第9話 未来

 運命の歯車は容赦なくまわる。

 年下の他国の王女に、私は最愛の王子を獲られる。国中や世界中に報じられている結婚式の1週間前に。


 最愛の王子にふられて、婚約破棄をされ、心にひどい痛手を負い、ショックのあまりに周囲への注意を怠った私は不慮の事故で死んでしまう。


 これが、私のオリジナルの運命だったはずだ。


 しかし、私は一年前の1867年6月20日に死に戻った。


 意図せずに自分が振られて死ぬ未来を知ってしまった私は、最愛の王子の求婚に応じないことを決めた。


 王子の求婚に応じない罰として、生きては戻れない場所である死の砂漠への追放を命じられた。


 そこまでして王室は、王子と私の結婚を前に進めようとしたのだ。


 私は目の前の若い美しい男性の瞳を見返した。アルベルト王太子は金髪碧眼だった。私の目の前にいる若い男性も金髪碧眼だ。彼は一体何者なのだろう?


 私と婚約するはずの王子は君主になる運命だった。

 

 それは誰も疑わない事実だ。

 誰一人疑う人はいない…。


 灼熱の砂漠の真ん中に建つ家で、彼がベッドの上に身を起こした私の耳にそっとささやいた言葉は、誰もが予期せぬ言葉だった。


「アルベルト王太子は亡くなり、あなたが君主にならざるを得ない」


 私は呆然とした。そんなはずはない。すぐに否定した。


「ブランドン公爵家に王位継承権はないわ」

「今はね。だが、間もなく恐れる未来がやってきて、君が君主にならざるを得なくなる」


 彼は私をじっと見つめて言った。執事のレイトンもメイドのテレサもミラも私たちのやりとりを固唾を飲んで見守っていた。


 ――意味が分からない。


「あなたのグリーンアイは特別だ。あなたはもしかして、自分の能力を今まで隠していましたね?あなたがこれほどの魔力を有することは知られていないことだったはずだ」


 彼は私をじっと見て言った。


 確かに私の魔力の強さは秘密だった。魔力を有することは知られていたが、私の魔力の強さについては父以外には知らないはずだ。


「一体全体、あなたは誰なの?」


 私の質問に彼は微笑んだ。


「これはこれは。ご挨拶が遅れて申し訳ございません、女王様。ミコーブルコハラのルイです。魔術大学の学生です」


 私は闇の禁書を盗んだ学生を匿ったということになる。目の前のルイと名乗ったキラキラと輝くような美貌の男性を私は見つめた。若い。過去の人生で目にしたアイドルのようだ。私は唇を噛み締めて、どうすべきか考えた。


 私が君主にならざるを得ない事態とは、暗い内容に違いない。王位継承権を持つ者が根こそぎ亡くなる事を意味している。そんな未来が本当に待ち受けているのか?


「そもそもアルベルト王太子には愛人がいたんだ」


 ルイは、爆弾発言を私にささやいた。


「宮殿の侍女と、あなたの親友だ」


 私の目から涙が溢れた。唇が震えた。知りたくなかった真実が見えた時、目に見えて世界は暗くなる。絶望感を前に打ちひしがれてしまうから。


 嘘よ!


 思わず、私は叫んでいた。


 1867年6月21日、私は過酷な未来が王族に待ち受けていること知ったのだ。私が君主になるなんて、バカげた冗談だ。


 だが、やがてそれが真実となる日がやってくる。


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