歳になる。

いわゆるトラックの運ちゃんというやつだ。

最近は視界もぼやけるし、腰痛はひどい。

医者からはかつて煙草を飲んでいたために肺を患っていると言われたが病名は忘れてしまった。

結婚はしているが、あいつは認知症を患って働くことはおろか、散歩もできやしない。

一人息子は嫁ももらって順調だそうだ。

ん?俺はなにを考えていたんだったか…

ああ、そうだ。この深夜の高速道路を俺はいま走っているんだった。

それで少しボーっとしてしまっていたようだ。

最近はこういうことも増えてきた。

現実と思考の境目が曖昧になる時間。

いかんいかん。

最近はこういうことも増えてきた。

あれ?さっきもこう考えたような?

まあ、何でもいいが。


 数年前、俺は退職を申し出た。

理由は明快だ。


「老化」


こいつは気が付いたら俺の体を蝕んでいた。

日常生活を送るにはいささか不便だ。

だから、今の仕事を続けるのは厳しいと判断した。

だが、俺は今も働いている。

これも理由は明快だ。


「人材不足」


今は特に深刻だ。

おかげで俺のような化石ジジイが働くことになる。

おかげで気分はシーラカンスだ。

後進育成は進まない、なりたい奴が少ないうえに免許の取得までに数年もかかる。

さらに今は類を見ない宅配ブームだ。

アマゾンだかなんだか知らんが、どいつもこいつも気軽に頼みやがる。

需要は高まるのにこちらの供給が追い付かない。

そのうえ時間が決まっている。

間に合わなかったらもちろん怒られる。

しかも、法改正かなんだか知らんが連続運転時間が制限されている。

そんな中でも時間順守は変わらない。

間に合うわけねえじゃねえかよ!!

…と、怒っていても仕方がない。

今日も俺は変わらず運転する。

なんか、心臓が痛いような…

あ、これまずいかもしれな


そういえば医者がなにか言っていたような気がするが、今となっては元の木阿弥だ。

なんせ俺は死んだのだから。お!救急車が来た来た。


その後

まず年齢と事故の原因が報道され民衆に伝わる。

そして、ネット上で炎上する。

燃えて燃えて燃えて

息子の名前、学校、顔写真、住所、仕事場、その奥さん、俺の嫁、etc.


よくもまあここまで調べ上げたものだ。

民衆主体の国際警察かよ。

世の中、暇な奴が余っているらしい。

そんなことする暇あるならネットで頼まずに自分の足でものくらい買いに行けよ。


こうして俺は「老害」となったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

老害 @KYOMU299

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画