第10話 火魔法を使ってみよう
滞在中のホテルでシャワーを浴び、ベッドに寝転んで物思いにふけている。
訓練学校の授業は大学の講義より何倍も楽しかった。自分が設定した事柄が、思わぬ方向に変化しているのも面白い。
ただ、素人が考えた設定だ。平和な世の中を作るのは思いのほか難しいようだ。
同族で殺し合ってもレベルアップする事に思い及ばなかった。思えば当然の事だ。
それに更に拍車をかける恐れがあるのが、レベル80を超える事による『魔石の覚醒』だ。
覚醒によって魔石が『魔晶石』へと進化し、大幅に寿命が伸びる。種族の英雄を育てる為の設定だ。現に各種族の王とその一部の側近が覚醒者だ。おそらく学長も。
今の所、二人の王と周辺諸国の王達が上手く抑えている。懸念材料はマルコスだ。
明日はいよいよ魔法の実技に入る。
考え込んでいたらもうこんな時間だ、早く休もう。
◇◇◇
午前中はゆっくりと過ごし、パスタの様な麺料理を食べた。この国は小麦の栽培が盛んな様だ。そろそろ米が恋しくなってきた。
学校の入口から右手に進み、事務所の裏手から中庭に出る。
学長とは扉の前で待ち合わせをしている。
「ケント君、待たせたかしら?」
「学長、今日もよろしくお願いします。いえ、さっき着いたところです」
「……今わたくしは、学長ではなく講師としてここにいます。エルミア先生と呼んで貰えると嬉しいですね」
そう言って今までで一番の笑顔を僕に向けた。
逆に怖い……。
「分かりました……よろしくお願いします、エルミア先生」
「宜しい。行きましょうか」
先生の後ろについて歩く。
学生達が講師に指導を受けている。皆が学長であるエルミア先生に礼をする。僕も周りにペコペコ礼をしながら歩いた。
大きな金属製の壁が、10メートル程を隔てて並んでいる。
他の生徒がその壁に向けて魔法を放っている。先生は一番左の壁の前に立ち止まった。
「さて、今日はこの壁に魔法を放って貰います」
「はい、よろしくお願いします」
僕の礼で、講義が始まった。
「さて、魔法とは自然現象の再現であると言いましたね? あなたの頭の中にある現象、つまり燃え上がる炎や吹き荒れる風、降りしきる雨。それらを魔法として発現させます」
ここからが大事だ。
校内一の術師の講義だ、基本をしっかりと学ばなくては。
「あなたの頭の中にある現象を発現させる方法。それは『意思表示』です」
僕は軍人がモンスターと戦っているところを何度か見た事がある。それに、すでにスキルを扱っている。そう言われてピンと来た。
「それは『言葉』ですね?」
「そう、察しが良いですね。意思表示に最も効果的な方法が、言葉を発する事です」
詠唱とはまた違う。
イメージを魔力により具現化する為に、言葉によって意思表示するのか。
「そういえば……先日戦ったジャッカロープが速度を上げて体当りをする時に鳴き声を発していました」
「そうですね、モンスターも同じです」
そうだ、アイテムボックスの出し入れも目視と意志表示だ。あれはスキルなのかそうでないのかよく分からないけども。
「火魔法から指南しましょう。覚える基本術は二つです」
火魔法の基本術。
先生は鋼鉄の壁の前に立ち、右手の平を開いて前に差し出した。
「ではまず、胸にある魔石の魔力を感じます。そして頭の中に燃える火の玉を浮かべ、言葉による意思表示により火の玉を具現化させます。それを、大気中の魔素を介して発動させる」
『
直径30cm程の火の玉が右手から放たれ、鋼鉄の壁に当たって弾けた。
拳大の火の玉を想像したけど……レベルが違った……。
「火の大小はステータスの差ですね、やってみましょうか」
「はい……」
初めての魔法だ。
右手の平を前に差し出す。
胸には魔石が埋まっている、これが魔力の源だ。目を瞑り、左手を胸に当てる。鼓動の代わりに魔力の躍動を感じる。
頭の中には燃え上がる火、それを球状にするイメージだ。後はこれを意思表示で具現化させ、大気中の魔素に乗せる。
目を見開き、言葉を発した。
『
僕の右手からは先生の半分以下か、直径10cm程の火の玉が放たれ、鋼鉄の壁に当たって消えた。
「出た! やりました先生!」
「あなたはかなり想像力が豊かなのですね。一回でそれだけの火球を放てる人はそうはいませんよ」
次に、少しの練習で手の平から
「火炎は範囲が広くはありません、お気になさらず。しかし、素晴らしいですね。講習が早く終わってしまいそうね……」
どうやら僕はセンスがあるらしい。
と言うよりは、ネットやテレビなど多くの映像、画像を見て育ってきた恩恵なのかもしれない。イメージがしやすい。
「まずはこの2つの基本術を習得し、精度を高めましょう。火と言っても様々な形がありますね? 螺旋状に立ち上る炎や、地を這う炎。それらを具現化させるのがスキルだと言いましたね」
基本を学び、応用する。どの世界でも同じだ。先人が編み出した物がスキルを自分の力で更に昇華させることもできるだろう。
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