第13話 周辺地図を手に入れよう


 次の日。

 パンと紅茶で腹ごしらえし、ハンターギルドへ向かう。地理がさっぱり分からないので、周辺地図を手に入れる為だ。

 ララノアみたいに、格上のモンスターに襲われるリスクを下げるためにも……。


 ドアの前に立つと、爽やかな朝にはおよそ似つかわしくない罵声が飛んでいる。

 

 入るのやめとこうかな……。

 そんな事を言ってても仕方が無いのでドアをくぐり、そーっと中に入る。


「だーからー! お前ぇに伝言はしてねぇだろうがよ!」

「オイラ初めてパーティ組んで貰ったんス! オイラ……盾役タンクしか出来ねぇッスから、連れてって貰えませんか!? なんでもしますから!」

「新しいクラスの熟練度上げの為に連れて行っただけだよ! だいたいお前ぇ、ドワーフのクセに細すぎんだよ!」


 人族の男にドワーフの男がすがっている。

 ドワーフの中では背は高めで肌の色も薄めか、そして細い。ドワーフのイメージと言えば、色黒でガッチリとした筋肉質だ。見た目は正直頼りない。


「あぁ! しつけぇ!」

「うわっ!」


 細いドワーフの男は床に倒れ込んだ。

 金属製の鎧が床との接触でガシャンと音を立て、兜が僕の方に転がってきた。それをそっと拾い上げる。


「二度と声掛けて来んじゃねぇぞ!」


 受付の二人は表情も変えずに事務仕事に勤しんでいる。日常なんだろうか。


 ドワーフの男はゆっくりと立ち上がり、周りのハンター達に手当り次第に声を掛け始めた。


「一緒に連れてってもらえないッスか!? なんでもしますから!」


 必死だ……。

 僕は彼の兜を持っている。何度か目が合ったが、一向に声をかけてこない。


 そして皆に振られたドワーフ男性は、ゆっくりと僕の前に歩いてきた。


「えっと……兜ありがとッス。一応聞きくッスけど、オイラと組んで貰えないッスか……?」


 なんだろう、周りに声掛ける時と勢いが違うぞ。まぁ……彼が言えた事では無いけど、僕も細い。気持ちはよく分かる。


「えぇ、僕も今日は一人なんで構わないですよ」

「え、ほんとッスか!? オイラ『ドーリ』ッス!」

「僕はケントです。よろしくお願いします」


 なんか釈然としないけど、今日のパーティーが出来上がった。



「ドーリさん、周辺地図ってここで手に入るんですか?」

「あぁ、案内するっス!」


 そう言ってドーリさんは受付カウンター横の部屋に案内してくれた。


 部屋には大量の書物と魔石が並んでいる。


「地図とモンスターのステータスをここでッス」


 取り入れる?

 首を傾げていると、説明してくれた。


「ケントさん、心革しんかく持ってるッスか?」

「あぁ、二枚持ってます」

「じゃ、一枚を四等分して欲しいッス」


 言われるがままに四等分し、言われるがままに魔石の一つに被せた。

 すると淡く発光し、本を形成した。


「おぉ、スキルブックみたいですね」

「そうッスね。スキルブックも同じ要領で手に入れるッスから」


 心革とは魔石を覆っている膜で、肉体の死と共に剥がれ落ちて一枚の革の様になる。

 基本のスキルブック以外は、自分達で狩ってきたモンスターの心革を訓練学校に持って行って手に入れるらしい。

 心革は四等分までが有効である事から、パーティーメンバーは四人以下で組まれる事が多いようだ。



 周辺地図とモンスターの分布図、モンスターのステータスと名前。

 心革を四切れ使って、本を胸に当てて取り入れた。

 魔石をハードディスクだとすると、スキルブックやモンスターのデータなどは同じフォルダ名のファイルみたいなものだろう。最新の状態の魔石から新しいデータを得る。だからスキルブックは取り込んだら上書きされるって事か。


 全てのデータはハンター達が持ち帰ったものだ。この辺りが協同組合たる所以だろう。


「さて、オイラのおすすめはゴブリンッスね。オイラと一緒で、ほとんどが得意属性を持ってないッス」

「あぁ、盾役しかできないって叫んでたのはそういう事ですか。別に無属性攻撃スキルもあるでしょ?」


「……そうなんスけど、ちょっと事情があって盾役しか出来ないんス」

「そうなんですね……じゃあ、盾役はお願いしますね。僕はアタッカーに徹しましょう。今日はレベルと熟練度を上げたいんですよね」

「じゃあ、ゴブリンでサクサクッと上げちゃうッス!」




 北門を出て、ドーリさんについて行く。

 こないだ行った山とは逆方向、北東に向かって歩を進めた。


 ウィンドウには地図が表示されており、モンスターの大まかな生息分布が分かる。


 山の麓に差し掛かると、木陰に動くものを見つけた。

 体長は1メートルと少しか、身体は緑色で、右手には石を持っている。そのモンスターを目視すると、ウィンドウに名前とステータスが浮かび上がった。


【ゴブリン】

 体力  200

 攻撃力 190

 防御力 80


 想像通りの見た目だ。ただの石という原始的な武器を除けば。

  

『剛健!』


 ドーリさんは盾を構え、ゴブリンの前に立ちはだかった。

 俊敏は人族の方が上だが、ドーリさんが先に行動できるって事はレベルがいくつか上なんだろう。


『強撃!』


 僕はゴブリンに向け、ブロードソードを振り下ろす。


【Hit! 112】


 ゴブリンは体勢を整えて飛びかかり、盾に向かって持った石を叩きつけた。


【Damage! 32】


 ドーリさんの頭上にダメージが浮かび上がる。

 もう一度強撃で剣を振り下ろすと、ゴブリンは力尽きた。


【防御力上昇 Lv.1 を覚えた】


〚防御力上昇 Lv.1〛⁡

 常時、防御力を10%アップする。


 よし、早速スキルセットだ。


「ゴブリンの相手くらいなら剛健いらないかもッスね!」 


 確かに、ドーリさんが攻撃に回れば更に捗る。二人ならFランクのモンスター狩りはかなり楽だ。

 ソロではここまで効率的にはいかなかっただろう。

 

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世界の創造主が地上に降り立ったら帰れなくなりました 久悟 @hisago0625

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