第9話 魔法を勉強しよう
「魔法に属性がある事は常識ですね?」
「はい、火、水、風、光、闇の五属性と認識しています」
「そうですね。では話を進めます」
人々からモンスターまで、どんな個体にも得意属性がある。それが一属性なのか、複数属性なのかは各個体の素質だ。
「適性が無くても、その人の素質が無いわけではありません。適正無しで軍の将校になっている者も少なくありませんから」
戦士でも十分戦えたもんな。
さらに上のクラスならもっと安定するだろう。
「あなたは魔法を習得せずに戦士のスキルを使いましたね? それは無属性スキルです。魔力で攻撃力や防御力を増幅します」
本格的に魔法に関する講義が始まった。
「さて、魔法をどの様に発動させるかですが、モンスターの体内には何がありますか?」
体内?
素材の話じゃないな、魔法に関する物だ。
「魔石ですか?」
「そう、モンスターは魔素溜まりから生まれると言いましたが、厳密に言えばそれは誤りです。正確には
生きた魔石……?
「その言い方によると、モンスターが生物的に死ぬと、その魔石も死ぬと?」
「そうですね。ただの魔力を蓄えた石になります。使い道は様々ですね」
心臓みたいな物かな。
そう思ってハッとした。
胸に手を置いてみた。
「鼓動が……無い」
「え?」
「あっ! いえ、なんでもありません……」
学長が不思議そうな顔で僕の顔を覗き込んでいる。
僕の考えが正しいなら……胸に手を置いたまま質問した。
「僕達の魔石は、胸辺りにあるんですね?」
学長は頷いた。
「そう、わたくし達は元々モンスターです」
確かに、各種族もモンスターも魔石を持つように設定した。それがまさか、心臓の代わりとして機能しているとは……。
「魔素溜まりから生まれた魔石はモンスターとなり、自己鍛錬や他のモンスターを倒す事でレベルアップします。それが『魔石の成長』です。モンスターのランクはこうして上がっていきます。もちろん、我々もですね」
魔素溜まりから生まれた魔石の質などによってもランクは決まるし、レベルアップによっても成長するという認識か。
「モンスターの魔石は成長によって質が上がります。わたくし達の魔石もそうですね、密度が上がるといった表現が近いでしょうか」
そして魔石を体内に持つ者、つまり各種族達やモンスターの子供も同じ魔石を所持する。
「前置きが長くなりましたが、魔法を発動させる為のエネルギー源は、わたくし達の胸にある魔石です。ですから、誰しも魔法やスキルを扱うことが出来るのです」
まさか、僕にも魔石が埋まっているとは思わなかった……。
「そして一番大切な事を今から言います」
「はい……」
「魔法とは『自然現象の再現』です」
ん……? どういう事?
僕の反応が相当マヌケだったのか、学長は詳しく説明を始めた。
「あなたは、燃える炎を見た事がありますね?」
「はい、もちろん」
「滝のような雨を見た事がありますか?」
「えぇ、あります」
「では、身体が飛ばされるかと思う程の突風は?」
「ありますね」
「それらを再現するのが魔法です。そして、そのエネルギーの源が、あなたの胸にある魔石です」
うーん……。
まぁ、今は机上学習だ。
原理さえ分かればいい。
「以上が魔法に関する基本的なお話です。何か質問はありますか?」
「僕達は元々モンスターなんですよね? ではもしかして……かつての戦争で異種族関で殺しあった際には、かなりレベルアップした人がいたんですか?」
学長は静かに頷いた。
「はい、残念ながら種族同士で殺しあってもレベルは上がります。かつての戦争で大幅にレベルアップした者は多いです」
先生の顔から笑みが消えている。
「ただ皮肉な事に、その大幅なレベルアップのお陰で慈母龍イシュタリア率いるモンスターの侵攻を食い止められたのも事実です。二度と同じ事を繰り返さない様に、二人の王と周辺諸国の間で盟約が結ばれています。それを犯す者には最も重い刑罰が与えられます」
なんて事だ……平和な世界を創造したつもりが、とんだ火種を設定してしまってる……。
「もう一ついいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「僕は昨日、初期クラスのスキルブックを習得しました。魔法はスキルブックで取得出来ないのですか?」
学長は二度頷き、解答を口にした。
「いい質問です。魔法は自然現象の再現だと言いましたね? それを超える事は魔法では再現出来ません」
燃える炎、流れる水、吹き抜ける風。
それを超える物は魔法ではないという。
「武具に纏わる高温の炎、身体を癒す魔力の水、空を斬る風の刃。それらを具現化する力が『スキル』です」
「なるほど……では、スキルブックというのは誰が作り上げたんですか?」
「スキルブックは言わば『魔石の記憶』です。先人達が様々なクラスを生み出し後世に残っているからこそ、この国の平和が保たれているのです。先人達が残した大いなる遺産だと言えますね」
スキルブックは、魔石の記憶を上書きする物だ。新しいクラスのスキルブックを取得すると、前のクラスの固有スキルを喪失してしまうのはそういう理由かららしい。
「では、今日はここまでにしましょう。明日は同じ時間から外で実技に入ります」
明日はいよいよ魔法を放つ。
楽しみだ。
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